《機神》3
「まさか新しい魔王が男だとはな……いや~珍しいこともあるものだ」
興味深そうに蓮を見つめる黄色髪の少女。
そんな彼女に蓮は恐れていた。
別に少女が幽霊だとか、顔が怖いだとかではない。
むしろ美少女と言っていいぐらい可愛かった。
しかし、彼の本能は叫んでいた。
目の前にいる少女が化物の中の化物だと。
「……あんたに質問がある」
恐怖を感じながら蓮は問い掛けた。
視線の先にいる魔王に。
「あんたは……魔王だな」
「その通り。私は魔王だ。魔王を知っているようだな……お前は」
「……質問を続ける。この島に俺達を転移させたのは、お前か?」
「ああ、そうさ」
「なんのために?」
「ん~……そうだな……」
少女は黄色の瞳を怪しく輝かせ、不敵な笑みを浮かべる。
「お前らを……殺すためかな」
その言葉を口から出した少女は手を伸ばし、唱える。
「雷鳴を響かせろ、【雷神・破滅雷光】
少女の手から激しい稲妻が発生。
稲妻は巨大なウォーハンマーへと形を変える。
そのウォーハンマーは稲妻の紋様が描かれていた。
「変身」
少女が言葉を発した次の瞬間、彼女の身体が激しく放電した。
バチバチと放電音が鳴り響き、稲妻が地面を焼く。
彼女から放たれる稲妻は黒と黄色の鎧へと変わる。
ビリビリと放電する鎧を纏った少女は、ウォーハンマーを構えた。
「私の名はレティ―・イナズマ。さぁ……お前も魔法少女になれ……新たな魔王よ」
蓮はゴクリと唾を呑み込んだ。
見て分かる。
感じる。
彼女はとてつもなく強いことが。
《魔炎》では絶対に勝てない。
彼女は決して蓮達を逃がさないだろう。
(どうする……どうすれば)
蓮が考えていた時、彼の服の裾が引っ張られた。
服の裾を引っ張ったのは他でもない。
地面に座り込んでいる修だった。
「せん……ぱい……」
少女は怯えていた。
身体を震わせながら、蓮を見つめている。
そんな後輩を見て、蓮は……優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ、修ちゃん。俺があの怖い魔法少女を倒してくるから」
怖くないと言えば嘘になる。
勝てるかどうかわからない。
負けるかもしれない。
だけど……大切な後輩を守るために、少年は戦う。
なぜなら大切な後輩が、少年のことを世界最高の魔法少女と言ってくれたから。
「だから……ここで待ってて」
少年はレティ―と名乗る魔王に視線を向ける。
彼の目には強い覚悟が宿っていた。
「創造せよ、【機械神】!」
かつて……蓮と共に多くの魔獣を倒した〈マジックアイテム〉にして、彼の元相棒。
その名を唱えると、蓮の右手の中指に銀色の指輪が出現した。
直後、彼の意識が白く染まる。
<><><><>
気が付くと蓮は、広い空間にいた。
空にはいくつもの歯車が浮かんでおり、回転している。
その空間に……一人の少女が立っていた。
「蓮……」
一本一本の毛がキラキラと輝く長い銀髪。
身に纏う白銀のドレス。
そして背中から生やした機械仕掛けの翼。
まるで天使のような彼女は、シルバーオーラのような銀色の瞳を潤ませていた。
「久しぶりだな……【機械神】」
蓮は白銀の少女―――【機械神】に近付いた。
「【機械神】……俺は、昔の自分が嫌いだ」
その言葉を聞いて、少女は顔を歪める。
「俺は……お前を俺の力だと勘違いしていた。その結果……全てを失った。なにも守ることができなかった」
【機械神】は首を左右に振る。
「俺は……愚か者だ。世界一の」
「違う!」
彼女は首を左右に振りながら、蓮の言葉を否定した。
「あなたはなにも間違っていない!私はあなたの力!あなたのもの!なのに私は……あなたの力を百パーセント発揮できなかった。あなたが大切な人たちを守れなかったのは……私の……」
今にも泣きそうな声を漏らしながら、俯く白銀の少女。
そんな彼女の涙を、蓮は指で拭う。
「泣かないでくれ……お前は何も悪くない。それと……今までお前を避けててすまなかった。お前の力を使う度に、あの悲劇を思い出しそうで……怖くて……お前を使わなかった」
「蓮……」
「俺は……今でも《機神》が嫌いだ。でも……そんな《機神》を世界最高の魔法少女だって言ってくれる女の子がいるんだ」
蓮の頭の中に、巨人族の少女の顔が浮かび上がる。
「俺は……その子を守りたい。もう死なせたりしない。だから……」
蓮は真剣な表情で手を伸ばす。
「力を貸してくれ」
その言葉を聞いて、白銀の少女は微笑みを浮かべ、両手で彼の手を握る。
「いくらでも貸してあげる。だって私は……あなたの力だから」
「ありがとう……【機械神】」
「もう昔の私じゃない。今の私は……あなたの能力を百パーセント以上、引き出せる。だから―――」
「思いっきり暴れて!」
<><><><>
蓮の意識が現実へと戻る。
「行くぞ、相棒」
彼の右手の中指に嵌められた銀色の指輪が浅く光る。
「変身!!」
次の瞬間、蓮の肉体が少年のものから少女のものへと変わる。
短い黒髪は長い銀色のツインテールへと変わり、黒い瞳は銀色に輝く。
空中に出現したいくつもの装甲や機械が彼の体を覆い、鎧となる。
機械仕掛けの鎧を纏う白銀の魔法少女。
彼は―――《機神》は目の前にいる魔王を睨む。
「さぁ……魔王討伐開始だ」
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