《機神》1
回転している歯車で埋め尽くされた広い空。
その空の下で白銀のドレスを纏った少女は虚空を見つめている。
少女は長い銀色の髪を伸ばしており、背中から機械仕掛けの翼を生やしていた。
「蓮……」
白銀の瞳を潤ませながら、少女は透き通った声を漏らす。
機械仕掛けの翼を生やした少女は願った。
大切な契約者が……自分自身を憎まないことを。
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大石修は自分の目を疑った。
信じられなかったのだ。
目の前の現実を。
今、彼女の視線の先にいるのは……銀色のツインテールを揺らし、機械仕掛けの鎧を纏った魔法少女―――《機神》だった。
ブオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
まるで怪物の雄叫びの如きエンジン音が、《機神》が纏う鎧から鳴り響く。
「……」
《機神》―――魔森蓮はなにも喋らず、ただ静かに手を振るった。
するとなにもないところから、大型チェーンソーが現れる。
そのチェーンソーを右手で握り締め、構えた。
「来るなら来い」
背筋が凍るような低い声を、蓮は口から出した。
その直後、雷の戦士たちは一斉に襲い掛かる。
戦士たちの雷の剣が、蓮の身体を串刺しにしようとした。
しかし……そうはならなかった。
「消えろ」
次の瞬間、無数の刃が高速回転するチェーンソーが、百体の雷の戦士たちを細切れにした。
細切れにされた雷の戦士たちは一瞬で消滅。
それを目の当たりにした修は、言葉を失う。
(嘘……炎の魔法少女の時とは比べ物にならない速さで、雷の戦士たちを!)
修が驚愕している間に、蓮は左手からガトリング砲を生み出す。
「失せろ」
引き金を引いた直後、複数の銃身が超高速回転。
六つの銃口から無数の弾丸が放たれた。
弾丸の雨は雷の戦士たちの身体にいくつもの風穴を開け、消滅させていく。
だが蓮の攻撃はまだ終わっていなかった。
「邪魔なんだよ」
蓮の周囲に、いくつもの銃が出現。
その銃は浮遊しており、推進器が搭載されていた。
「死ね」
そこから始まったのは戦いではなく、一方的な殲滅だった。
無数の銃は超高速に飛びながら、弾丸を放ち、雷の戦士たちを撃ち抜く。
そして《機神》はチェーンソーで敵を斬り裂き、ガトリング砲で無数の風穴を開ける。
圧倒的な力で、一万以上いた雷の戦士たちは消滅した。
かかった時間は……僅か五分。
「……」
全ての敵を倒した蓮は生み出した武器を消し去り、変身を解除する。
ただの少年に戻った蓮は、静かに俯く。
そんな彼に、修はゆっくりと近づいた。
「先輩……だったんですね。英雄……《機神》は」
「……違う。俺は……英雄じゃないよ」
蓮は目を細めながら、右手の中指に嵌まっている銀色の指輪を見つめる。
「俺は……この世で最も愚かな魔法少女だよ」
蓮の声には、深い悲しみと自分に対しての強い怒りが宿っていた。
「……聞かせてください。《機神》のことを……なにがあったのか」
聞かずにはいられなかった修は、問う。
しかし蓮は口を開かない。
やがて冷たい雨が降り、二人を濡らした。
雨が降る中、修は一歩も動かず、ただまっすぐに……蓮を見つめる。
数分後、蓮の口がゆっくりと動いた。
「……いいよ。教えてあげる。《機神》の……過去を」
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