兄は無理をしていた1
学園長室から出た後、蓮達は廊下を歩きながらこれからのことを話していた。
「さて……《煉獄》が狙っている相手はいったい誰なんだ?」
「この学園都市で学園長以外で強い魔法少女……特別な〈マジックアイテム〉を持っている人とかかな?」
「もしくは特殊な種族の魔法少女って可能性もある」
蓮とエイミーは《煉獄》が狙う魔法少女が誰なのか考えた。
その時、白雪百合はパンパンと手を叩く。
「《煉獄》が誰を狙っているかという話は後にしましょう。今、私達がやらないといけないのは―――休むこと」
「……そうですね。エイミーも疲れているだろうし」
「……蓮さん。私の目を見て」
「え?」
蓮は白雪百合に視線を向けた後、目を見開く。
彼の視界に映ったのは、眼帯を外した百合の顔だった。
「眠って」
黄金の左目を輝かせながら、百合はそう言った。
彼女の言葉を聞いた蓮は前髪で隠れていた目を閉じ、身体を揺らす。
倒れそうになっている蓮を百合は両手で優しく受け止めた。
「ちょ、百合さん!なにをやって……」
「こうでもしないと蓮さんは休まないから。それよりエイミーさん。保健室に運ぶのを手伝って。彼を休ませるわ」
「え?」
「この人……もう限界なのよ」
「ど、どういう意味ですか?」
「蓮さんの〈マジックアイテム〉、【鳳凰】はどんな怪我や病も治し、欠損した肉体を再生することができるけど……疲労までは回復できないの」
「!!」
「それに減った血まで増やせないから、今の彼……貧血状態なの」
エイミーは言葉を失った。
そして百合の言葉を聞いて、初めて気づく。
蓮の顔色が悪いことに。
「嘘……じゃあなんでさっきまで平然としていたんですか?」
「あなたを心配させないためよ。まったく……この人は無理をするわ」
「そんな……私のせいで」
「違うわ。これは蓮さんが悪い。辛いはずなのに無理して平然を装った彼がいけないのよ。それより運ぶのを手伝って。保健室なら疲労回復と血を増やす薬があるから」
「わ、分かりました」
エイミーは百合と一緒に蓮を支え、廊下を歩いた。
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綺麗に清掃され、消毒の臭いがする保健室にやってきたエイミーと百合は、蓮をベットに寝かせる。
そして液体状の薬―――ポーションを蓮の口に流し込んだ。
すると彼の顔色がよくなっていく。
それを見て、エイミーと百合はホッと安堵する。
「よかった~。もう大丈夫ですね」
「ええ。そうね」
「……あの、白雪さん」
「なにかしら?」
「ありがとうございます。蓮兄さんを休ませてくれて。私……ぜんぜん気づきませんでした」
「気にしなくていいわ。蓮さんは平然のフリをするのがうまいから、普通は気付かないわ」
「そう……ですか」
眉を八の字にして、俯くエイミー。
そんな彼女の手を……百合は優しく握る。
「何度も言うけど、あなたのせいじゃないわ。これは蓮さんが悪い」
「でも……」
「蓮さんは……優しすぎるのよ。妹を心配させないために平然を装うの。例えどれだけ自分が傷ついているとしても」
困った顔で笑みを浮かべながら、百合は蓮を見つめる。
「……昔、聞いたことがあるの。『なんでそんなボロボロになっているのに平然としていられるのよ?』って」
「なんて……答えたんですか?」
「『俺が辛い、痛いと言っていたら死んだアイツが心配する。だから俺は平気なフリをして、アイツを安心させなくちゃあいけない』って言ってたわ」
「アイツ?」
白雪百合は目を瞑りながら、口を動かす。
「蓮さんの……実の妹よ」
「!!」
「蓮さんは妹をとても可愛がっていたらしいの。妹さんは明るくて、元気で……どんなに辛いことがあっても平気な顔をする強い魔法少女だったらしいわ」
「……」
「蓮さんは死んだ妹が安らかに眠れるように、どんなに辛くても元気なフリをするって決めているみたいなの」
百合の話を聞いていたエイミーは、胸が苦しくなるのを感じた。
(ああ……最低だな、私。……蓮兄さんの実妹に嫉妬している)
蓮が誰よりも想っている実の妹。
そんな彼女に暗い感情を抱いていいることに気付いたエイミーは、自己嫌悪する。
「蓮兄さん……」
エイミーは自分の胸に手を当てながら、愛する兄を見つめた。
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