《白雪姫》5
「《煉獄》の居場所が分かったわ」
魅了の魔眼を使い、魔神教団の少女から情報を引き出した白雪百合。
そんな彼女に、蓮は申し訳なさそうな顔で謝罪する。
「すみません」
「どうしてあなたが謝るの?」
「……あなたはその魔眼を嫌っていた。なのに使わせてしまった」
蓮は知っている。
百合が自分の左目に宿っている魅了の魔眼を心から嫌っていると。
彼女は魔眼のせいでヤクザに攫われ、そして多くの人を不幸にした。
魔眼がある限り、胸を締め付けるような罪悪感は消えない。
不幸にしてきた人たちのことを忘れることはできない。
魔眼を使う度に彼女は思うはず。
なんで私の左目に人を不幸にするものが宿ってしまったのかと。
そう考えると蓮は、胸が苦しくなるの感じて―――、
「それは違うわ。蓮さん」
蓮の頬を白い左手で優しく触れ、百合は真剣な表情で口を動かす。
「あなたはなにも悪くないわ。この力を使うって決めたのは私なの」
「ですが」
「確かに私はこの魔眼が嫌い。だけど感謝しているわ」
「え?」
「この魔眼のおかげであなたに出会えたわ。あなたに出会えたおかげで今の私には手足がある。髪がある。綺麗な肌がある。美しい声がある。そして……恋を知った」
百合は頬を赤く染めて、微笑みを浮かべる。
恋する乙女の顔で、彼女は自分の想いを目の前にいる男に伝えた。
「この魔眼は嫌いだけど、この魔眼がなければあなたと出会えなかった」
それは偽りのない少女の言葉。
彼女の声には、あなたに出会えてよかったという感謝の気持ちが宿っていた。
「私はあなたのためならこの魔眼を使うわ」
音色の如き美しい彼女の声には、迷いがなかった。
「あなたの敵は私も一緒に倒すわ」
彼女のホワイトサファイアの如き白い右目には、強い決意が宿っていた。
「だから言って。私にしてほしいことを」
白き少女から感じる本気に、蓮は気圧されて一歩後ろに下がった。
数秒後、蓮はハァとため息を吐き、両手を挙げて降参のポーズを取る。
「分かりました。なら……あなたを頼りにします」
「!ええ……まかせて」
白き少女は頬を緩めて、頷いた。
彼の役に立てる。
彼の隣で戦える。
そう思うと彼女は心地よく、そして温かい気持ちを感じた。
「まず最初にお願いしたいことがあるんですど」
「なにかしら?」
「その……俺の股間から右手を離してもらえます」
「え?」
百合は自分の右手に視線を向けた。
そして気付く。自分の白い右手が蓮の股間を触っていることに。
「……」
百合は一瞬思考が停止した。
だがそれは無理もなかった。
なぜなら好きな男の聖剣を触っているのだ。
そう。聖剣を触っているのだ。
触っているのだ!蓮のエクスカリバーを!!
しかもただ触っているのではない。力強く鷲掴みしている。
「……蓮さん」
「なんです?」
「人って無意識になにか触っている時があるの」
「なるほど。それで?」
「好きなものだったり、興味深いものだったりするものだったらついつい触りたくなるの。ほら、学校に設置されている消火栓の赤いボタンとか触りたくなるでしょ?」
「なるほど。確かに」
「だからあなたの聖剣を鷲掴みにしている私は……悪くないわ」
「悪いわ。早く離せ」
思わず敬語をやめて、突っ込みを入れる蓮。
だが百合は離さない。
むしろ強く……そしていやらしく触る。
「ねぇ蓮さん。このあとホテルに行かないかしら」
「行かねぇよ。とにかく俺の聖剣から手を離せ」
「いやよ。あなたの聖剣の感触をもっと感じたいわ」
「やめろ。俺の聖剣だぞ」
「違うわ。私の聖剣になるものよ」
百合は蓮の聖剣をにぎにぎと揉むように触る。
「おい、本気でやめろ。いい加減、俺の聖―――ああ、もう!めんどくさい!とにかくチ〇コから離せ!」
「あら……あなたのチ〇コは硬くなっているけど?」
「美少女がチ〇コなんて言うなよ!おい、マジでやめ―――」
「やめないわ。いっそこのまま―――」
ハァハァと荒い息を漏らす百合の頭を、学園長はスパン!と素早く叩いた。
強い衝撃を受けた百合は、頭を両手で抱えて蹲る。
「なにやっとるんじゃ、お主は」
呆れた表情を浮かべる学園長。
エイミーは蓮の腕に抱きつきながら、猫のようにフシャー!と威嚇する。
「そういうのは付き合ってからにせんか、バカ者。それでも学園都市二位か」
「あの……学園長。白雪さんが二位ってことは、一位は誰なんです?」
「ん?ああ、蓮とエイミーには教えていなかったのう。一位は儂の娘で、『三日月』の生徒会長じゃあ」
「え?娘って……今、おいくつなんです?」
「十八じゃよ。儂の娘の中では末っ子じゃな。今は海外に留学しておる」
「そうなんですか」
「それより早く行ってこぬか。《煉獄》のところに」
「そうですね」
蓮は真剣な声で百合に尋ねる。
「百合さん。《煉獄》の居場所はどこですか?」
叩かれた場所に手を当てながら、百合は答える。
「場所は学園都市『満月通り』の本屋よ」
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