復讐は終わらない2
「ん……?」
目を覚ました蓮が最初に見たものは、赤い髪を伸ばした美姫の顔だった。
彼女は眉を八の字にしており、どこか心配そうな顔をしている。
「気付きましたか」
「ああ」
蓮は頭からとても柔らかい感触を感じていた。
「膝枕か……男の夢を叶えてくれてありがとう。【鳳凰】」
「バカなことを言える元気はあるみたいですね」
ハァとため息を吐いた赤い美姫―――【鳳凰】は、蓮の額を軽く叩く。
蓮はゆっくりと起き上がり、ポキポキと首を回す。
「流石に無理をしちまったか」
「本当ですよ。すごく心配したんですからね」
「悪かったよ。精神世界に俺を呼んだのは、説教するためか?」
「その通りです」
【鳳凰】は眉間に皺を寄せながら、怒気を宿した声を口から出す。
「なぜ蒼き炎をあんな状態で使ったんですか?蒼き炎は魔力の消費が激しく、肉体の負担も大きいのですよ?」
「ああでもしなかったら勝てなかった」
「いいえ、蒼き炎を使わなくても……あなたは《煉獄》に勝っていました」
「……」
「なぜ……あなたの本当の〈マジックアイテム〉を使わなかったのですか」
蓮は気まずそうな顔で、目を逸らした。
すると【鳳凰】は両手で彼の顔を掴む。
そして無理矢理、目を合わせた。
「答えてください。なぜ使わなかったのですか?」
「……昔の俺は死んだ。もうアイツの力は使わない」
「……」
「あの力があっても、俺は大切なものを守れなかった」
強く唇を噛む蓮は思い出す。
故郷のみんなが殺されるところを。
「救えなかった」
強く拳を握り締める蓮は思い出す。
仲間と妹が死んだ姿を。
「そんな俺がアイツの力を使う資格はない」
「違います。あなたは……」
「違わない」
【鳳凰】の言葉を、蓮はすぐに否定した。自分自身を呪うような声で。
「アイツらが死んだのは、アイツの力を自分の力だと勘違いをしていた俺の原因だ。だから……もう使わない」
「……そうですか」
なにを言っても無駄だと理解した【鳳凰】は眉を八の字にしながら、蓮の顔から手を離す。
「あなたの気持ちはよく分かりました。ですが……あの人の力を使わなければならない時が絶対に来ます」
「……」
「私の力は本来、味方を支援するものです。いずれ限界は来ます。だから……もし私の力ではどうしようもない時は、迷わずあの人の力を使ってください。お願いします」
深く頭を下げる【鳳凰】。
【鳳凰】は心から蓮を案じていた。
そんな彼女を見て、「いやだ」と言えなかった蓮は、
「分かったよ」
小さな声で返事をした。
「それから……悪い知らせがあります」
「なんだ?」
「もう……魔装ではアレを抑えることができなくなります」
彼女の言葉を聞いて、蓮は目を細める。
「そうか」
「今なら間に合います。もうこれ以上は……」
「やめないぞ。俺は……」
蓮はハッキリとした声で告げる。
「俺はこの道を……復讐する道を選んだ。それに後悔はない。例え……このまま復讐を続けて、俺が人ではなくなるとしても―――」
蓮は真っすぐな瞳で【鳳凰】は見つめる。
「俺は……復讐をやめない」
蓮の声には迷いはなかった。
あるのは強い決意だけ。
【鳳凰】はゆっくり目を閉じて、「そうですか」と呟く。
「なら……私も覚悟を決めました」
ゆっくりと目を開ける【鳳凰】。
彼女の瞳には、強い覚悟が宿っていた。
「あなただけを化物にはさせません。私も一緒に化物になります」
「……すまん」
「いいんです。……もう一度、復讐をしましょう。魔神教団に」
「ああ……奴らは絶対にこの手で殺す。俺みたいな人間を生み出さないために」
前髪で隠れていた蓮の瞳が、怪しく輝いた。
その時、蓮の意識が白く染まり始める。
「時間みたいだな」
「ええ……そのようですね」
「またな……【鳳凰】」
「はい」
「いつでもお待ちしております」
その言葉を聞いた直後、蓮の意識は完全に白く染まった。
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