《白雪姫》10
魔法少女育成学園『三日月』の学園長室。
魔神教団の魔法少女達を捕まえた後、蓮達は学園長に分かったことを報告していた。
「—――という感じで、《煉獄》は学園長を狙っているわけではないようです」
「うむ。ご苦労」
蓮達の報告を聞いた学園長―――皇覇満月は手を組みながら思案する。
「それにしても……儂ではない……か。ならなぜ《煉獄》はこの学園都市に来たのじゃろうな」
「あの……この浮遊学園都市を落すのが目的ではないでしょうか。そうすれば多くの人が死にますし」
エイミーは自分なりの答えを出した。
だが彼女の答えを蓮はすぐに否定する。
「それは絶対にないな」
「どうして?」
「《煉獄》がもし学園都市を落とすのが目的なら、もうやっている」
「じゃあ……なにが目的なの?」
蓮は顎に手を当てて、黙り込む。
数秒後、彼はゆっくりと口を動かす。
「……この学園都市に殺したい奴がいるんじゃないか?例えば……魔神教団の障害になるやつとか」
「障害……学園長じゃなくて?」
「奴は初代魔法少女達を殺せる手段を持っている。だから学園長とは別の強い魔法少女か……あるいは厄介な魔法少女がこの学園都市にいるんじゃないか?」
蓮の言葉を聞いた満月は、真剣な表情で声を出す。
「一人……心当たりがあるのじゃ」
「!誰です?」
「ふむ……それは……」
満月が喋ろうとした時、学園長室の扉からノックの音が聞こえた。
「失礼するよ」
扉を開けて、学園長室に入ってきたのは……黒い髪を伸ばした少年だった。
タレ目で顔が小さく、少し幼く見える。
まさに和風美少年という言葉に相応しい。
「月夜♡ようやく来たのじゃあ♡」
満月は座布団から立ち上がり、少年に駆け寄り抱き付く。
少年の頬に頬擦りする満月はまるで猫のよう。
「あれって……」
「学園長の旦那さんだね」
初めて満月の旦那―――皇覇月夜を見て、蓮とエイミーは少し驚く。
「……若いな。俺と同い年ぐらいに見えるな」
「でも数百年以上は生きているんだよね」
「確かそうだったな。やっぱり学園長、魔法少女の力で旦那の歳を取らせないようにしているな」
ヒソヒソと蓮とエイミーが話していると、
「やぁ……君が魔森蓮くんだね?会えて嬉しいよ」
月夜は蓮に近付いた。
「俺を知ってるんですか?」
「うん。男なのに魔法少女になれる子でしょ?この学園都市では有名だよ。僕は皇覇月夜。よろしくね」
笑顔を浮かべながら、手を差しだす月夜。
いい人そうだなと思いながら、蓮は彼の手を握る。
「君がこの学園都市に来てくれて嬉しいよ。ここは女性ばかりで」
「あはは……そう……ですよね」
「それにしても君から僕と同じ匂いがするよ」
月夜は蓮の隣にいるエイミーと百合に視線を向けた。
すると同情した顔で彼は蓮の肩に手を置く。
「……苦労してるね」
「……分るんですか?」
「うん。だって……独占欲と束縛が強い妻がいるから」
死んだ魚のような目をする月夜。
そんな彼を見て蓮は哀れに思い、泣きそうになる。
「月夜さん……今度、どこかで食事しましょうか。二人っきりで」
「本当かい!嬉しいな……男同士で食事なんて久しぶりだな~」
心から嬉しそうに笑う月夜。
彼の目は僅かに潤んでいた。
それを見て蓮は口に手を当てて、泣くのを必死に我慢する。
そして思った。
ヤンデレの女に愛された男は……死ぬまで苦労するのだと。
いや……恐らく死なせてももらえないだろう。
「さて、お主たち……そろそろ帰るのじゃ。儂らはこれからイチャイチャするからのう♡」
「ハハハ、満月……昨日もたくさんやったから今日ぐらい休みにしない?」
「なにを言う。コレカラモズート、イチャイチャスルノジャ♡」
瞳を真っ黒に染めながら、笑みを浮かべる満月。
そんな彼女に抱きつかれている月夜は、蓮を見つめた。
助けて。
月夜の目はそう叫んでいた。
それに対し蓮は、
「失礼しました」
エイミーと百合を連れて学園長室から出て行った。
(すみません、月夜さん。ヤンデレの女を怒らせたらどうなるか知っているので、助けられません)
心の中で謝罪しながら、蓮は学園長室の扉をゆっくり閉じた。
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