《白雪姫》6
浮遊学園都市『大和』の『満月通り』。
そこは美味しい料理店やCDショップなどの娯楽がある商店街。
今日は祝日なためか、多くの女性たちが商店街で楽しんでいた。
昼間から酒を飲む者。
カフェで読書を楽しむ者。
友達と一緒に洋服を選ぶ者。
多くの女性と少女達が日々の疲れを癒すために、休日を満喫していた。
そんな商店街にある小さな本屋の前で、一人の少年と二人の少女が立っていた。
「ここでいいんですね?白雪さん」
「ええ。そうよ」
蓮の質問に、頷いて答える白雪。
「よし。じゃあさっきも言った通り、俺が《煉獄》と戦うから二人は俺のサポートをしてくれ」
「ええ」
「わ、分かった」
力強く頷く白雪と、少し頼りない声で返事をするエイミー。
彼女の手は僅かに震えている。
それを見た蓮はエイミーの頭を撫でながら、優しく言う。
「お前まで戦う必要はないんだぞ?逃げたって誰も責めない」
「……いやだよ。もう蓮兄さんだけ戦わすのは」
「エイミー……」
「それに私は蓮兄さんを支えると決めたの。もう一人で戦わせない」
エイミーのルビーの如く赤い瞳には、強い決意が宿っていた。
なにを言っても無駄。
そう理解した蓮はハァとため息を吐く。
今、彼の中には二つの感情が宿っていた。
一つは妹が立派になって嬉しいという感情。
そしてもう一つはやはり妹には、危険な目に遭ってほしくないという心配の感情。
二つの感情が混ざり合い、蓮は複雑な気持ちを抱いていた。
妹の成長を喜ぶべきか、それとも自分と一緒に危険な仕事をしようとする妹を怒るべきか……彼には分からなかった。
「分かった。だけど危険だと思ったらすぐに撤退しろ。いいな?」
「うん!」
「よし……行くぞ」
蓮は本屋のドアノブを掴もうとした。
その時、蓮は慌ててエイミーと白雪を両腕で抱え、ドアから距離を取る。
直後、ドアが大きな音を立てて爆発。
爆風が周囲の物を吹き飛ばし、黒い煙が発生する。
周囲にいた人々は悲鳴を上げて、逃げ出す。
「いきなりかよ!」
エイミーと百合を離した蓮は、自分の胸から赤い大太刀―――【鳳凰】を顕現させ、引き抜く。
前髪で隠れていた目を細めながら警戒している彼の耳に、少女の声が響く。
「久しぶりね~。《魔炎》」
爆炎の中から現れたのは、大きな円状の盾を持つ黒髪の少女。
彼女は口元を三日月に歪め、ナイフの如く鋭い目で蓮を睨む。
「お前は……《煉獄》の直属の部下、《爆破》か!」
「ええ、そうよ。あなたにぶった斬られた《爆破》の火月よ。ヒヒヒ」
「お前も生きていたのか」
蓮は眉間に皺を寄せながら、目の前にいる魔神教団の魔法少女を睨む。
(最悪。こいつも生きていたのか……クソが)
殺したはずの奴が目の前で生きていることに。
そして敵を殺しきれていなかった自分の不甲斐なさに。
蓮はマグマの如く熱い怒りを覚えた。
だが彼はフゥ―と長い息を吐き、怒りを鎮める。
(落ち着け。まずは目の前にいるこいつをどうするか考えろ)
今の蓮は【非殺の腕輪】のせいで人を殺せない。
ならどうするべきか?
そんなものは決まっている。
(死なない程度に重傷を負わせて、無力化する)
蓮は唱える。
「変身!」
次の瞬間、蓮の身体が赤く燃えあがる。
炎が消えると、蓮は赤き甲冑を纏った魔法少女へと姿を変えていた。
彼は大太刀を構え、刃に炎を纏わせる。
「行くぞ、《爆破》。もう一度、殺してやる」
「ヒヒヒ。あの時とは違うわよ」
不気味な笑い声を漏らした火月は、指をパチンと鳴らした。
するとなにもないところから、武器を持った魔法少女達が現れる。
その数……百人。
「なるほど……数を揃えたから勝てるって思っているわけか……舐めるなよ、クソアマ」
全てを容赦なく斬り裂く刃のような蓮の殺意。
その殺意に気圧された火月は一歩後ろに下がる。
彼女の額から汗が流れた。
「百人程度で俺は死なねぇ。俺を倒したければ……十万人連れて来い!!」
覇気が宿った蓮の大声に、百人の魔神教団の魔法少女は怯えた表情を浮かべた。
そんな彼女達に火月は一喝する。
「怯むな!数はこっちのほうが上だ!」
火月の言葉を聞いた魔法少女達は武器を構えた。
その時、光の球と風を纏った白い矢が魔神教団の魔法少女達を吹き飛ばす。
光の球と白い矢を放ったのは、二人の魔法少女。
一人は黒と白のローブを羽織り、両手の全ての指に黄金の指輪をはめたエイミー。
そしてもう一人は白いドレスアーマーを纏い、白い弓を持つ百合。
「私達も!」
「いるのよね」
火月は顔を歪めて、ガリっと歯噛みする。
イラつく彼女を蓮は睨みながら、告げる。
「全員、潰してやるよ。イカレ信者共」
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