《機神》2
「……いいよ、教えてあげる。《機神》の……過去を」
冷たい雨が降る中、蓮は修に語った。
最も愚かな魔法少女のことを。
「俺は……昔の俺は魔法少女の村で住んでいた」
「魔法少女の……村?」
「聞いたことあるだろう?魔法少女と、その魔法少女の家族で作られた小さな村があるって」
蓮の言葉を聞いて、修は目を大きく見開いた。
「それって……伝説級の魔装が作られたり、そこで修行すれば化物クラスの魔法少女になれるって噂の!!」
「そうだ。俺はそこで生まれ、育ち……五歳になったら強力な〈マジックアイテム〉を手に入れた」
少年は言葉を続ける。
「昔の俺はくだらない正義感があって、本気で魔獣をすべて倒し、平和にしようとした。そして俺にはそれができると思っていた。実際……〈マジックアイテム〉の力でなんでもできちまった」
「……」
「頑張れば何でもできる。そう思いながら妹と仲間と共に強力な魔獣を倒していった」
「その妹と仲間って……」
「ああ……魔法少女チーム『焔』のみんなのことだ。俺はそこの副リーダーをしていた。楽しかった……俺たちに敵はいないと思っていた。だけど……ある日、事件が起きた」
蓮はガリッと強く歯噛みした。
「村の近くで魔神教団の魔法少女が倒れていた。俺は放っておくことができず……そいつを助けた。その結果―――」
「魔神教団の魔法少女たちが村を襲った」
修は言葉を失い、口に手を当てる。
「村のみんなや……仲間や……妹は殺された。生き残ったのは、俺だけ」
少年の瞳から水が流れる。
その水は決して雨のものではなかった。
「俺のせいで……みんなが死んだ。なにが英雄だ……俺は……俺は……なにも救えなかった。何も守れなかった」
蓮の声は震えていた。
その声に宿っているのは、三つの感情。
なにも守れなかった自分に対する怒り。
大切なものを失った悲しみ。
そして……自分のせいで大切な人達を死なせてしまったことへの罪悪感。
「修ちゃん……これで分かっただろう?俺は……《機神》は愚か者なんだ」
「……」
「俺なんかいなければ……みんな……みんな死なずにすんだんだ」
静かに涙を流す蓮。
彼はこの世で最も《機神》を……自分自身を憎んでいた。
憎まずにはいられなかったのだ。
そんな彼を修は……、
「それは違います。先輩」
優しく抱きしめた。
突然、後輩に抱きしめられた彼は混乱する。
「しゅ、修ちゃん?」
「先輩は……愚か者じゃないです」
「そんなわけ……」
「そんなわけあります。あなたは僕の英雄です。そして……あなたは僕を救ってくれました」
「え?」
「覚えていないかもしれませんが、僕は貴方に助けられました。あの日―――」
修は語った。
《機神》に救われた巨人族の少女のことを。
〈〉〈〉〈〉〈〉
それは……空に三日月が浮かんでいた日のことだ。
巨人族の街が強力な魔獣に襲われた。
いくつもの建物は壊れ、人々は悲鳴を上げる。
修は両親に手を引っ張られながら、必死に逃げていた。
足が重くなろうが、呼吸が辛くなろうが、恐怖で身体が震えようが……巨人族の家族は逃げる。
しかし……そんな家族を、魔獣は見逃さなかった。
「あ……ああ」
修たちは身体を震わせることしかできなかった。
彼女たちを見下ろすのは、ビルと同じぐらいの大きさの黒い怪物。
何本もの腕を生やし、黒い外殻に覆われ、いくつもの目をギョロギョロと動かしている。
修は死を覚悟した。
その時だった。
彼女の目の前に、機械仕掛けの鎧を纏った白銀の魔法少女が現れたのは。
「もう大丈夫。だから安心して」
とても綺麗で……優しい声で言う魔法少女。
彼女はいくつもの武器を生み出し、巨大な怪物と戦う。
長い銀色のツインテールを揺らしながら、魔獣を一方的に追い詰める勇敢な魔法少女を……修は美しく、カッコイイと思った。
〈〉〈〉〈〉〈〉
「先輩……あなたは僕を救ってくれました。守ってくれました。僕だけじゃない。きっと……もっと多くの人が救われています」
修は蓮を抱きしめる力を強くする。
「先輩が自分を愚か者だというのなら……僕は『あなたは英雄だ』って言います」
「修ちゃん……」
「だから先輩……そんな悲しい顔をしないでください」
巨人族の少女は優しく微笑みながら告げる。
「自分を許せないなら……僕が許します。そして何度も言います」
「あなたは世界最高の魔法少女です」
その言葉を聞いて、蓮の瞳から温かい涙が流れる。
彼の後輩であり、妹の友達である大石修は……一人の少年の心を癒した。
「ありがとう……修ちゃん。その言葉で俺は救われたよ」
修から離れた蓮は、明るい笑顔を浮かべた。
その時、全身が凍り付くような感覚が二人を襲う。
「う……あ……!」
身体を震わせながら、その場に座り込む修。
「この感覚は!」
蓮は知っている。
今、自分を襲う恐怖がなんなのかを。
「お前か……新たな魔王は」
突然、聞こえた声。
声の主は黄色の髪を三つ編みにした少女。
シトリンの如き黄色の瞳に、頬に施された稲妻のタトゥーが特徴的だった。
「お前は……」
蓮は目を細め、一筋の汗を流す。
今、彼の目の前にいる黄色髪の少女は……人間ではない。
なぜなら彼女は……人の姿をしているだけの、
「魔王!」
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