蒼き炎1
「いいよ……なら、私の炎で焼き殺してあげる♪」
殺意と怒りを宿した明るい声を口から出す《煉獄》。
彼女は額に青筋を浮かべながら、蓮を睨んでいた。
手に装備している大剣は、激しく燃えている。
そこらへんにいる魔法少女だったら、戦意を失って逃げていただろう。
だが……《魔炎》は逃げない。
逃げるわけにはいかなかった。
(これは復讐だ。母さんや父さん、そして妹を殺した奴を殺す……俺の復讐)
復讐は何も生まない。
それは一度復讐をしたことがある蓮が……一番理解していた。
まさにその通りであると頭では分かっている。
だから―――、
(だからなんだ?)
蓮は大太刀を強く握り締める。
(家族を殺した奴がのうのうと生きているのを、黙って見ていられるほど……俺は我慢強くねぇ)
赤き魔法少女は己の胸に宿る復讐の炎を、静かに……だけど強く燃やす。
(俺は魔神教団のやつら全員にもう一度復讐する。それが例え間違えているとしても)
《魔炎》は修羅の如き顔で、《煉獄》を睨む。
「それは無理だ。なぜなら……俺がお前を殺すから」
復讐のために。
《煉獄》を殺すために。
友を、仲間を、家族を……妹を二度と失わないために。
今度こそ大切なものを守るために。
復讐の魔法少女は使う。
《魔炎》の必殺技を。
「炎よ、蒼く燃えろ」
次の瞬間、蓮の身体が青く燃え上がった。
激しく燃え上がる蒼炎。
彼が纏った赤い甲冑が。
刀身が二メートルはある赤い大太刀が。
ポニーテイルに結ばれた長くて赤い髪が。
炎の如き赤い瞳が。
全ての赤が……蒼へと変わる。
「蒼い……炎?」
蒼炎を纏った蒼き魔法少女。
彼はスーと息を吸い、大太刀を構えた。
すると蒼い大太刀の刃に、蒼炎が発生する。
刃に蒼く燃える炎を纏わせ、蓮は告げる。
「行くぞ」
刹那、蓮の背中と足の裏から蒼い炎が勢いよく噴射。
炎を推進力に変え、彼は目に止まらない速さで《煉獄》に突撃。
たった一秒で《煉獄》の懐に入った蓮は、音速を超えた速度で大太刀を振り下ろす。
「くっ!」
未来視の魔眼で未来を見ていた《煉獄》は、斬撃をギリギリ躱せ―――なかった。
神速の斬撃によって《煉獄》の身体に、大きな傷跡が刻まれる。
傷跡から大量の血が噴き出し、地面を赤く染めた。
「コフッ。な…に……!?」
口から血を吐き出した《煉獄》は自分が斬られたことに今、気づく。
「【鳳凰】の蒼い炎は超強化型。回復、解毒、浄化ができない代わりに、強化能力を大幅に向上させた俺の必殺技だ。お前……俺の炎に殺傷能力がないって言ったよな?それは間違いだ」
瞳に蒼い炎を宿らせた《魔炎》は、静かな声で言う。
「【鳳凰】の炎は燃やして殺すことができないだけで、己を強化して敵を殺すことはできるんだ。だから……」
《魔炎》は蒼炎を纏った大太刀を振るい、怒涛の連撃を放つ。
「俺はお前をもう一度殺せる」
大太刀から放たれる斬撃の嵐。
蒼炎を纏っていることで、斬撃能力は数十倍まで強化されている。
故に、《煉獄》の身体に無数の斬撃の跡が刻まれた。
鎧ごと肉を切り裂かれる《煉獄》は顔を歪める。
このままでは負ける。
敗北の二文字が頭に浮かんだ時、《煉獄》の中で何かが切れる音が聞こえた。
「調子に乗らないでよね!《魔炎》!!」
次の瞬間、《煉獄》の身体から赤黒い炎の柱が発生した。
とてつもない熱風が勢いよく吹き、蓮はバックステップで距離を取る。
「その姿……」
炎柱が消えると、そこにいたのは赤黒い炎の怪物。
頭から伸びた太く長い二本の炎の角。
激しく燃える炎の翼。
腰から生えた長い炎の尻尾。
そして赤黒い炎を纏った手と足。
人と竜と炎が合体したような姿になった《煉獄》。
彼女は大剣を構えながら、瞳を怪しく輝かせる。
「勝つのは……私だよ♪」
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