《煉獄》3
「こっから先は……」
「私達が相手よ」
いつでも攻撃できるように構えるエイミーと百合。
彼女達は愛する男を傷つけた魔法少女—――《煉獄》を、鋭い目つきで睨んでいた。
「バカ……逃げろ!エイミーと白雪さんが…敵う相手じゃ……ない。それにこれは……俺の復讐だ!邪魔…しないでくれ!」
口から血を吐きながら、上半身を起こす蓮。
そんな彼に、今の自分の気持ちを百合は優しい声で伝える。
「ごめんなさい。あの《煉獄》って人が蓮さんの復讐相手だって分かってる。だけどね……好きな男性が傷つくのを黙って見ていられるほど……私、我慢強くないのよ」
百合の優しい声には、強い怒りが宿っていた。
「それは私も同じです」
エイミーは空中にいくつもの魔法陣を展開する。
その数……百以上。
「蓮兄さんを傷つけたあの魔法少女は絶対に許さない。蓮兄さんを傷つけた罪……償わせる」
ルビーの如き赤い瞳を怪しく光らせるエイミー。
二人の魔法少女の胸には、激しく燃え上がる怒りの炎が宿っていた。
「バカ……やめろ!」
蓮は止めようとしたが、二人は止まらなかった。
「そこでじっとしててね。蓮兄さん」
「あの魔法少女は……私達が倒す!」
エイミーと百合は、《煉獄》を倒すために動き出す。
「狙い撃つ!!」
百合は片手から五本の白い矢を生み出し、弓に装填。
装填させた白い矢に風を纏わせ、一斉に放つ。
音速を超えた速度で飛ぶ五本の矢を、《煉獄》は紙一重で躱す。
「無駄だよ♪私には未来が見えるから♪」
「なら……この未来は見えていたかしら?」
いつのまにか《煉獄》の前に立っていた百合は、眼帯を外す。
彼女は黄金に輝く左目で《煉獄》の目を見つめながら、告げる。
「止まって」
その言葉を聞いた瞬間、《煉獄》は動きを止める。
「今よ!エイミーさん!!」
百合がその場から離れた直後、エイミーはいくつもの魔法陣から魔法攻撃を放つ。
赤い魔法陣から炎の剣が放たれ、黄色の魔法陣から石の槍が放たれ、青い魔法陣から水の矢が放たれる。
あらゆる属性の魔法攻撃が《煉獄》に直撃。
煙が舞い上がり、轟音が鳴り響く。
「私の〈マジックアイテム〉は【魔法王】。全ての属性を使い、あらゆる魔法を使うことができる王の力。そこらへんの魔法少女と同じにしないで」
エイミーがそう言った時、煙から赤黒い炎の竜の頭が現れる。
炎竜は顎を開けて、エイミーに襲い掛かった。
「くっ!」
エイミーは素早く光の盾を生成。
炎竜の攻撃を光の盾で防いだエイミーは、別の魔法を発動する。
「凍って!」
炎竜の頭の周囲に、水色の魔法陣がいくつも出現。
魔法陣から冷気が放たれ、炎竜の頭を凍結させる。
「なるほどね♪確かに強力な〈マジックアイテム〉♪ただ……それを完全に使いこなせてないわね♪」
少女の声が聞こえた直後、煙が吹き飛んだ。
声の主である《煉獄》は傷一つついておらず、余裕の表情で笑みを浮かべていた。
「嘘!あれだけの攻撃を受けたのに!?」
「流石は魔神教団の幹部。そう簡単に倒せる相手じゃないわね」
無傷の《煉獄》を見てエイミーは目を見開き、百合は顔から一筋の汗を流す。
「アンタたちは強いよ♪十数年しか生きていない魔法少女にしては♪だけど……私には勝てない♪」
《煉獄》は大剣を地面に突き刺し、告げる。
「焼き尽くせ、【轟炎竜】」
次の瞬間、大剣から赤黒い炎の海が発生した。
ありとあらゆるものを焼き尽くす灼熱の炎海が、二人の少女に襲い掛かる。
回避も不可能。
防御も無意味。
エイミーと百合は死を覚悟し、目を瞑る。
「終わりだね♪」
《煉獄》がそう呟いた時、
「させねぇよ!」
少女の声が響いた。
《煉獄》は声が聞こえた方向に視線を向け、目を見開く。
「アンタ!まだ動けるの!?」
《煉獄》の両目に映るのは、大太刀を構えた赤き魔法少女—――魔森蓮の姿だった。
大太刀には赤い炎が纏っており、激しく燃えている。
「吹き飛ばせ!【鳳凰】!」
蓮は大太刀を力強く横に振るった。
直後、刃から巨大な炎の斬撃が飛ぶ。
赤黒い炎の海と赤い炎の斬撃が激突。
二つの炎は激しく拮抗する。
そして、二つの炎は消滅した。
「流石だね♪私の炎を相殺させるなんて♪でも……もうそろそろ限界みたいだね♪」
《煉獄》がニヤリと笑いながらそう言った時、蓮は大太刀を地面に落とした。
顔から大量の汗を流しながら、片膝を地面に付ける。
「蓮兄さん!」
「蓮さん!」
慌ててエイミーと百合は蓮に駆け寄った。
口からハァハァと荒い息を吐く蓮。
そんな彼を見て、二人の少女は気付く。
自分達を守るために無理をしたのだと。
「ごめんなさい。私達を守るために……無理をさせて」
「守るはずが守られるなんて……」
泣きそうな顔を浮かべるエイミーと、自分の不甲斐なさに唇を噛む百合。
そんな二人に、蓮は優しく笑いかける。
安心させるかのように。
「いいんだ。これは……俺が望んでやったことだ。お前らが俺を守りたかったと同じように……俺もお前らを守りたかったんだ」
蓮は大太刀を拾い、ゆっくりと立ち上がる。
(怪我は治っているけど、疲労はそうとう溜まっている。このままじゃあ、蓮さんが……)
なんとか蓮を戦わせないようにしたい百合。
だが彼女の考えを読んでいたのか、蓮は言う。
「止めないでくれ、白雪さん。これは……俺の復讐だ」
「!!」
「俺はアイツを殺したい。この手でもう一度、殺したい。家族を奪ったアイツを……《煉獄》の命を奪いたい」
蓮の赤い瞳には、あらゆるものを焼き尽くす憎悪の炎が宿っていた。
だが彼の瞳に宿っているのは憎悪だけではないことに、百合は気付く。
「俺はもう……失いたくない。友達が、仲間が、家族が……大切な人が死ぬところなんてもう見たくない」
蓮の言葉には、大切なものを守りたいという想いが宿っていた。
悲しみと憎しみで歪めた蓮の顔を見て、百合はハッと気付く。
(そっか……だから人を殺すのね)
蓮は好きで人を殺すような狂った人間ではない。
誰かを守るためには、誰かを殺すのが必要。
それを蓮はよく理解している。
だから『敵』だからという理由で人を殺せる。
殺さなければ……大切なものを失うと、蓮は分かっているのだ。
「蓮さん……私はあなたが傷つくのは嫌よ。でも……あなたは敵を殺したい。それが……あなたの覚悟でもあるから。そうでしょう?」
「……はい」
「なら……もう止めないわ」
百合は蓮の右手首につけた腕輪型魔装を……外した。
「白雪さん……」
「本当はあなたにこれ以上、人殺しをしてほしくない。だけど……あなたが敵を殺すことを望むなら、私は……もう止めない」
白き少女は愛する男の手を優しく、だけど強く握る。
「あなたが人を殺して傷ついたら……私があなたの傷を癒す」
白き魔法少女は微笑みながら、告げる。
「だから……行ってらっしゃい」
その言葉を聞いた蓮は《煉獄》に視線を向け、歩き出す。
「ありがとう。白雪さん」
赤き魔法少女は足を止めない。
振り返らない。
敵を殺すために。
復讐するために。
そして大切なものを守るために。
《魔炎》は前に進む。
そんな彼の背中を、白雪百合は見届ける。
「なにを……やってるんですか!」
怒りを宿した声を発したのは、魔森エイミーだった。
彼女は百合の胸ぐらを掴み、顔を近づける。
エイミーは眉間に皺を寄せており、鋭い目つきで百合を睨んでいた。
「なんで腕輪を外すんですか!」
「ああしなければ、あの《煉獄》には敵わない」
「だからって!」
「……あなたが言いたいことは分かるわ。蓮さんには人殺しなんてしてほしくない。だけど……」
百合は真っすぐな目でエイミーを見つめる。
「あの人は敵を殺すのを望んでいる。覚悟を決めている。私には……もう止めることはできない」
「それで……それで蓮兄さんの心が傷つくとしてもですか!!」
エイミーは悲痛な叫びをあげた。
彼女の瞳は潤んでおり、今にも泣きそうな顔をしている。
「分かってるんです。人を殺さず、誰かを守ることができるのは…フィクションだけだって!現実ではなにかを守るためには、目の前の敵を殺さないといけないんだって!!でも……蓮兄さんは人殺しをすればするほど、心がボロボロになる」
苦しそうに……そして悲しそうに顔を歪めるエイミー。
そんな彼女の手を、百合は優しく握る。
「そうね。あの人は優しい。優しいからこそ、心が傷つきやすい。だから……私たちで癒しましょう」
「癒す?」
「ええ……それが私たちの役目よ。そして……彼が敵を殺すのを見届けるのも……私たちの役目」
百合は真剣な表情で視線を向ける。
《煉獄》に歩み寄る蓮に。
「蓮兄さん……」
エイミーは泣きそうな顔で、愛する兄の姿を見る。
これから起きるのは、化物クラスの魔法少女の殺し合い。
血を流し、肉を斬る戦いだ。
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