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学園都市

 呪い専門の病院に入院している魔森エイミーは、兄から貸してもらったライトノベルを読んでいた。

 ペラペラと本の紙をめくりながら、彼女は待っていた。見舞いにやってくる兄を。


「ふぅ~…面白かった」


 ライトノベルを読み終わったエイミーは、一度息を吐いた後、病室の扉に視線を向ける。


「……蓮兄さん。まだかな」


 いつもいつも自分のためにお見舞いに来てくれる優しい兄。

 一緒にいるだけで温かい気持ちになり、話すだけで楽しい気持ちになる。


「…気持ち。伝えたほうがいいかな」


 胸に手を当てて、エイミーはポツリと呟いた。

 エイミーの寿命はそう長くない。

 呪いが解かれない限り、寿命は減り続ける。

 ならば死ぬ前にせめて兄に自分の気持ちを、


「ダメ…エイナの気持ちを忘れたの、私」


 双子の妹であるエイナも兄のことを愛している。

 エイナはエイミーにとって大切な家族。

 なによりエイナの恋を応援したいという気持ちが、エイミーの心の中にあった。


「隠さないと……この気持ち」


 エイミーがそう言った時、病室の扉が開いた。

 病室に入ってきたのは、エイミーが待っていた人ーーー魔森蓮と、


「お邪魔するのじゃ」


 和服姿の美しい少女だった。


「れ、蓮兄さん!なんで満月様と一緒に!?」


 エイミーは驚愕した。

 だが彼女が驚くのも無理はない。

 兄と一緒に入ってきた少女は、誰もが知っている英雄の一人。

 皇覇満月なのだから。


「やぁ、魔森エイミー。初めましてじゃな」

「は、はい!」


 初代魔法少女に声を掛けられて、緊張した様子で背筋を伸ばすエイミー。

 そんな彼女を見て、満月はクスクスと笑う。


「そう硬くなるでない。今日、儂がここにやって来たのはちょっとした用事があってな」

「用事…ですか?」

「うむ。魔森エイミー…お主の呪いを解きに来た」

「……え?」


 一瞬、満月が言っている意味が分からなかった。

 なぜなら呪いを解くなど、本来は不可能に近い行為だからだ。


「呪いを…解く?」

「そうじゃ」

「そんなことできるんですか?」

「できるとも。そのために儂はここに来た」


 満月は右手の掌をエイミーに向けた。

 すると彼女の掌から光の粒子が発生。

 粒子はエイミーの身体を包み込んだ。

 エイミーの顔や腕などの肌に刻まれていた白い紋様が徐々に消えていく。


「呪いが!」

「これでもう大丈夫じゃろう」


 粒子が消えた頃には、白い紋様が消えていた。

 これはつまり…呪いが解かれたということ。

 エイミーは嬉しさのあまり、涙を零した。

 そんな彼女を蓮は優しく抱き締める。


「よかったな…本当に良かった」

「蓮…兄さん…」

「これで学校とかに行けるな」

「うん…うん」


 エイミーは蓮の胸に顔を押し付けて泣いた。嗚咽を漏らしながら。

 蓮は妹が泣き止むまで抱き締める。


 この日…長い間、呪いによって苦しい思いをしたエイミーは救われた。


<>


 エイミーが泣き止んだ後、蓮は満月に頭を下げた。


「ありがとうございます、満月様。妹の呪いを解いてくれて」

「なに。約束じゃからな」

「ならば自分も約束を守ります」


 蓮と満月の会話を聞いていたエイミーは、「ちょっと、待って!」と声を上げる。


「約束ってなに?どういうことなの、蓮兄さん」

「エイミー。お前は気にしなくていいことだ」

「言って…どんな約束をしたの?」


 真剣な表情で尋ねるエイミー。

 これは本当のことを言わない限り、問い続けるだろう。

 そう理解した蓮は正直に話をする。


「エイミーの呪いを解く代わりに、満月様の部下として働くという約束をしたんだ」

「満月様の…部下?」

「ああ」

「そうなんだ……どんなお仕事なの?」

「…分からない」

「分からないでそんな約束をしたの!?なんで!危険な仕事かもしれないんだよ!?」

「…それでお前の呪いが解けるなら、どんな仕事だってするつもりだ」

「蓮兄さん」


 エイミーはそれ以上、何も言わなかった。

 二人の話が終わると、満月は「コホン」と咳をして話を始めた。


「儂の部下として蓮は働く。それは変わらない。だがそうじゃな……魔森エイミー。お主も儂の部下として働かぬか?勿論、給料は出すぞ」

「満月様!何を言ってるんですか!?」


 満月の予想外の発言に、蓮は驚いた。


「魔森エイミーのことも調べさせてもらった。彼女の魔法少女としての才能は非常に高い。儂の部下として十分やっていける」

「確かにエイミーは強い魔法少女の力を持っています。けどだからと言ってーーー」


 蓮は反対した。

 どんな仕事かも分からないのに、妹にやらせるなど兄としては見過ごせなかった。

 だが、


「分かりました。やります。満月様の部下にしてください」

「エイミー!?」


 満月の部下になることをエイミーは決めたようだ。

 蓮はエイミーの肩を掴み、説得する。


「エイミー。お前は気にしなくていい。お前は学校に行って、友達を作って、楽しく笑って過ごせばいい」

「…えない」

「エイミー?」

「笑えないよ!蓮兄さんだけ大変な事ばかりしてるのに、自分だけ楽しむなんてできないよ!私だって力になりたい。私だって蓮兄さんの手助けがしたい」

「エイミー…」

「私も働く。蓮兄さんばかり背負わせないから」

「……」


 真っすぐな瞳で蓮を見つめるエイミー。

 彼女の瞳には強い意志が宿っていた。

 何を言っても無駄だと悟った蓮はため息を吐く。


「分かった。好きにしろ」

「うん!そうする!」


 こうして蓮とエイミーは、満月の部下として働くことになった。

 

「で、満月様?俺達は何をするんですか?」


 蓮の質問に満月はうっすらと笑みを浮かべて答える。


「お主たち兄妹には…儂の学園、『三日月』の生徒として入ってもらう」

「……は?」


 満月の言葉を聞いて、蓮は呆然とした。


「いや…ちょっと待ってください。あの魔法少女育成学園の『三日月』に入る?生徒として?本気で言ってるんですか?」

「そうじゃ。なにか問題でも?」

「問題大ありですよ。あそこは女子しか入ることができない。エイミーならまだしも、俺は男だから無理ですよ」

「女装すればいいじゃろ」

「ぶっ飛ばしますよ」

「冗談じゃ、冗談。学園長として特別に入ることを許す」

「えぇ~」


 蓮には分からなった。

 なぜ妹のエイナが通う魔法少女学園に入らなければならないのか。


「一応、理由を聞いても」

「うむ。実はな、儂の学園にちと面倒なネズミが入っての」

「ネズミ?」

「魔神教団…は知ってるな?」

「…知らない人はいないと思いますよ」


 世界各地でテロ活動している宗教団体ーーー魔神教団。

 彼らの目的は世界を破滅に導くこと。

 テレビのニュースや新聞でも話題になっている。


「で?魔神教団がどうしたんですか?まさか」

「そのまさかじゃよ。儂の学園に…いや、儂の学園都市に奴らは侵入したのじゃ」

「なるほど……つまり俺達は学園都市に侵入した奴らを捕まえる…ってことですか?」

「その通りじゃ。生徒として奴らを探してほしい。できれば早めに見つけてほしい。すでに被害は出ておる」

「被害?」

「……今回、起こったモンスターフェスティバルは人為的によるものじゃ」

「でしょうね」

「知っておったのか?」

「まぁ……二か所同時にモンスターフェスティバルが起こるなんてありえないですからね」


 モンスターフェスティバルは百年に一度、起こるかどうかの災害。

 何度も、なにより複数同時に起こるものではないことを蓮は知っている。


「モンスターフェスティバルを起こせるのは、奴らだけなので」


 前髪で隠れていた目を細め、拳を強く握る蓮。

 そんな彼を見て、エイミーは怯えた。


「…蓮兄さん?」

「……すまん、なんでもない。とにかく事情は分かりました。一応、質問なんですがモンスターフェスティバル以外でどんな被害が出てますか?」

「うむ。今のところ確認されたのは何人かの魔法少女が行方不明になったのと、生徒達が突然狂暴化したぐらいかの」

「なるほど…分かりました。で、いつから学園に生徒として入ればいいんですか?」

「明日かの」

「明日!?早くないですか?」

「すでに準備はしておる」

「はっやいな」

「では明日から頼むぞ。迎えの者は送るから」


 そう言い残して満月は病室から出て行った。

 病室に残された蓮は額に手を当てて、ため息を吐く。


「面倒になったな」


 まさか女子高に生徒として入り、敵を探すとは思わなかった。

 一番予想外だったのは、エイミーが満月の部下になったことだ。


「なぁエイミー。本当によかったのか?今からでも普通の暮らしを」

「私がやりたいの。蓮兄さん」


 エイミーはベットから降りて、蓮を真っすぐ見つめる。


「私は……蓮兄さんの手助けがしたい」


 彼女は兄の右手を両手で包む。


「足手まといにはならないから」

「エイミー…」


 どうやらエイミーの気持ちは変わらないようだ。

 それを理解した蓮は説得を諦めることにした。


「分かったよ。一緒に頑張ろう」

「うん!」


<>


 翌日、呪いが解けたということでエイミーは退院。

 そして蓮とエイミーは学園に行く準備をして、待ち合わせ場所に向かった。


「蓮兄さん。場所はここでいいんだよね?」

「メールだとそう書いてあるな」


 待ち合わせ場所は東京駅のお土産コーナー。

 多くの人間や亜人達がお土産を選んでいる。


「本当にあってる?蓮兄さん」

「メールではそう書いてあるんだけど……そういえばそうとエイミー?」

「なに?」

「荷物…多くね?」


 蓮の言う通り、エイミーは多くの荷物を持っていた。

 限界まで詰め込まれた登山用リュックに大きなボストンバック、そしてスーツケースなど…海外旅行でもそこまで持っていかないだろと突っ込みたくなるような量だった。


「だってあっちでは学生寮に泊まるんだよ?これぐらい当然。そういう蓮兄さんは少なくない?」


 蓮は小さな黒いリュックを背負っているだけで、荷物は少なかった。


「多いと運びづらいし、それに学園都市にはスーパーマーケットやコンビニとかあるからあっちに行って色々集めようかと」

「そっか。あ、蓮兄さん。迎えの人が来るまであそこのソフトクリーム屋さんで何か食べようよ」


 エイミーが指差した方向には、ソフトクリームが売っている屋台があった。


「分かった。俺が買ってくるよ」

「え?いいの、蓮兄さん!」

「ああ。なに味がいい?見た感じ色んな味があるみたいだけど」

「じゃあ、ストロベリー味で」

「了解」


 蓮は屋台でバニラ味とストロベリー味のソフトクリームを購入。

 そしてストロベリー味のソフトクリームをエイミーに渡した。


「ありがとう、蓮兄さん」

「こうして一緒に買い食いするのは久しぶりだな」

「そうだね」

「さぁ、溶ける前に食べようか」

「うん」


 エイミーはソフトクリームを舌で舐めた。

 すると彼女は笑みを浮かべ、細長い耳をピコピコと動かした。

 美味しそうにソフトクリームを食べる妹の姿を見て、蓮は微笑む。


(呪いが解けて本当に良かった)


 一年以上も病室で過ごしていたエイミー。

 そんな彼女が元気になって、こうして一緒に出歩けるようになった。

 兄としてこれ以上、嬉しいことはない。


(あとは…あの《白蛇》を排除するだけだ)


 妹に呪いをかけた犯人、《白蛇》。

 エイミーの呪いが解けたことを《白蛇》は気付いているはず。

 なら必ず奴は動く。

 そしてエイミーをまた狙うだろう。


(エイミーに接触する前に奴を見つけて、俺がこの手で…)


 蓮は眉間に皺を寄せ、目つきを鋭くした。

 その時、エイミーが声を掛けてきた。


「蓮兄さん…」

「ん?なんだ」

「ソフトクリーム…溶けてるよ?」

「え?あ、本当だ!?」


 蓮は急いで溶けかけているソフトクリームを食べた。

 そんな彼を見て、エイミーはクスクスと笑う。


「それにしても遅いね、迎えの人」

「ん?ああ、そうだな。そろそろ来てもいいんだが…」


 蓮はスマホで時間を確認しようとしたその時、


「もういるよ」


 少女の声が二人の耳に聞こえた。

 蓮とエイミーは声が聞こえた方向に視線を向ける。

 視線の先にいたのは、小学生ぐらいの女の子だった。

 くせ毛が多い黒いショートヘアーに、無表情。

 そしてぶかぶかの体操服を着ている。

 どこかだらしないように見える女の子は、口を動かす。


「私はリリー。よろしく」

「よ、よろしく。えっと…君はどこの子かな?お父さんとお母さんは?」


 しゃがんで謎の少女と目線を合わせるエイミー。

 エイミーは彼女を迷子になった子供と思っているようだが、蓮は違った。


「エイミー。その人は子供じゃないぞ」

「え?なに言ってんの、蓮兄さん。どっからどう見ても」

「その人はドワーフだ」


 ドワーフ。手先が器用でアクセサリーや包丁など作るのが得意な亜人。

 ドワーフは背が小さく、成人しても幼い見た目をしている。


「少年の言う通り、私はドワーフ。こう見えて百年以上は生きている」

「え!?す、すみません!勘違いしちゃって」

「気にしなくていい、慣れてる。…君たちが満月様が言っていた子だね」

「じゃあ、あなたが?」

「そう。君たちを迎えに来た」


 そう言ってリリーは後ろに振り向き、前に手を翳した。

 するとなにもない所から白い扉が出現。

 周りにいた人達は扉が突然現れたことに驚いている。


「じゃあ、行こうか」

「え?ここから行くんですか?人が見てますけど」

「気にしなくていい。ただのゴミだと思えばいい」

「失礼過ぎません!?」

「よく言うでしょ。人がゴミのようだって」

「それラピ〇タに出てくるム〇カ大佐の台詞じゃないですか!」

「いいからとっとと行くよ」


 扉を開けたりリーは、扉の向こうに行ってしまった。


「ま、待ってくださいよ」


 エイミーはリリーの後を追いかける。

 蓮は大丈夫かな?と不安な気持ちを抱きながら、扉の向こうに行った。

 すると白い扉は粒子と化して、消滅。

 その光景を見て、周りの人たちは呆然としたのだった。


<>


「ここが浮遊学園都市…『大和』!」


 エイミーは目の前に広がる光景に驚き、感動していた。

 蓮も彼女と同じく驚いていた。


「すごいな…」


 蓮の口から自然とそんな言葉が漏れた。

 二人の視界に映っていたのは、美しい街だった。

 オシャレなお店に装飾的なデザインが施された噴水。

 色とりどりの花がいくつも咲いた花園。

 いつ見ても飽きないような美しく、綺麗な街の光景に、蓮とエイミーは見惚れていた。


「ついてきて。まず学生寮に案内する」


 そう言ってリリーは歩き出す。

 蓮とエイミーは彼女の後を追いかけた。

 街の中を歩いていると、多くの女性達が蓮に注目した。


(そりゃあ気になるよな。男がいれば)


 浮遊学園都市『大和』は男子禁制で女性しか存在しない。

 そんな場所に男がいれば、当然気になるというもの。


(ハァ…早速帰りたくなってきたな)


 蓮は心の中でため息を吐いた。


<>


 その後、蓮達は『三日月』の学生寮に到着した。

 

「ここが学生寮」

「……リリーさん。本当にここ、学生寮であってます?」


 エイミーがそう聞いてしまうのも無理はなかった。

 なぜなら学生寮が、あまりにも大きく豪華な雰囲気を纏っていたから。


「そうだよ。ここが学生寮」

「一瞬、高級ホテルかと思いましたよ」

「初めて見た人は同じことを言う」

「でしょうね」

「とっとと行くよ」

「あ、はい!」


 蓮とエイミーはリリーと共に、高級ホテルの如き学生寮の中に入った。

 学生寮の中はとても綺麗で、床には赤い絨毯が敷かれており、天井にはシャンデリアがぶら下がっていた。

 いったい、いくら金を使って建てたんだと突っ込みたくなるような豪華さに蓮とエイミーは呆然とする。


「ついてきて。君たちの部屋に案内する」


 リリーは蓮とエイミーの部屋に案内する。

 学生寮の廊下を歩いていると、制服を着た少女達とすれ違う。

 その際、少女達は驚いた様子で蓮に視線を向けていた。

 やっぱり驚くよな、男がいればと蓮が思っていた時、


「先輩?」


 少女の声が聞こえた。

 その声は蓮にとって聞き覚えのあるものだった。


「この声は」


 振り返ると、そこには身長二メートルはある褐色肌の女の子がいた。

 その女の子は蓮が知っている人物。

 中学生時代、蓮のことを慕っていた巨人族の後輩。


「修ちゃん?」

「やっぱり、先輩だ!」


 再会したのが嬉しかったのか、笑顔を浮かべて彼女は蓮に近付いた。


「お久しぶりです!先輩!」

「久しぶりだね、修ちゃん。中学以来かな?」

「はい。というか、先輩…なんでここに?」

「色々あって『三日月』に通うことになったんだ」

「そうなんですか!?じゃあ、エイナが言っていたのは本当だったんですね。先輩が魔法少女になれるの」

「まぁね」

「じゃあ、また一緒にいられるんですね?僕、嬉しいです!」

「俺も嬉しいよ」


 蓮と楽しそうに話す修。

 二人の会話を聞いていたエイミーは、「ムッ」と眉根を寄せてゴホンとわざと咳をした。


「修。私のこと忘れてない?」

「え?もしかして…エイミー!?」


 エイミーの姿を視認した修は、驚愕の表情を浮かべた。

 当然の反応だろう。

 エイミーは今まで呪いのせいで病院生活を送っていた。

 そんな彼女が目の前にいるのだから、驚くのも無理はない。


「出歩いて大丈夫なの?呪いは!?」

「呪いは解けたの。蓮兄さんのおかげで」

「そうなんだ…よかった。元気になって。ここにいるということは」

「そう。私も『三日月』に通うの」

「そういえばエイミーも魔法少女になれるんだったね」

「ええ。またよろしくね、修」

「こちらこそ、エイミー」


 修とエイミーは友人関係で、中学時代ではよく遊んでいた仲だ。


「そういえばエイナはどこかしら?電話をかけても出ないし、メールを送っても既読にならないの」

「あぁ~エイナは…その…」


 修は頬をポリポリと掻きながら、目を逸らした。

 彼女の反応を見て、エイナがなにかやらかしたなとエイミーは悟る。


「…今度はなにをやったの?」

「実はエイナが好きな男を自分のものにする魔装を作ろうとしたんだよ」

「魔装を?」


 魔法少女の力で作ることができる特殊アイテム、魔装。

 どうやらその魔装を作っている時に、エイナはなにかやらかしたらしい。


「それで…どうなったの?」

「魔装を作っている最中に爆発したらしくて」

「爆発!?」

「そう爆発。で、使っていた魔装製作室がダメになって……しかも近くにいた生徒達が発情しちゃったみたいで」

「発情!?」

「それからヤバいことになっちゃって…まぁ先生たちがなんとかしたんだけど」

「エイナはどうなったの?」

「今、職員室で先生たちに説教されている」


 話を聞いたエイミーはため息を吐いた。

 蓮も妹がやらかした問題に頭を抱える。


「なにやってるの、エイナ」

「なにやってんだ、エイナのやつ」


 エイミーと蓮の声がハモった。


「話は終わった?そろそろ行きたいんだけど」

「あ、すみません。リリーさん」

「じゃあまたね、修ちゃん」

「はい!また後で、先輩。エイミーも」


 修と別れ、蓮とエイミーはリリーとともに移動する。

 数分後、三人はとある部屋の扉の前で足を止めた。


「ここが《《君たちの部屋》》」

「ここですか…ん?」

「ここなんですね…え?」


 リリーの発言に蓮とエイミーは首を傾げた。


「すみません。質問良いですか?」

「なにかな、魔森蓮くん」

「さっき君たちの部屋って言いました?」

「そうだけど」

「俺とエイミーがこの部屋を一緒に使うんですか?」

「そうだよ」

「……ちょっと待ってください。なんで一緒に使わないといけないんですか」


 いくら兄妹とはいえ、男女が同じ部屋を使うのは色々とマズイと蓮は思った。

 同性同士ならともかく、異性で一緒に部屋を使うのはストレスが発生するからだ。

 兄妹ならなおのこと。


「蓮兄さんと…私が…同棲」


 エイミーは頬を赤く染めて、頭から湯気のようなものを発生させていた。


「今、空いてある部屋がここしかないの」

「いや、だからって…」

「大丈夫。この部屋はとても広いから」

「そういう問題じゃあ」

「じゃあ入ろうか」

「ちょっと!」


 リリーは扉を開け、部屋の中を案内した。

 部屋は彼女の言う通り広く、4LDKはあった。

 ソファーや机などの家具は如何にも高そうなものばかりで、しかも超大画面テレビが置かれている。


「あっちが浴槽。あっちがキッチン。そしてあっちがトイレ」


 指を指しながら説明していくリリー。

 蓮とエイミーは部屋の豪華さに驚く。


「本当に俺達がここを使っていいんですか?」

「もちろん。二人は危険な仕事をするからね。これぐらいはしないと」

「リリーさん。もしかして俺達のこと」

「知ってるよ。私は君たちの協力者。できる限りのことはするから」

「ありがとうございます。助かります」

「じゃあ私はこの部屋から出るね。三十分後にまたこの部屋に来るから。それまでに制服に着替えておいて。制服はそこのテーブルの上に置いてあるから」

「分かりました」

「じゃあ、私はこれで」


 そう言って、リリーは部屋から出ようとして、扉のノブに手を掛けた。

 その時、「あ、そうだ言い忘れたことがあった」と言って、彼女はとんでもないことを吐く。


「ベットは一つしかないから一緒に使ってね」

「「……え?」」


 リリーの言葉を聞いて、蓮とエイミーの目が点になる。


「ちょ、ちょっと待ってください!ベットが一つしかない?なんで!」

「学園長がそっちの方が面白そうだからって言ってたから」

「あのクソババァ」

「それは否定しない」

「否定しないんですか!?」

「だって事実だし。伝説の魔法少女だとか、英雄だとか言われてるけど結局は見た目が若いだけのクソババァだし」

「めちゃくちゃ言うな、この人」

「他に聞きたいことは?ないね。じゃあ私、行くから」


 そう言ってリリーは扉を開けて、部屋から出て行った。


「ちょっと待っ…行っちゃったよ」


 蓮はため息を吐いて、ガリガリと頭を掻く。

 まさか妹と同じ部屋、しかもベットが一つしかないとは思わなかった彼は困った。


「どうするか…エイミー、これからどうしようか?」


 蓮はエイミーに尋ねたが、反応がなかった。


「エイミー?」


 蓮はエイミーに視線を向ける。


「ベット…一緒に寝る。蓮兄さんと…私が…」


 エイミーは顔を真っ赤に染めて、頬に両手を当てていた。

 そんな妹の様子に蓮は首を傾げて、「大丈夫か?」尋ねる。

 するとエイミーはビクッと身体を震わせて、「だ、大丈夫大丈夫!」と言う。


「それより蓮兄さん。荷物を置いて、制服に着替えないと」

「そうだった。早めに着替えて、これからの事を話そうか」

「うん」


 蓮とエイミーはリビングのテーブルの上に置いてある制服をそれぞれ手に取った。


「これが『三日月』の制服か」

「いいデザインだね」


 青と白のブレザーにねずみ色のシャツ、赤いネクタイ。そして黒いスカート。

 シンプルで、和風なデザイン。

 因みに蓮の制服は青と白のブレザーにねずみ色のシャツ、青いネクタイ。そして黒いズボンだ。


「じゃあ俺は寝室で着替えるから」

「なら私は浴室で着替える」

「分かった」


 二人はそれぞれ移動し、制服に着替えた。

 着替え終わった後、彼らはリビングに集合する。

 妹の制服姿を見て、蓮は素直な気持ちを伝える。


「制服、とても似合ってる」

「あ、ありがとう。蓮兄さん」


 ピコピコと細長い耳を動かし、頬を赤く染めるエイミー。

 そんな彼女を見て、可愛いと思った蓮は微笑む。


「蓮兄さんも似合ってるよ。かっこいい」

「ありがとさん。さて、先生が来るまで…これからのことを少し話そうか」


 真剣な表情を浮かべる蓮。

 エイミーは表情を引き締め、コクリと頷く。


「エイミー。魔神教団は危険な存在だ。分かるな?」

「うん」

「魔神教団の奴らを見つけてもその場で捕まえず、俺に報告しろ。いいな」

「分かった。けどどうやって魔神教団の人達を見つけるの?」

「魔神教団の奴らは必ず身体のどこかに黒い骸骨と天秤のタトゥーがあるはずだ」

「タトゥーって…服で隠れてるから見つけるの無理じゃ」

「大丈夫。お前にはこれをやる」


 蓮はエイミーに赤い眼鏡を渡した。

 

「この眼鏡は?」

「俺が作った魔装だ。魔神教団のタトゥーがある奴を見つけることができる」

「すごい!こんなの作れてたんだ。蓮兄さんもこれで?」

「いや。俺はなくても問題ない」

「そうなの?なんで」

「……まぁ、色々あんだよ」


 一瞬、暗い表情を浮かべた兄にエイミーは首を傾げた。

 その時、部屋の扉からコンコンとノックの音が聞こえた。


「入るよ」


 部屋に入ってきたのはリリーだった。


「準備はできたみたいだね」

「「はい」」

「じゃあ次は学園に行こっか」


<>


 蓮とエイミーを連れて学園に向かっていたリリーは、二人のことを観察していた。


(魔森エイミー……吸血鬼とエルフのハーフ。魔法少女としての実力は学生にしては高い方か」


 リリーは百年以上、魔法少女として活動している。

 故にエイミーの実力など見ただけで分かった。

 だが、


(魔森蓮。この少年はいったいなんだ?実力が分からない)


 リリーの頬から一筋の汗が伝う。

 彼女は多くの魔法少女を見てきた。

 だが蓮のような実力が分からない者は見たことがなかった。

 一つだけ確かなのが、蓮はただの少年ではないということ。


(裏世界の住人に恐れられていた炎の魔法少女《魔炎》。満月様の言う通り、とんでもない化け物なのかも)


<>


「ここが学園だよ」


 学園の門の前に到着した蓮とエイミーは目を大きく見開いた。


「すごいな」

「ここが『三日月』」


 二人の視界に映っていたのは、城のような巨大な校舎。

 春でもないというのに桜の穴が咲いた無数の木。 

 白と赤色の鯉が何匹も泳いでいる池。

 和風を感じさせる学園『三日月』に蓮とエイミーは見惚れた。


「綺麗な場所だな」

「そうだね、蓮兄さん」

「ここでエイナは頑張っているのか」

「うん、エイナのことだから頑張ってるよ」

「そして説教されているのか」

「それは言わないでよ。双子の姉として悲しくなっちゃう」


 現在、エイナは先生たちに怒られている。

 そう考えると、蓮とエイミーは肩が重くなるのを感じた。


「二人とも。行くよ」

「「あ、はい」」


 リリーと共に蓮とエイミーは門を潜り、学園の中に入った。

 学園の中を歩いていると、多くの女子生徒達が蓮に視線を向けた。

 魔法少女の学園に男がいる事に彼女達は驚き、ヒソヒソと話す。

 それから多くの生徒達に注目されながら、蓮達は校舎に入り、学園長室に向かった。

 校舎の中はとても綺麗で、床や壁など全て木材で作られていた。

 和風さが強い校舎の中を歩いて十分、三人は学園長室の扉の前に到着する。

 学園長室の扉はとても大きな引き戸で、月の装飾が施されていた。

 リリーが引き戸をコンコンと軽くノックする。

 すると引き戸が勝手に開いた。

 学園長室の中はとても広く、床には畳が敷かれていた。

 そして学園長室の中心には、座布団に座った満月の姿が。


「よく来たのじゃ…蓮、エイミー。さぁ、中に入るのじゃ」


 蓮とエイミーは学園長室の中に入ると、引き戸が自動で閉まった。


「リリー。案内ごくろうじゃった」

「いえ。これも仕事ですので」


 ぺこりと頭を下げるリリー。

 学園長である満月は両手を広げて、声を発する。


「ようこそ、儂の学園へ。どうじゃ?凄い所じゃろ。ん?」


 とても自慢したい。詳しく説明したいという顔を浮かべる満月。

 そんな彼女を見て、蓮は苦笑しながら「そうですね」と答える。


「とても和風的で素敵な場所ですね」

「そうじゃろそうじゃろう。もともとここは儂の夫のために作った場所じゃあ」

「え?そうなんですか」

「儂の夫は和風好きでの。最初はここも学園ではなく、二人の愛の巣だった。だが夫がある日、『先生をしてみたいな』と言ったのでな……魔法少女の学園にしたのじゃ。今は国語や歴史、数学などを教える先生をやっておる」

「あれ?旦那さん。まだ生きてるんですか?魔法少女でもないのに」

「儂の力で寿命を延ばしておるのじゃ。今も若々しい姿で儂と共に生きておるのじゃ」

「そうなんですか……旦那さん、好きなんですね」

「もちろんなのじゃあ!」


 満月は光のない目で語る。


「寿命ごときで死なせんよ。あやつはず~とず~とここで…儂とラブラブな生活を送るんじゃ。永遠にな」

「!!」


 蓮は寒気……いや、恐怖を感じた。

 そして悟った。

 この学園長…ヤンデレだ。それもかなりヤバいほうの。


「……羨ましい」

「エイミー!?」


 とんでもないことを呟いた妹に、蓮は驚愕した。

 エイミーはハッ!と我に返り、慌てて言い訳を始める。


「ち、違うの蓮兄さん!ただ私は旦那さんをずっと好きでい続ける満月様が羨ましいって思っただけで、別に私も将来、魔法少女の力で旦那さんの寿命を延ばして永遠に一緒にいようとか全然、考えてないからね!」

「……」


 蓮は同情した。将来、エイミーと結婚するであろう男に。

 

「さて蓮とエイミー。前にも話したが、もう一度言う。お主たちの任務はこの『三日月』…いや、学園都市『大和』に侵入した魔神教団の奴らを捕まえる事じゃ」

「はい」

「分かってます」

「このことを知っているのは儂とお主たち以外では夫とリリー、そしてもう一人」

「もう一人?誰ですか、それは」


 蓮が尋ねた時、学園長室の引き戸型扉が開き、一人の女性が入ってきた。

 その女性はとても優しそうで、母性を感じさせた。


「遅くなって申し訳ありません。学園長」

「遅れてないぞい。ナイスタイミングじゃ。蓮、エイミー、紹介する。彼女がお主たちのことを知っている人物、風山ルイじゃ」

「初めまして、ルイです。困った事があったら相談してね」


 ルイは笑顔を浮かべて、手を差し伸べた。


「あ、こちらこそ……」


 エイミーも手を差し伸べて握手をしようとした。

 その時—――蓮はルイの首を掴み、強く握り締めた。

 首を絞められて、苦しそうにルイは顔を歪める。


「れ、蓮兄さん!?何をやって!!」


 兄の突然の行動にエイミーは驚く。

 リリーは慌ててルイを助けようとした。

 だがそんな彼女を満月は手で制する。


「い…いったい…なにを!?」

「なにを?それはお前が一番よく知ってるだろう?」


 冷たく、そして低い声を発した蓮はルイを床に叩きつけた。

 強い衝撃を受けたルイは口から空気を全て吐き出し、気を失う。

 ルイを気絶させた兄に、エイミーは問い掛けた。


「蓮兄さん。なんでこんなことを!」

「エイミー。俺が渡した眼鏡を掛けて、こいつを見てみろ」

「え?」

「いいから」

「わ、分かった」


 制服のポケットにしまっていた眼鏡を取り出し、エイミーはかけた。

 今、彼女の目にはルイが赤く光っているように見えていた。


「これって」

「コイツは魔神教団だ」

「え!?でもどう見てもいい人そうだけど」

「…ちょっと待ってろ」


 そう言って蓮はルイの上着を掴み、破き始めた。

 蓮の行動にエイミーはギョッと目を剥く。


「ちょ、蓮兄さん!?」

「見ろ、エイミー」

「え?」

「コイツの右肩、タトゥーがあるだろ?」

「!!」


 蓮の言う通り、ルイの右肩には黒い骸骨と天秤のタトゥーがあった。

 それを見て、満月はパチパチと拍手する。


「素晴らしいのじゃ。儂でも気づけなかったのにお主は一瞬で分かったな」

「よく言いますよ。本当は気付いていたんでしょ?コイツが魔神教団の奴だって」

「ククク…お主には嘘は通用せんのか」

「これは俺のテストってところですか?」

「その通りじゃ。結果は予想以上。まさか一瞬で気付くとは思わなかったぞ。儂だってその者が魔神教団って気付くのに一ヶ月はかかった。流石は魔神教団の《《天敵》》じゃな」


 満月の言葉を聞いて、蓮は目を逸らした。


「リリー…この者達を教室に案内してやれ」

「え?ですが」

「ルイの事は問題ない。儂が後で片づける。それより蓮とエイミーをそれぞれ教室に案内するのじゃ」

「分かりました」


 リリーは二人を連れて、学園長室から出て行った。

 残された満月はクククと笑いながら、目を細める。


「あやつを部下にして正解だったのう。これで…この学園都市にいる害虫を全て消すことができる」


 満月は光のない瞳で、床の上で気絶しているルイを見下ろす。


「さて……儂と愛する夫の巣に入ったこやつは…お仕置きが必要じゃな」

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