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慈悲のない魔法少女

 全ての授業が終わり、放課後。

 ようやく学園の授業という子供には少々辛い時間を乗り切った少女達は、それぞれ自由に動く。


「ねぇ、この後……あのカフェに行かない?」

「いいね、それ♪」


 ある少女は友達と一緒にカフェに向かい、


「はぁ~このあと補習か~嫌だな~」


 ある少女は補習のために教室に残ることになってため息を吐き、


「……」


 そして学校に入ったばかりの少年—――魔森蓮は静かに帰る準備をしていた。

 だが彼はただ黙って帰る準備をしているわけではない。

 帰る準備をしながら、教室から出て行く女子達を一人一人観察していた。


「……思ってたより多いな。魔神教団の奴ら」


 誰にも聞こえないぐらいの小さな声でポツリと呟いた。

 その時、一人の女子が笑顔を浮かべながら、蓮に近付く。

 委員長の水篠マリだ。


「魔森君。明日、暇?」

「え?ああ……一応、予定はないけど」

「なら明日、私が都市を案内するよ。ちょうど明日、学園休みだし」

「いや、そこまで迷惑はかけられない」

「いいのいいの。私が好きでしたくてやるんだし。それに魔森君とは仲良くしたいし。……ダメ、かな?」


 首を傾げて、上目遣いで蓮を見るマリ。

 蓮は顎に手を当てて、思案する。


「……じゃあ、お願いしようかな」

「OK!明日、午前九時に学園の門の前に集合ね」

「分かった」

「じゃあ……また明日。遅れないでね」


 陽気な笑顔で手を振りながら、マリは教室を出る。

 蓮は微笑みながら手を振り返す。

 だが前髪で隠れていた彼の目は、全く笑っていなかった。


<><><><>


 それから彼は教室を出て、廊下を歩いた。

 廊下を歩いていると、多くの女子学生たちが珍しいものを見る目で蓮を注視する。


「ねぇ……あれが魔法少女になれる男みたいよ」

「なんか地味な人ね」

「そうね。BL漫画ではイケメンに押し倒される人かしら」

「違うわよ。ああいう地味の男の人は逆にイケメンを押し倒す人よ」

「違う!絶対に受けの人!」

「いいや、責める方よ」


 一部の女子が受けだ!責めだ!とギャーギャー騒いでいたが、蓮は聞こえないふりをした。

 頬から一筋の汗を流しながら、彼は早歩きで廊下を通る。

 今でも受けだ!責めだ!という腐った女子の会話を必死に聞かないふりをして、蓮は学生寮に向かう。

 その時、


「いた!」

「探したよ、蓮兄さん」


 二人の少女の声が蓮の耳に届いた。

 声が聞こえた方向に彼は視線を向ける。

 視線の先にいたのは、エメラルドグリーンの髪を伸ばした双子姉妹―――エイナとエイミー。


「エイナ……エイミー」


 二人の妹を見て、蓮はホッと安堵する。

 そんな兄を、エイナとエイミーは心配そうな顔で見つめた。


「どうしたの?顔、汗だらけだけど」

「まるで狼に追いかけられている兎みたいな顔をしているけど……大丈夫?」


 妹たちを安心させるために、蓮は平然を装おう。


「大丈夫だ。ただ……男として大切なものを失うかもしれないという恐怖に襲われていただけだ」

「それ、大丈夫じゃなくない?」

「いったいなにがあったの?」


 本気で心配するエイナとエイミー。

 蓮は「大丈夫、大丈夫」と誤魔化して、話を変える。


「それよりどうした?俺になにかようか?」

「これから三人でお祝いしようって言ったでしょ?」

「え?ああ……そうだっけ?」

「もう!忘れたの?ほら行くよ、美味しいカフェを予約したんだから」


 エイナは蓮の腕を掴み、強く引っ張った。

 どうやら彼女はお祝いがしたくて仕方ないらしい。

 蓮は「分かった分かった」と言いながら、苦笑する。

 だが彼はどこか嬉しそうだった。


<><><><>


 学園を出た後、蓮達はとあるカフェでささやかなパーティーを始めた」


「それでは二人を祝して、かんぱ~い!」

「「かんぱ~い」」


 三人はジュースが入ったグラスを掲げた。

 グラス同士が軽くぶつかり、カーン!という音が鳴る。

 テーブルの上にはパンケーキやピザなどの料理が並べられていた。


「いや~それにしてもウチの学園に蓮兄とエイミーが入ってくるとは思わなかったよ」

「まぁ……色々あってな」」


 蓮はグラスに入ったジンジャーエールを一口飲んだ後、カフェの中をチラッと見渡す。

 カフェにいた女性客や店員は少し驚いた顔で蓮のことを見ていた。

 そして客の中には、鋭い目つきで見ている者が一人二人いることを蓮は見逃さない。


(ここにもいるのか)


 蓮は気付かないふりをしながら、ピザを食べる。

 彼がピザを食べている間、エイナとエイミーは楽しそうに話をした。


「エイミー。呪いのほうは本当に大丈夫なんだよね?」

「大丈夫。もう元気だよ」

「そっか。ならよかった……呪いが消えたのなら今度、遊ばない?エイミーが元気になったら連れて行きたいところがあるの!」

「どんな所?」

「夢屋っていう場所なんだけど。好きな相手をレイプする夢を見させてくれるんだって」

「ねぇ。なんでそんなヤバそうなところに私を連れて行こうとしているの?」

「え?だって好きでしょ?こういうの」

「私を何だと思っているの?レイプ魔だと思っているの?」

「だってエイミーの性癖ってレイプ系でしょ?好きな相手を無理矢理犯すのが好きだって電話で」

「ちょっと黙ってもらえる!?」


 エイミーはパンケーキをエイナの口に突っ込んだ。

 だがもう遅い。

 二人の会話を聞いていた蓮はピザを食べるのをやめて、呆然としていた。


「ち、違うの!蓮兄さん!これはその……エイナが言ったのは嘘で!」


 必死な表情で弁解しようとするエイミー。

 そんな彼女に、蓮は慈悲に満ちた顔で笑いかけた。


「エイミー。お前がどんな性癖を持っていても……お前は俺にとって大切な妹だ。どんな性癖を持っていても」

「二回言った!?ねぇ、二回言う必要ある!?」

「エイミー……愛しているぞ。例えドン引きするような性癖を持っていても」

「エイナ!どうすんの!蓮兄さんにドン引きされたんだけど!!」


 エイナの胸ぐらを掴んで激しく揺らすエイミーと、そんな彼女を優しく笑いかける蓮。

 ある意味、カオスな状況になっていた場所に、一人の少女が近づく。


「あれ?先輩?」

「ん?」


 聞き覚えのある少女の声を聞いた蓮は、声が聞こえた方向に視線を向ける。

 彼の視線の先にいたのは、身長二メートルの褐色肌の少女—――大石修だった。


「修ちゃん?」

「また会いましたね、先輩。エイナとエイミーもさっきぶり」

「修ちゃんはここで夕食?」

「はい。ここのカフェ……とてもおいしいので」

「そうなんだ。俺たち、パーティーをしているんだけど、よかったら修ちゃんも一緒にどう?」

「いいんですか!失礼します」


 修は嬉しそうに笑みを浮かべながら、蓮の隣に座った。

 それを見てエイナは額に青筋を浮かべ、エイミーはムッと不愉快そうに顔をしかめる。

 二人の嫉妬を修は気付かない()()をして、蓮の腕に大きな胸を押し当てた。


「ちょ、修ちゃん。当たってるんだが……」

「いいじゃないですか。私と先輩の仲じゃないですか」


 蓮の腕に大きな胸で挟みながら、修はエイナとエイミーに向かって勝ち誇った笑みを浮かべた。

 どうだ?二人にはこんなことできないよね?という挑発的な行動に、エイナはブチッとキレる。


「修……あまり蓮兄とベタベタしないで」

「別にいいじゃないか。先輩は私の先輩なんだから」

「なにが私のなのかな?ただの先輩後輩の関係でしょう?」

「はぁ?」


 ビキリと青筋を浮かべる修。

 どうやらただの先輩後輩の関係と言われて、彼女の癪に障ったようだ。


「エイナ。いくら親友でも流石にそれはムカつくんだけど?」

「事実でしょ」

「違うよ。僕と先輩はお付き合いする運命なんだよ」

「はぁ!?」


 エイナは強くテーブルを叩き、立ち上がった。

 エイミーも修の発言に驚き、飲んでいたジュースを口から噴き出す。


「な、なに言ってるの!?」

「別にふざけて言っているわけじゃないよ。先輩と約束したんだ。『もしお互い好きな人ができなかったら付き合う』って。ちゃんと録音もあるよ」


 エイナとエイミーは血走った目で、蓮を睨む。

 蓮は視線を逸らし、顔中から汗を流す。


「蓮兄……嘘だよね?」

「蓮兄さん。本当なの?」


 エイナとエイミーの縋るような言葉に、蓮はなにも答えない。

 沈黙は肯定を意味する。

 二人は絶望の表情を浮かべた。


「ふふふ。僕の勝ちだね」

「……絶対に……」

「ん?」

「絶対に蓮兄は渡さないから!」

「なっ!諦めが悪いよ!」

「私は諦めが悪いの!それにお互い好きな人がいなかったら付き合うってだけだから、私が蓮兄を虜にすればいいだけだし」

「なら僕はそれよりも早く先輩を虜にする!」

「だったら私は蓮兄を監禁する!こうすれば修のものにはならない!」

「なっ!監禁するなんて最低!」

「蓮兄を他の人にくれてやるぐらいなら監禁したほうがマシだよ!」

「なら僕はそれより早く監禁するよ!毎日、イチャイチャする!」

「私が監禁する!」

「僕が監禁する!」


 監禁監禁と大声で騒ぐエイナと修。

 身の危険を感じた蓮は、テーブルにお金だけ置いて、そ~と静かにカフェを出ようとした。

 そんな彼の服の裾を、エイミーは強く掴む。


「どこに行こうとしているの?蓮兄さん」


 エイミーは笑顔を浮かべて、蓮に顔を近づける。

 口は笑みを浮かべているが、目がまったく笑っていない。


「いや……ちょっと用事が」

「まぁそんなこと言わないで……少しお話しよう」

「いや……それは」

「お話ししよう?」

「……はい」


 エイミーから感じる威圧感に逆らえず、蓮は席に座った。


<><><><>


 それから騒がしいパーティーを終えた蓮達は、カフェを出て、学生寮に向かった。


「すっげ~疲れた」


 一時間ぐらいエイミーに問い詰められた蓮は疲労していた。


「そういえば蓮兄とエイミーの部屋ってどこなの?遊びに行きたいから教えてよ」


 エイナに質問された蓮とエイミーはビクッと身体を震わせた。


(おい、どうする?正直に言うとめんどくさいぞ)

(うまく誤魔化そう、蓮兄さん)

(だな)


 アイコンタクトで会話をした蓮とエイミーは、エイナを誤魔化すことにした。


「そんなことより明日、どこか遊びに行かない?」

「そのほうがいい。エイナとエイミーの二人で遊んで来いよ」

「え?」


 蓮の発言が予想外だったため、エイミーは目を丸くする。


(そこは三人で出かける流れでしょ!?)

(すまん。明日、別の用事があって)

(……それって水篠先輩と出かけるの?)


 蓮は顔を逸らした。

 そんな彼を見て、エイミーは一瞬、瞳を黒く染める。

 だが彼女はフゥ―と息を吐き、自分を落ち着かせた。


「エイナ。明日は二人で出かけない?」

「え?蓮兄は?」

「別の用事があるみたいだから、明日は無理みたい」

「そう……なんだ」


 少し残念そうに俯くエイナ。

 だが彼女はすぐに明るい表情を浮かべた。


「ならまた今度、三人で出かけよう」

「いいのか?それで」

「うん」


 蓮はエイナの頭を優しく撫でて、「すまんな」と謝った。


<><><><>


 学生寮に到着した蓮達はそれぞれの部屋に向かった。

 部屋に到着した蓮はソファーに座り、深い息を吐く。


「疲れた~。エイナが部屋に行くって言った時は大変だった」


 首をゴキゴキと鳴らす蓮。

 そんな彼の膝の上に、エイミーは無言で座った。


「お、おい。エイミー?」

「出会ったばかりの女子と出かけるんだもん。これぐらいは許してもらわないと」

「えぇ~」

「えぇ~じゃない。あと頭を撫でて」

「いや……」

「もしもしエイナ。蓮兄さんが明日」

「分かった分かった。やるから、スマホから手を離せ」


 ため息を吐いた蓮は、エイミーの頭を優しく撫でた。

 するとエイミーは気持ち良さそうに目を細め、細長い耳をピコピコと動かす。


「今だけ……今だけは蓮兄さんを独占させて、エイナ」


 蓮には聞こえない小さな声で、エイミーはポツリと呟いた。


<><><><>


 翌日、午前九時。

 学園の門の前で蓮はスマホをいじりながら、マリを待っていた。


「そろそろか」


 スマホで時間を確認したその時、


「魔森君~!」


 少女の声が聞こえた。

 声が聞こえた方向に視線を向けると、片眼鏡を掛けた茶髪の少女—――水篠マリが手を振りながら歩いてくる姿が蓮の瞳に映る。


「委員長……その格好」


 水篠マリの格好を見て、蓮は前髪で隠れていた目を少し見開く。

 マリはねずみ色のニットセーターを着ており、ぴちぴちの青いタイトパンツを履いている。

 スマートさとカッコよさが合わさったコーデ。

 そして肩にはシンプルでオシャレなショルダーバックをぶら下げている。


「おまたせ。待ったでしょ?」

「いや、そんなに待っていない」

「そっか。ねぇ……魔森君、この服どうかな?」


 少し恥ずかしそうに身体をモジモジしながら、少女は蓮に尋ねた。


「すごく似合っているよ、委員長」

「本当!嬉しいな~」


 ホッと胸を撫で下ろした後、マリは頬を少し赤く染めて笑みを浮かべた。

 嬉しそうに笑う彼女は、とても可愛らしい。


「じゃあ、行こうか。魔森君」

「ああ」

 

<>


「魔森君、こっちこっち!」


 明るい笑顔を浮かべながら、マリは蓮の手を引っ張って歩いていた。

 蓮は苦笑しながら、周囲に視線を向ける。


(やっぱり目立っているな)


 街の中を歩いていた蓮達を、多くの女性たちがヒソヒソと話しながら見ていた。


「ねぇ、あれが噂の……」

「魔法少女になれる男……」

「ですわね。確か責めるのが好きな人でしたっけ?」

「違うわよ。受けの人よ」

「違う違う。同性の人を責めて責めて責めまくる男の人よ」


 とてつもない嫌な話を耳にした蓮だったが、あえて聞かなかったことにした。


「気にしなくていいよ、魔森君」

「!委員長……」

「君は堂々としていればいい」

「……ありがとう」


 蓮が微笑みを浮かべながら、感謝を述べた。


「あ、因みに私は魔森君は受けだと思っているけど、当たってる?」

「俺の感謝の気持ち、返してくれないか!?」


<><><><>


 まずマリが最初に案内したのは、いくつもの木に囲まれた自然豊かな大きな公園。

 色んな種類の花畑があり、散歩する人たちはとても爽やかな顔をしていた。


「ここは『心安(しんあん)の公園』。心を落ち着かせるのにピッタリな人気スポット」

「へぇ~」

「そしてあそこにあるのは初代魔法少女様たちの銅像だよ」


 マリの人差し指が向けた先には、五人の少女の銅像が建てられていた。

 全員、鎧や戦闘服姿をしており、手には武器を持っている。

 そして少女の銅像の中には、皇覇満月の姿があった。


「……」


 初代魔法少女達の銅像を見ていた蓮は、前髪で隠れていた目を細めていた。

 そんな彼を見て、マリは首を傾げる。


「どうしたの?そんな怖い顔をして?」

「あ、いや……なんでもない。それにしても初代魔法少女の銅像があるなんてすごいな」

「まぁ英雄だからね。初代魔法少女の銅像は世界中にあるし」

「そうか……なぁ委員長。ずっと気になっていることがあるんだが……」

「なにかな?」

「あれはなに?」


 初代魔法少女達の銅像の隣にある、もう一つの銅像に蓮は指を指す。

 彼が指を指した方向には、若い少年をお姫様抱っこした皇覇満月の銅像が置かれていた。


「あ~あれは~……」


 マリは苦笑いを浮かべながら、説明をする。


「『多くの人に儂と夫のラブラブを見せつけのじゃあ!』って作られた銅像だよ」

「どんだけ旦那のことが好きなんだよ」

「世界一だろうね。旦那さんを不老にするぐらいは」

「……やっぱり学園長ってヤンデレか?」

「うん、そうだね。というか初代魔法少女全員、ヤンデレだって噂だよ。今でも初代魔法少女達は生きているし、そしてそんな彼女達の旦那さんも不老にさせられて生きている」


 それを聞いた蓮は思わず、「うっわ」と声を出してしまう。

 彼は哀れに思った。

 初代魔法少女に見初められた男達に。


「あ、でも一人だけ不老にならなかった魔法少女がいるの」


 その言葉を聞いて、蓮は肩をピクッと動かす。


「確かその初代魔法少女は不老になれるのに不老にならず、天寿で死んだんだって。しかも豪華な暮らしはしないで、平凡な生活を夫と子供でしていたんだって。確か名前は……」

姫神凛々(ひめがみりり)。初代魔法少女達のリーダー」

「そうそう。姫神様だよ。富や権力などが手に入ったのにそれを手放すなんて変わった魔法少女だよね~」

「……」

「どうしたの魔森君。黙り込んで?」

「いや……なにも。それより次はどこに行く?」

「そうだね~」


 マリは人差し指を顎に手を添えて、考える。


「じゃあ次は人気ゲームセンターかな」


<><><><>


 次に蓮達がやってきたのは多くの少女達が遊ぶゲームセンター。

 ある少女はクレーンゲームでぬいぐるみを吊り上げようと頑張り。

 ある少女は友達とレースゲームで競い合う。

 誰もが楽しく遊んでいる。


「ここでは最新のゲーム機が揃えられている」

「そうなのか」

「そ。で、一番人気があるのはあのゲーム機だよ」


 マリが人差し指を向けた方向には、ミニステージと四角い機械が合体したようなゲーム機があった。


「あれは?」

「あれはダンスゲーム。音楽に合わせて踊るの。もしうまく踊れたら、なんと豪華な賞品がもらえるの」

「へぇ~」

「魔森君も一回やってみなよ。面白いよ」

「まぁ……やってみる」


 ステージの上に乗った蓮は四角い機械に百円玉を挿入。

 するとリズミカルな曲が流れだす。

 その曲を聞いた蓮は……キレッキレにダンスをする。

 一つ一つの動きが洗練されており、とても美しい。

 それを見ていたマリは目を大きく見開く。

 ゲームセンターにいた少女達は蓮のダンスを見て、集まっていく。

 やがて曲が終わった時には、集まっていた多くの少女達の拍手が鳴り響く。


「すごいね、魔森君。ダンスできたんだ」

「まぁ……家の事情でね。さて……賞品はなにが貰えるかな」


 蓮がそう言った時、ダンスゲーム機から、一枚の紙が出てきた。

 その紙を手に取った蓮は首を傾げる。


「なんだこれ?チケット?」

「そ、それ!学園都市人気一位のカフェ『ルルル』の特別パンケーキが食べられるプレミアムチケット!しかも二人分!すごいよ、魔森君!」

「そんなにすごいのか……なら今からこのチケットで食べに行かないか?委員長」

「え?いいの!」


 瞳を輝かせる水篠マリ。

 蓮は笑みを浮かべながら、頷く。


「ああ。勿論だ」


<><><><>


 学園都市の大人気カフェ『ルルル』にやってきた蓮とマリは、店員にチケットを渡し、パンケーキが来るまでの間、話をする。


「魔森君ってさ、休日はなにをしているの?」

「そうだな~ライトノベルを読むことかな」

「へぇ~。どんなライトノベルを読んでいるの?」

「ラブコメ系が多いかな。俺、こう見えて恋愛とか興味があるから」

「ふ~ん。そうなんだ」


 マリは悪戯っぽく微笑みながら、蓮の耳元で囁く。


「じゃあ……私と付き合ってみる?」

「い、委員長!?」


 前髪で隠れていた目を見開きながら、蓮は椅子から転げ落ちた。


「アハハ。冗談だって。そんなに驚くとは思わなかったよ。魔森君って意外とうぶだね♪」

「冗談でもやめてくれ。心臓に悪い」


 蓮が椅子に座り直したその時、二つのパンケーキを持った女性店員がやってきた。


「おまたせしました。こちら『ルルル』特製パンケーキでございます」


 店員は二つのパンケーキをテーブルに置く。


「わぁ!美味しそう!」

「なんというか……すっごい迫力」


 パンケーキを見たマリは目を輝かせ、蓮は頬を引き攣る。


『ルルル』特製パンケーキはとてもぶ厚く、そしてとても柔らかそうだった。

 パンケーキの上にはたっぷりの生クリームが乗っており、しかも黄金に輝く蜂蜜がかけられている。

 食欲をそそるような甘く美味しそうな香りが二人の鼻を刺激した。

 とても美味しそうなのだが、パンケーキが大きすぎるあまり蓮は食べきれる自信がなかった。


「さっそく食べよう、魔森君♪」

「あ、ああ」


 蓮はフォークとナイフでパンケーキを食べやすい大きさに切り、口に運んだ。

 するとふわふわの食感と生クリームと蜂蜜の甘さが彼の口の中に広がった。

 あまりにの美味しさに蓮は目を大きく見開く。


「うまい」


 まさかここまで美味しいとは思わなかった蓮は、黙々と食べる。

 それを見て、マリはプッと吹き出し、クスクスと笑う。


「もう、魔森君。子供みたい」

「す、すまん。美味しすぎて、つい」

「フフフ。なら……私のぶんもあげる」


 マリは一口サイズに切ったパンケーキをフォークで突き刺し、蓮の口に近付ける。


「はい、あ~ん」

「え?いや……それは」

「あ~ん」

「あ、あ~ん」


 蓮は少し恥ずかしそうにしながら、口を開き、パンケーキを食べた。


「どう?」

「……うまい」

「よかった!ここでごはんを食べ終わったら、次はどこに行く?」

「委員長に任せる」

「了解。じゃあ色々な所に案内するからね♪」


<><><><>


 数時間後、空は夕陽によってオレンジ色に染まった頃。

 蓮とマリはそろそろ解散することにした。


「ふぅ……遊んだね~」

「そうだな……今日はありがとう。案内してくれて」

「こっちも遊んでくれてありがとう。とても楽しかった」


 ニッと笑みを浮かべるマリ。

 彼女の笑顔が夕陽に照らされて、とても美しい。


「また遊ぼうね。魔森君」

「ああ」

「じゃあ、私は用事があるからこれで」

「分かった」

「じゃあね~!」


 マリは手を振りながら、去っていった。

 残された蓮はフゥと息を吐いた後、振り返る。


「そこに隠れているのは分かっている。出て来い、魔神教団」


 低く、静かな声で蓮がそう言うと、建物の影から黒いフードを被った少女三人が現れる。

 彼女達は鋭い目つきで蓮を睨んでいた。


「まさか気付かれていたとはな」

「バレバレだっつうの。むしろ気付かないとでも?それで何の用だ?」

「私たちは貴様を……排除しに来た」


 少女達は剣や槍の形をした〈マジックアイテム〉を召喚し、魔法少女へと変身する。


「私たちは教皇様の命令により、《魔炎》……貴様を殺す」

「殺す…殺すねぇ。・・・・・・・ク…ククク……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 顔に手を当てながら笑い出す魔森蓮、

 彼から感じる不気味さに、少女達は警戒する。

 やがて笑い声が止まると、蓮は前髪をかきあげて、瞳を怪しく光らせる。


「殺すのは俺のほうだ。クソ信者共」


 次の瞬間、蓮の身体から赤い炎が発生した。

 突然の発火に目を見開く少女達。


「お前らが俺を殺せるわけないだろう」


 炎が収まると、そこに立っていたのは赤い甲冑を纏った赤髪赤眼の魔法少女。

 その魔法少女—――魔森蓮の右手には刀身が二メートルはある真紅の刀が握られていた。


「まとめて来い」


 真紅の大太刀を構えながら、蓮は挑発した。


「くっ!舐めるな!!」


 フードを被った魔法少女達三人は一斉に蓮に襲い掛かる。


「「「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」」」


 剣撃と刺突、そして高速に放たれた弾丸。

 その全てを蓮は……大太刀で弾く。

 まさか刀一本で全ての攻撃を無効化されるとは思わなかった魔神教団の魔法少女達は驚愕する。


「……この程度で俺を殺せると思ったか?まったく……」


 蓮は左手で剣使いの魔法少女の頭を鷲掴みし、地面に叩き付ける。

 地面に亀裂が走り、剣使いの魔法少女は白目を剥く。


「舐められたものだ」


 炎の如く赤い瞳を怪しく光らせる《魔炎》。

 圧し潰されそうな威圧と、全身に無数の剣が突き刺さったような殺意に、残った魔法少女二人は後退る。


「こ、このおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 槍を持った魔法少女は恐怖を押し殺し、突撃する。


「バカが」


 そう言った蓮は大太刀を素早く振るった。

 直後、槍使いの魔法少女の首が斬り飛ばされた。

 頭を失った首から噴水のように血が勢いよく噴き出す。

 首から下の身体は地面に崩れ落ち、斬り飛ばされた頭は銃を持つ魔法少女の足元に転がる。


「ヒッ!」


 仲間を一瞬で殺されたのを見て、残った一人の魔法少女は恐怖で顔を歪める。


「最後はお前か」

「イヤ……イヤアアァァァァァァァァァァァ!!」


 銃使いの魔法少女は蓮に背中を向け、逃げようとした。

 だが……魔森蓮は逃がさない。


「逃げるなよ」


 蓮は大太刀を振るい、銃使いの魔法少女の両腕両脚を切断。

 切断面から赤い血が噴き出し、血の臭いが充満した。

 両腕両脚を失った魔法少女は地面に倒れ、悲鳴を上げる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 今まで味わったことが無い激痛が、彼女を襲う。


「苦しいか?痛いか?怖いか?もしそうならよく味わっておけ。それが……お前ら魔神教団の罪だ」


 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、悲鳴を上げる魔神教団の魔法少女。

 そんな彼女に蓮はゆっくり近づく。

 冷たく、殺意を宿した赤い目で少女を見下ろしながら、蓮は大太刀を上段に構える。


「次の人生ではまともな人になることだな」


 蓮は大太刀を振り下ろした。

 鋭い斬撃が魔神教団の魔法少女の首を斬り飛ばそうとした。

 その時、


「やめて!」


 蓮の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り下ろされた大太刀の刃が、少女の首に触れる数ミリのところで止まる。

 蓮は声が聞こえた方向に視線を向け、目を見開く。


「エイミー」


 彼の視線の先にいたのは、一人の少女。

 その少女は細長い耳を生やし、エメラルドグリーンの長い髪を伸ばしていた。

 両目に宿る瞳は、ルビーの如く赤い。


 少女の名は魔森エイミー。

 蓮の妹だ。


「なんで……ここに?」


 悲しそうに瞳を潤ませているエイミーに、蓮は問う。


「気付かれないように後を追いかけてきたの。蓮兄さんが気になって」

「一日中?」

「うん」


 まさか一日中、後を追いかけられていたとは知らなかった蓮は心から驚いた。


「それより……今、なにをしようとしていたの?」

「……こいつらを殺そうとしていた」

「そんなことはしないで!」

「そういうわけにはいかない。こいつらは……魔神教団は生かしてはならない」


 蓮は知っている。

 魔神教団が多くの罪のない者達に、知らなくてよかったはずの恐怖と生きていることが辛くなるような絶望を与えたことを。

 魔神教団が多くの人の命を奪い、いくつもの国を滅ぼしたことを。

 そして魔神教団の者達は人の不幸や悲しみを笑う最低な存在だということを。


「こいつらは……死ななくちゃあいけない奴らなんだ」

「それでも……人を殺すのはやめて」

「エイミー……分ってくれ。これは必要なことなんだ」

「……例え必要だとしても、これ以上……蓮兄さんが人殺しになるのはいや……」


 エイミーは蓮に近付き……抱き締める。


「それに蓮兄さん…その人たちを殺そうとした時、とても辛そうな顔をしていた。

「エイミー……」

「お願いだから……もうやめて」


 嗚咽を漏らしながら、涙を流すエイミー。

 そんな彼女を見た蓮は……大太刀から手を離す。


「分かったよ。これ以上は殺さない。あとは学園長に任せる」


 蓮は妹を優しく抱き締めた。


<>

 

 抱き締め合う蓮とエイミー。

 そんな二人を緑髪の少女—――魔森エイナは呆然としながら見ていた。


「嘘……」


 愛する兄と大切な妹が抱き締め合っている。

 そんな光景を目にしたエイナは、胸が締め付けられるような痛みに襲われた。


「痛い……」


 胸を押さえながら、顔を歪めるエイナ。

 そんな彼女の耳に、


「可哀そうに」


 少女の声が聞こえた。

 声が聞こえた方に視線を向けたエイミーは目を見開く。

 

「あなたは……」

「ねぇ、魔森エイナ。もし好きな人を自分のものにすることができるって言ったら……どうする?」

「!!」


 エイナの目の前にいる少女は尋ねる。まるで誘惑するかのように。


「ねぇ……どうする?」

「……本当に、蓮兄を……私のものに」


 少女は口元を三日月に歪める。


「えぇ……約束するわ」


 少女は手を差し伸ばした。


「……」


 いけない。

 この手は握ってはならない。


 そうわかっているのに……エイナは恐る恐る少女の手を握った。

 次の瞬間、エイナの意識が黒く染まる。


「アハ……バカな女」

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