《白雪姫》3
白雪百合は自分の左目が大嫌い。
この目のせいで……魅了の魔眼のせいで多くの人の人生を狂わせたから。
昔の私は生まれた時から両腕と両脚がなく、髪がなく、肌が腐っていた。
動くのは口と目と鼻だけ。
そんな私を育てるのに、両親は苦労したはず。
消毒液の臭いがする病室で、ただテレビを眺めることしかできなかった。
鏡を見るのは嫌だったわ。
鏡に映る自分は全身包帯だらけで、ミイラみたいだった。
学校も行けない。
友達も作れない。
生きている意味が分からない人生。
唯一の楽しみはテレビを見ることと、見舞いに来てくれる両親と話すこと。
だけど私と話をする両親は、悲しい顔をすることが多かった。
「ちゃんと産んであげられなくてごめんね」
「お前を助けられなくて、すまない」
涙を流す母と謝る父を見ていると、胸が苦しくなる。
「泣かないで、謝らないで。二人はなにも悪くないわよ」と耳障りな掠れた声で励ますことしかできない自分が、憎かった。
私は自分の人生を恨んだわ。
どうしてお父さんとお母さんが悲しまなくちゃあいけないの?
どうして私には手足が無いの?
どうして肌が腐っているの?
なんで髪がないの?
なんでこんなに自分の声は気持ち悪いの?
なんで……なんで。
自分の不幸を憎むことしかできない私は、神に願った。
この不幸を壊す力が欲しい。
そんな願いが神に聞こえたのか、私の左目に魔眼が宿った。
その魔眼は見た者を魅了するというもの。
魅了の魔眼を手に入れた私は……さらなる不幸に襲われることとなる。
どこで聞きつけたのか、日本最大の裏組織、狂真組が魔眼を持つ私を攫った。
攫われた私は『魔眼を使って人を操れ』とヤクザの人に言われたわ。
最初は断ったけど、「従わなければ両親を殺す』と脅され、仕方なく従った。
毎日毎日、ヤクザの人が知らない人を私の前に連れてくる。
私はその人を魅了し、操り、人生を狂わせた。
魔眼が与えたのは、不幸を壊す力ではなく、人を不幸にするものだったわ。
私は神を呪った。
そして同時に心から願ったわ。
「誰でもいい……私を、助けて」
そう願ったある日、私の目の前に一人の魔法少女が現れた。
「あなたか……魔眼の少女は」
「あなたは?」
「俺か?俺は蓮。魔法少女になれる男であり、人殺しさ」
その魔法少女はとても美しく、炎の如く赤かった。
瞳も、髪も、纏っている甲冑も、長い刀も全てが赤い。
そして蓮と名乗る少女の身体には、大量の返り血が付着していることに気付く。
「あなたの両親に依頼されてな。『娘を助けてくれ』と。だから個人的な用事を片付けるついでに、あなたを助けに来た」
「そう……なのね。あの……なんで血を浴びているの?」
「ん?ああ、狂真組の奴らを皆殺しにしてね。その時、血を浴びたんだ」
「なんで……殺したの?」
「まぁ……俺の個人的な復讐かな。こいつらは俺の憎い奴らと深いつながりを持っていたから」
「そう…なの」
日本最大のヤクザを一人で潰した魔法少女。
驚きはしたが、狂真組が全員死んだのを聞いてスッキリした。
正直、ざまぁないと思ったわ。
「ねぇ……魔法少女さん、一つお願いがあるの」
私は目の前にいる魔法少女にお願いをした。
「なんだ?」
「私を……殺して」
魔法少女はキョトンとした顔で私を見る。
「もうこれ以上、生きたくない。例えここから抜け出せたとしても、両親を苦労させるだけ。それに私はこの魔眼で多くの人を不幸にさせた。もう生きている資格なんて―――」
「なら俺が助けてやる」
「え?」
魔法少女は微笑みながら、はっきりと言った。
「あなたの口から生きていいんだと俺が言わせてやる。あなたが苦しいと思っているなら、その苦しみを消してやる」
「む、無責任なこと言わないで!どうやって私を助けるのよ」
「こうやって」
魔法少女は手の平を私に向けた。
直後、私の身体を赤い炎が包んだ。
その炎はとても温かく……心地よかった。
やがて炎が消えると、私にはなかったはずの手足があることに気付く。
「手と足が……!」
「手と足だけじゃないぞ」
魔法少女は窓ガラスに指を指す。
私は窓ガラスを見て、驚いた。
「え?」
窓ガラスに映っていたのは、白い髪を伸ばした美しい少女。
包帯の隙間から見えるのは腐った肌ではなく、綺麗な白い肌。
窓ガラスに映る美しい少女が自分だと気づくのに、時間が掛かったわ。
そしてガラスに映っていたのが自分だと気づいた私は、涙が止まらなかった。
「とりあえず病からあなたを助けてやったぞ」
涙を流す私を見つめながら、赤き魔法少女—――蓮さんは優しい声で言う。
「さぁ……まだまだ助けてやるから、覚悟しろよ。白雪百合さん」
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