妹の友達1
「ついに退院か……」
《煉獄》との戦闘によって入院することになった蓮は、ようやく退院することになった。
「まったく……傷は【鳳凰】の力で治したのに、まさか一週間も入院することになるとはな」
蓮は自分の〈マジックアイテム〉で傷の治療をしたのだが、医者に「ここでゆっくり休みなさい」と強く言われ、仕方なく入院することになった。
「まぁ……入院したお陰で久しぶりにゆっくりできた。おかげで疲れは消えたな~」
背伸びをした蓮は退院の準備を始める。
患者衣から私服に着替え、エイミーが持ってきてくれた鞄にライトノベルや漫画をしまう。
片付けていると、鞄から一枚の写真が床に落ちる。
写真を拾った蓮は、胸が苦しくなるのを感じながら目を細めた。
「りりさ……みんな」
写真に写っていたのは、蓮と四人の少女。
四人の少女を見つめる蓮の瞳には、自責の念が宿っていた。
「次は……守ってみせる」
蓮は丁寧に写真を鞄にしまった。
<><><><>
鞄を持って病室を出た蓮は、別の病室に向かう。
「確か……エイナがいる病室はこっちだったよな」
蓮が入院していた病院は、妹であるエイナも入院しているのだ。
エイナは魔神化の後遺症がないか調べるために、まだ入院することになっている。
「ここだったな」
エイナがいる病室の前に到着した蓮は、扉を開けた。
「エイナ~。調子はどう…だ……」
病室に入った蓮はあるものを目にして、手に持っていた鞄を床に落とす。
今……前髪で隠れていた彼の瞳に映っていたのは、
白い下着姿の妹の姿だった。
しかもただの下着ではなく、花柄が刺繍されているオシャレなもの。
「え……?」
エイナは蓮が病室に来たことに気付き、一瞬固まる。
石像のように固まった兄妹は、ただ見つめ合う。
数秒後、
「わ、悪い!」
蓮は鞄を手に取り、病室を出ようとした。
だがそれよりも早く、エイナは病室の扉を閉め、鍵をかける。
目に止まらぬ早業。
エイナの赤い瞳は爛々と輝いており、口から涎が垂れていた。
まるで得物を見つけた猛獣。
身の危険を感じた蓮は頬から汗を流し、後退る。
「落ち着けエイナ。これは事故だ。俺はお前の下着姿を見たくてここに来たわけじゃない」
「分かってるよ、そんなこと……だけどこんなチャンスを逃せないのも事実だよ」
蓮にゆっくりと近づくエイナ。
彼女は口元を三日月に歪める。
「さぁ……今から私は蓮兄をベットに押し倒し、童貞を奪う」
「エイナ……女子が言っていい言葉じゃないぞ」
蓮の鼓動が速くなる。
妹に貞操を奪われるという恐怖が、彼を襲う。
「蓮兄さん……覚悟してね♡」
蓮は素早く振り返り、開いている窓に向かって駆け出した。
そんな彼を逃がさないために、エイナも駆け出す。
全力で逃げる兎と得物を狙う獅子。
二人の距離は僅か!
「逃がさないよ!蓮兄!!」
エイナの手が蓮の手を掴もうとした。
その時、蓮は加速し、窓から飛び出す。
「なっ!」
「悪いな……俺はまだ童貞を奪われるわけにはいかない」
今、蓮がいる階は十階。
落ちれば間違いなく死ぬだろう。
だが蓮は迷わず窓の外に飛び出し、地面に向かって落下する。
落下中、彼は赤い大太刀を顕現させ、唱える。
「変身!」
次の瞬間、蓮の身体が赤く燃え上がった。
赤き炎は蓮の身体を男から女に変え、瞳と髪の色を赤く染める。
そして身体全身に赤い甲冑が覆われた。
炎の魔法少女へと姿を変えた蓮は足の裏から炎を噴射し、落下速度を減速させ、地面に着地する。
「変身解除」
蓮がそう言うと、彼は魔法少女から少年へと元に戻る。
「もう~!釣れないんだから~!ちょっとぐらい味見させてくれてもいいじゃあ~ん!」
窓から大声を出すエイナ。
そんな彼女に向かって、蓮は大声で言う。
「元気そうだから見舞いは大丈夫だな~!俺は帰るから~!」
「え?ちょ、待ってよ!」
「じゃあ学園でな~!」
「ごめん、謝るから!戻ってきて蓮兄~!」
エイナの声が聞こえたが、蓮は無視して学生寮に向かった。
<><><><>
「まったく……危うく妹に喰われるところだった」
ハァとため息を吐きながら街の中を歩く蓮。
そんな彼を多くの少女や女性たちが注目する。
(やっぱりまだ慣れないな~学園都市は)
またため息を吐く蓮。
彼は歩きながら周囲を見渡した。
(……《煉獄》を倒したからか、魔神教団の奴らがいないな。ここを去ったか、あるいは学園都市のどこかで作戦を練っているかだな)
前髪で隠れている目を細めながら、蓮は顎に手を当てる。
(しかし……なんで《煉獄》は生きていた?いや、そもそもなんで魔神教団の奴らが活動している?確かに俺は魔神教団の奴らは皆殺しにした……幹部や教皇は確かにこの手で殺したはずだ。なのに……なんで)
蓮は考えた。
考えて、考えて、考える。
そして……ある答えに辿り着く。
(考えられるとすれば第三者―――つまり協力者かなにかが魔神教団を生き返らせたということになる。しかし……いったい誰が。魔神教団の関係者も殺したはずなのに……)
蓮が頭を回転させていた。
その時、突然全身が凍り付くような悪寒が彼を襲う。
「!!」
咄嗟に蓮は魔法少女に変身し、大太刀を構える。
周囲にいた少女や女性たちは驚く。
「なんだ……今の気配?」
彼の顔には大量の汗が浮かんでいた。
「いや知っている。この感じ……まさか」
「ちょっとそこのあなた!」
「!!」
背後から聞こえた少女の声。
その声にビクッと身体を震わせた蓮は、ゆっくりと振り返る。
「修ちゃん?」
彼の視線の先にいたのは、身長二メートルはある褐色肌のボーイッシュ少女—――大石修だった。
「だめだよ、こんな所で魔法少女になっちゃあ」
眉間に皺を寄せ、少し怒気を宿した声を出す修。
そんな彼女に蓮は慌てて謝る。
「ご、ごめんね。修ちゃん」
「?なんで僕の名前を知ってるの?」
「ああ……この姿を見せるのは初めてだね」
蓮は変身を解除し、少年の姿へと元に戻った。
すると修は顔を赤くし、慌て出す。
「せ、先輩!?」
「やぁ…修ちゃん。元気?」
「え……えぇはい。僕は元気です」
慌てて髪を直す修。
そんな彼女を見て、蓮は「やっぱり女の子なんだな」と思い、クスリと笑う。
「もう!なんで笑うんですか!」
「ごめんごめん……つい」
妹の友人であり、自分の後輩でもある巨人族の少女—――大石修。
彼女を見ていた蓮は、一人の少女のことを思い出す。
「……先輩。今、僕のことを見て他の女の人を思い浮かべましたね?」
「え、どうして分かった?」
ジト目で蓮を見る修。
彼女は蓮の手を掴み、歩き出す。
「ちょ、修ちゃん!?」
「罰として今日一日、僕に付き合ってください!」
「え?えぇ~」
「いいですね!」
「……はい」
修に引っ張られながら、蓮は思った。
男とは……女に無力なのだと。
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