《煉獄》2
「クソが!!」
悪態を吐き捨てる蓮。
彼は炎を纏った大太刀を素早く振るい、怒涛の連撃を放つ。
だがその連撃を、《煉獄》は大剣で防ぎ、紙一重で躱す。
完璧な防御と回避。
攻撃が一つも当たらず、苛立った蓮は眉間に皺を寄せる。
「アハハハ♪イライラしてるね♪《魔炎》♪」
「黙れ……それより聞きたいことがある」
「いつからこの学園都市にいたかって話かな?」
「!!なんで俺の聞きたいことが分かった」
「それは自分で考えて。まぁ、この学園都市にいつからいたかっていう質問は答えてあげる」
不気味な微笑みを浮かべながら、《煉獄》は口を動かす。
「一か月前だよ♪」
「なっ!!」
その言葉を聞いて、蓮は目を見開く。
「一か月前って……俺がこの学園都市に来る前じゃないか!」
「そうだよ♪」
「お前は俺を殺しにこの学園都市に来たんだよな?」
「そうだね♪」
「そんなの俺がこの学園都市に来るって知らなければ……!!」
蓮は自分で言った言葉で、あることに気付く。
「まさかお前……見えているのか?未来を!」
「せ~いか~い♪」
笑みを深めながら、《煉獄》はパチパチと拍手する。
「そうか……俺の攻撃が全て防がれたり、俺の質問がなんなのか分かったのは……」
「そう。全て見えていたから。この魔眼のおかげで」
《煉獄》は人差し指を黒い右目に向ける。
その右目が未来視の魔眼。
蓮はガリッと歯噛みする。
敵が強くなったことに、彼は更にイラつく。
「昔よりも面倒な女になりやがって」
「アンタを殺したいっていう私の気持ちが、右目にこの魔眼を宿らせたの♪……忘れないわ♪この顔につけた傷を♪」
《煉獄》は顔に刻まれた古い傷跡を指で撫でる。
「私の顔に傷を付けたあんたは許さない♪私を一度、殺したあんたは許さない♪だ・か・ら……殺すね♪あんたを♪」
瞳を怪しく光らせた《煉獄》は大剣を上段に構えた。
すると大剣から赤黒い炎の竜の頭が現れる。
それも一つや二つではない。
五十以上。
「私の炎で焼き殺してあげる♪」
《煉獄》は大剣を振り下ろす。
無数の炎竜の頭が、一斉に蓮に襲い掛かる。
「クソったれが!!」
蓮は背中から炎の翼を生やし、空を飛ぶ。
そんな彼を無数の炎竜の頭は追いかける。
「これでも喰らえ!!」
蓮は炎を纏わせた大太刀を素早く振るった。
刃から炎の斬撃が飛び、無数の炎竜の頭を切り裂く。
切り裂かれた炎竜の頭は爆発し、爆炎が舞い上がった。
その時、
「見えてたよ♪」
蓮の背後から声が聞こえた。
慌てて彼は振り返る。
その直後、赤黒い炎の斬撃が蓮の身体に直撃。
斬撃を放ったのは他でもない。
赤黒い炎の翼を生やした《煉獄》だった。
「くっ!竜の頭は囮か!」
肉が焼ける痛みと肉が斬られる痛みが、蓮を襲う。
血肉が焼けた臭いが、蓮の鼻を刺激する。
「炎よ、癒せ!」
蓮がそう叫ぶと、傷口から赤い炎が噴き出す。
赤い炎は、焼け斬られた傷を塞ぐ。
完全に傷を癒した蓮は、己の身体に炎を纏わせる。
「未来が見えるなら……未来が見えても意味のない速さで刀を振るえばいいだけだ!!」
赤い炎の力で己を強化した蓮は、身体を高速回転させる。
そして遠心力を宿らせた神速の剣撃を、《煉獄》の身体に叩きつける。
防御も回避もできない一撃。
それを受けた《煉獄》の鎧に、大きな斬撃の跡ができる。
そしてその跡から血が噴き出した。
(よし!これで!)
確実に殺した。
蓮がそう思った時、彼の顔に赤黒い炎を纏った拳が叩きつけられた。
重く、熱い一撃を受けた蓮は地面に勢いよく落下。
蓮は地面に激突し、砂煙が舞い上がる。
「ガハッ!」
口から血を吐く蓮。
そんな彼の目の前にゆっくりと着地した《煉獄》は、怪訝な表情を浮かべていた。
「どうしたの?今の一撃は確実に私を殺せるものだった。なのに私は生きている。軽傷ではないけど、致命傷でもない。手加減したつもり?」
そう言いながら蓮のことを見下ろしていた《煉獄》は、あることに気付く。
「その腕輪……ああ、なるほどそういうことね♪」
蓮の右手首につけられた腕輪を見て、《煉獄》は嘲るように笑う。
「その腕輪型魔装には人を殺せないようにする力が宿っているのね♪アハハ♪」
「クソ…が……」
「せっかく私を殺せたのに殺せないなんて……残念な魔法少女♪」
《煉獄》は蓮の腹を強く踏み、体重をかけた。
ボキボキと骨が折れる音が鳴り、蓮の口から血が流れ出る。
口の中に血の味が広がり、彼の意識が朦朧としていく。
「それにしてもまだ妹の〈マジックアイテム〉を使っているのね♪自分の〈マジックアイテム〉を使えば勝てたのに♪」
「うる…せぇ!」
「そういえばあんたの妹は、勝てもしないのに私と戦ったわね♪まったくなにがしたかったのか♪本当……バカな魔法少女だったわ♪」
蓮はギリッと歯噛みしながら、眉間に皺を寄せた。
絶対に殺してやるという殺意と憎悪が、彼の中から湧き上がる。
鬼の形相で睨んでくる蓮に、《煉獄》は顔を近づける。
「アハハ♪いい顔だね~♪本当に♪」
目を細めながら笑う《煉獄》は、赤黒い炎を纏った大剣を構える。
「家族の仇をとれないまま……死んで♪」
《煉獄》は大剣を振り下ろそうとした。
その時、なにかに気付いた《煉獄》は顔をずらす。
次の瞬間、彼女の顔の横を風を纏った白い矢が通り過ぎた。
僅かに矢に掠った《煉獄》の頬に、小さな傷ができ、血が流れる。
「なにするの?」
怒気を宿した声を発し、矢を放った者を睨む《煉獄》。
矢を放ったのは、白いドレスアーマーを纏った白髪の魔法少女—――白雪百合だった。
「その人は私の最愛の人なの。殺させないわ」
弓矢を構えながら、《煉獄》を睨む百合。
そんな彼女を見て、《煉獄》は鼻で笑う。
「ハッ♪見たところ百年も生きていない小娘じゃない♪そんな小娘が一対一で私に勝てるとでも?」
「一対一じゃない。二対一だよ」
別の少女の声が聞こえた直後、大きな光の槍が《煉獄》に向かって飛来する。
《煉獄》は素早くその場から離れて、大きな光槍を躱す。
光の槍を放ったのは、白と黒のローブを羽織った緑髪の少女—――魔森エイミーだった。
エイミーは鋭い目つきで、《煉獄》を睨む。
「こっから先は……」
「私達が相手よ」
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