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TS魔法少女の二度目の復讐  作者: グレンリアスター
第一章 魔法少女の兄も魔法少女
2/86

兄妹デート

 東京都、秋葉原。

 そこはアニメや漫画などが沢山あるオタクの聖地。

 ある者はフィギュアを買って喜び。

 ある者はゲームセンターで全力で遊び。

 ある者はメイドカフェで可愛いメイドにご奉仕させられて喜ぶ。


 そんな秋葉原には、五人の少女達の銅像が立っていた。

 銅像の少女達は、かつて魔獣によって人類が全滅しかけた時に現れた英雄の魔法少女。

 彼女達のお陰で世界が救われたことを忘れないために建てられた銅像。

 その銅像の近くにあるベンチに、魔森エイナが座っていた。

 彼女は白いワンピースを着ており、化粧をしていた。

 可愛らしさと清楚が合わさったようなオシャレな姿。


「誰だ、あの子」

「かわいい~」

「モデルさんかな」


 何人かの若い男性は足を止めて、エイナの姿に見惚れていた。


「あと少しで蓮兄と…フフフ」


 最愛の兄との再会を楽しみで待っているエイナ。

 そんな彼女を、髪を金色に染めたチャラそうな男が見ていた。

 男は下卑た笑みを浮かべながら、エイナに近付く。


「へいへい、そこお嬢さん。よかったら俺とーーー」


 男が声を掛けようとした。

 その時、彼の目の前に突然現れた。

 大きな鎧武者が。


「え?」


 何が起きたか分からず、呆然とするチャラ男。

 そんな彼の首を鎧武者は右手に持っていた太長い刀で、切り裂く。


「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?く、首がああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 男は悲鳴を上げながら、斬られた自分の首を押さえた。

 エイナや周囲の人たちは何事かと思い、チャラ男に視線を向ける。


「なんだ?急に騒ぎ出して」

「首が痛いのか?」


 周囲の者達には、チャラ男が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようにしか見えなかった。

 だがチャラ男の目には、一歩ずつゆっくりと近づいてくる鎧武者の姿が映っていた。


「ヒ、ヒイィィィィィィィィィィ!!」


 男はズボンを尿で濡らし、走って逃げだした。


「なんだったの、あの人?幽霊でも見たのかな?」


 気になったエイナは周囲を見渡す。

 しかし周りには恐ろしいものは、なにもない。

 エイナが首を傾げた。

 その時、彼女の右肩を少年が人差し指で軽くトントンと叩く。


「蓮兄!」


 振り返ったエイナは満面の笑顔を浮かべて、ベンチから立ち上がる。

 肩を叩いたのは、黒い髪を伸ばした少年。

 彼の両目は前髪で隠れており、右耳には蒼い水晶が埋め込まれた金色のピアスが付けられていた。


「元気そうだな、エイナ」

「うん!久しぶり、蓮兄!」


 エイナは久々に再会した兄―――魔森蓮にハグする。

 再会して早々抱きついてきた義妹に、蓮は苦笑した。


「おいおい。周りに人がいるんだぞ」

「いいじゃん別に、これぐらい……会いたかった」

「俺もだよ、エイナ。服…似合ってる」

「えへへ。褒められちゃった」


 嬉しそうに頬を緩めるエイナと、妹が元気で良かったと微笑む蓮。


「それにしても随分早かったな。まだ九時だぞ」

「蓮兄と会うのが楽しみで、二時間前からここにいました」

「てことは七時か。いくらなんでも早すぎるだろ」

「仕方ないじゃん。早く会いたかったし。それより、遊びに行こ!」

「分かった分かった。どこから行く?」

「そうだね~まずはあっち!」


 エイナは蓮の腕を引っ張って歩き出す。

 今のエイナは、まるで彼氏とのデートを楽しもうとする彼女のよう。


<><><><>


「到着したよ!蓮兄」

「いや、ちょっと待て」

「どうしたの、蓮兄?」

「なんで最初がここなんだよ」


 蓮とエイナがやって来たのは、女性ものの下着が売っているランジェリーショップだった。

 再会した兄を連れて最初にやって来たのがランジェリーショップ。

 エイナの頭は普通におかしかった。

 だがそのことに彼女自身は気付いていない。


「ここ有名なランジェリーショップみたいだから、一度行ってみたかったんだよね」

「だからって、男である俺と一緒に入るとかダメだろ」

「大丈夫。蓮兄は彼氏ってことにしちゃえばいいんだよ」

「いや、アウトだろ」

「蓮兄。私達は…兄妹である前に男と女。だからなにも心配いらないよ」

「逆だろ。というか心配しかないって」

「とにかくレッツゴー!」

「お、おい!」


 強引に蓮の腕を引っ張って、エイナはランジェリーショップに入る。

 建物の中にはオシャレなパンツや大きなブラジャーなどが棚に並べられていた。

 人間だけでなく、エルフや獣人などの女性が自分に似合う下着を選んでいる。


「お~!いっぱいある!」

「な、なぁ、やっぱり俺は外にいるよ」

「ダ~メ!蓮兄には私と一緒に下着を選んでもらいます」

「え~」


 どうやら自分には拒否権がないと分かった蓮は、ため息を吐く。


「分かったよ。じゃあ、なるべく早く頼む」

「OK。じゃあまずは……これなんてどう?」


 エイナは赤いブラジャーとパンツを手に取った。

 そのブラジャーとパンツは紐の如く細い。

 いきなり爆弾級の下着を見せにきた妹。

 頭痛を感じながら、蓮は顔に手を当てる。


「…それはエイナにはまだ早いと思うからやめなさい」

「え~。じゃあ…これは!?」


 今度、取り出したのは穴が開いたブラジャーとパンツだった。

 どっからどう見ても、見えてはいけない部分が見えてしまうような下着だった。

 蓮は目眩を覚える。


「それ…どっから取ってきた?」

「え?あそこの棚から」


 エイナが指さした方向には、確かに穴が開いた下着がいくつも並べられていた。

 しかも『愛する男性と愛し合うためのラブ下着』と書かれた看板が、棚の近くに置かれていた。

 なんでこんな物が売ってんだよとツッコミそうになったが、蓮はぐっと我慢する。


「……今すぐ別のにしろ」

「これもダメ~?」

「ダメ」

「む~じゃあ、これはどうよ!」


 次にエイナが選んだのは生地がめちゃくちゃ薄いブラジャーとパンツ。

 とても透けていて、着るとしたらただの変態だろう。

 蓮は頭を抱えた。


「エイナ…マジで頼むからもっとマシなのにしてくれ」

「もう!あれもダメ、これもダメ!じゃあ、今度は蓮兄が選んで」

「えぇ~俺?」

「そのために連れて来たんだから。ほら早く」

「分かった分かった。選ぶから急かすな」


 困った表情を浮かべながら、女物の下着を選ぶ蓮。

 恥ずかしい気持ちを抱きながら、考え、ある下着に指を指す。


「これなんて…どうだ?」


 蓮が選んだのは、桜模様の白いブラジャーとパンツ。

 シンプルなデザインかつ綺麗な下着。

 エイナはその下着を手に取って、眺める。


「ふ~ん。蓮兄はこういうのが好みなんだ」

「そういうわけじゃない。ただ……エイナにはこういうのが似合いそうかなと思って」

「まぁ~そういうことにしておきましょう。ちょっと着てみるね」


 エイナは下着を持って、試着室に向かった。

 残された蓮は近くにあった椅子に座り、スマホで時間を潰す。

 ランジェリーショップにいる女性たちは、男である蓮に視線を向ける。

 気まずくなった蓮は『妹よ、早くしてくれ』と願った。

 数分後、


「蓮兄~。ちょっと来て~」


 試着室からエイナの声が聞こえた。

 なんだ?と思いながら蓮は椅子から立ち上がり、試着室に近付く。

 

「どうした、エイナ?」

「あのね。確認してほしいことがあって」

「確認?いったいなにをーーー」


 蓮が首を傾げて、どういう意味か尋ねようとしたその時、

 試着室のドアが突然開いた。


「ちょ、お前!なにやって!」


 蓮の視界に飛び込んできたのは、下着姿のエイナだ。

 先程、蓮が選んだブラジャーとパンツを着ている。

 桜模様な下着が、少女の肉体の魅力を際立たせていた。

 

「えへへへ。どう…かな?」

「どうって…何を言って」

「似合ってるか似合ってないかを答えて」

「いや、それよりも隠せよ」

「早く答えてよ!私だって恥ずかしいんだよ!」

「じゃあ、見せんなよ」


 エイナの頬と細長い耳が赤い。

 つまり本当に彼女は恥ずかしいのだろう。

『なにをやっているんだよ、まったく』と思いながら蓮は素直に答える。


「とても…似合ってる」


 それは偽りのない言葉だった。

 エイナは「えへへへ」と嬉しそうに笑みを浮かべ、細長い耳をピコピコと動かす。


「じゃあ、これ買うね」

「ああ」

「それはそうと蓮兄」

「ん?」

「私のおっぱい…見たい?」


 蓮は試着室のドアを勢いよく閉めた。

 するとドンドン!とドアを強く叩く音が響く。


「ねぇ、なんで閉めるの!?そんなに私のおっぱい見たくないの!おっぱい小さいから!?」

「店の中で馬鹿なことを言うな。あと、おっぱいを見せようとするな」

「私だって恥ずかしいんだよ!」

「だから見せようとするな。これ以上騒ぐならもう俺、帰るぞ」

「え!?そんな酷い!もし帰ったら人が多い場所で『自分の兄に犯された!』って叫ぶからねぇ~!」

「もう黙れよ。マジで」


 蓮は頭痛を覚えながら、ため息を吐いた。


<><><><>


 ランジェリーショップで買い物を終えた後、蓮とエイナはカラオケにやってきていた。


「それじゃあ一曲目、私が歌うよ!」

「おう!頑張れ!」


 蓮はタンバリンでシャンシャンと音を立てながら、妹の歌を聞く。


「聞いてください。『妹は兄を支配し、愛で溺れさせたい!』」

「ん?いや、ちょっと待っ!」


 曲の名前を聞いて、蓮は嫌な予感を感じた。

 そしてその嫌な予感は当たる。


「私は~♪私は~♪兄を監禁したいぐらい愛してる~♪他の女を見ないで~♪他の女の声を聞かないで~♪あなたは…あなたは……私だけのものなんだ~♪もしも~…あなたが私から離れるなら~♪首輪をつけて逃がさないように、部屋に閉じ込める~♪」

「……」


 声は綺麗で、音程やリズムは正確。

 声の強弱、抑揚、テンポの変化も完璧。

 そしてなによりとびっきりの笑顔で歌っている。

 なによりダンスもしている。

 アイドル顔負けであった。

 しかし……歌詞がヤバイ。

 蓮は自分の身の危険を感じながら、歌が終わるのを待った。


 しかし……エイナは同じ曲を十回ぐらい歌ったのだった。


<><><><>


 カラオケの次は映画館だった。

 巨大なスクリーンに映る映像を見て、エイナは涙を流しながら感動している。

 しかし蓮は別だった。

 彼は汗を流しながら、口を大きく開いている。

 なぜなら、


『ハルカ、俺は……お前が好きだ』

『ダメよ、私たちは……兄妹なのよ?』

『そんなもの知るか……お前は、俺のことが嫌いか?』

『……そんなわけないでしょ』


 兄妹であるはずの二人は抱き締め合い、お互いの唇を重ねた。

 兄妹のラブシーンを見て、蓮は頭痛を覚える。


(兄妹で恋愛ってダメだろう……普通)


 蓮が心の中でそう思った時、彼は自分の右手が握られたのを感じた。


「ん?」


 視線を向けると、手を握っていたのはエイナだった。

 彼女は微笑みながら、口をパクパクと動かす。


(私たちもこんな風になれたらいいね……か。勘弁してくれ)


 蓮は映画が終わるまで頬を引き攣った。


<><><><>


 映画を見終わった後、蓮とエイナは大きなデパートにやってきた。

 デパートの中には多くの店があり、多くの人が買い物を楽しんでいる。


「ねぇねぇ蓮兄!次はどこに行く?」

「その前にちょっと休まないか?もうカラオケと映画でスッゲー疲れた」

「え~!?」


 とてもヤバい歌を聞き、兄妹恋愛ものの映画を見て……蓮は精神的に疲れていた。

 彼の声には元気がない。


「あ!ねぇねぇ、蓮兄はあそこに行きたい!」


 エイナが指差した方向にあったのは、小さな占い屋だった。

 結構な行列ができており、とても人気があるのが見て分かる。


「占いか…面白そうだな」

「でしょでしょ!並ぼうよ」

「分かったから引っ張るな」


 蓮とエイナは列に並び、順番を待った。

 二十分後、ようやく蓮とエイナの番がやってきた。


「いらっしゃいませ~!星本(せいほん)の占い屋へ」


 明るい声でそう言ったのは、青と黒のローブを羽織った人間の少女。

 彼女の手には分厚い本が握られていた。


「へぇ~魔法少女が占いをするんだ。珍しい」

「占いができる魔法少女は少ないですからね。さてさてそこのカップルさん。どんな占いをしますか?」


 占いの魔法少女の言葉を聞いて、エイナは頬を緩めた。


「蓮兄~。私たち、カップルに見えるみたいだよ?どうしようか?」

「俺達はカップルではなく、兄妹です。占い師さん」

「即答しなくてもよくない!?」


 涙目でツッコむエイナを無視して、蓮は占いの魔法少女に尋ねる。


「ここはどんな占いをするんですか?」

「恋愛占いですね。どんな人が運命の相手なのか、いつ会えるのとか」

「へぇ~恋愛ですか」

「凄いんですよ、私の占い。当たる確率は九十九パーセントなんです」

「本当ですか?それ」

「本当ですよ。魔法少女協会にも認められたんです」


 エッヘン!と胸を張る占い魔法少女。

 彼女の言葉を聞いて、蓮は顎に手を当てる。


(魔法少女協会は世界中に存在する魔法少女を管理し、統制する巨大組織。魔法少女の能力を細かく調べたりなどしているから……その組織に認められたということはこの占い師さん、相当すごい人だな)


 蓮は占い魔法少女を興味深そうに見つめた。


「協会から認められているなら、信頼できますね」

「そうでしょそうでしょ。それで…どっちからやりますか?それともどっちもやりますか?」

「そうですね。まず妹が先にやって、その後は俺で」

「分かりました。では一人千円なので、二千円です」

「安いですね」

「うちは安いのと占いの当たる確率が高いのが売りなので」

「なるほど。ではお願いします」


 蓮は財布から千円札を二枚を取り出し、占い屋に渡した。


「ありがとうございます。ではお嬢さん、どんなことが知りたいですか?」

「えっとですね……」


 身体をモジモジと動かしながら、エイナは少し恥ずかしそうに言う。


「今、私の隣にいる兄と添い遂げられるかが知りたいです」

「え?」


 一瞬、呆然とする占い屋。

 彼女は目頭を指で揉みながら、もう一度問う。


「す、すいません。もう一度、言ってもらっていいですか?」

「えっと……私は兄と結婚できるでしょうか?」

「あ、うん……聞き間違いじゃないんですね」


 占いの魔法少女は頬を引き攣る。


「え、えぇ~と……占いを始めますね」

「お願いします」


 少し混乱した様子で占いの魔法少女は、手に持っていた本を開いた。

 すると空中に星の如くキラキラと光り輝く無数の光の点が出現。

 その光の点が赤や青、緑などに光ると、なにも書かれていなかった本の紙に文字が浮かび上がった。


「えぇ~と、なになに。え、嘘…」


 占いの魔法少女大きく見開いた目で、本に浮かび上がった文章を見つめる。


「な、なんて書いてあるんですか?」

「……可能性は高い…だそうです」

「本当ですか!?」


 エイナは明るい笑顔を浮かべた。

 しかし……彼女の笑顔はすぐに消える。


「ただ」

「ただ?」

「他の女性に邪魔される可能性があるみたいですね」

「邪魔する人、誰か教えてください。今すぐに」


 静かな……しかし強い怒りと殺意が宿った低い声を出すエイナ。

 彼女の目から光は消えており、代わりにドス黒い闇が宿っていた。

 そんなエイナに怯えて、占いの魔法少女は「ヒッ!」と小さな悲鳴を上げる。


「わ、私は恋愛のこと以外は占うことはできないんです」

「そうですか。なら」


 エイナは自分の財布から三枚の一万円札を取り出す。

 そして……そのお金を占いの魔法少女の手に握らせた。


「これでお願いします」

「いや、お金の問題では…」

「分かりました。ではもっと」


 エイナは財布からお金を取り出そうとした。

 その時、彼女の頭を蓮は手刀で叩く。


「いった!」


 叩かれたエイナは頭に手を当てて、蹲る。


「なにやってんだ、お前。お金の問題じゃないって言ってるだろう。あとお金を無駄遣いするな」

「だって私と蓮兄の結婚を邪魔する人がいるんだよ!?拷問して、殺さないとダメじゃん!」

「物騒なことを言うな」

「蓮兄の童貞は私のものだ!」

「人前で何を言ってんだよお前は。もう黙ってろ」


 エイナの発言に頭痛を覚えながら、蓮は占いの魔法少女に質問する。


「恋愛に関してだったら占えるんですよね」

「え?あ、はい」

「なら本当にエイナが俺と結婚するのか。俺の運命の人は誰なのか…教えてください」

「分かりました」


 占いの魔法少女は本を閉じ、また開いた。

 すると空中に黒く輝く星が出現。

 そして本の紙が黒く染まり、赤い文字が浮かび上がる。

 呪いのアイテムのようになってしまった本。

 よく見たら本から禍々しいオーラのようなものが出ている。


「な、なんですかこれは!?」

「え!?あなたも知らないんですか、これ?」

「色んな人を占ってきましたが、こんなこと今まで」

「と、とにかくなんて書いてあるか教えてください」

「わ、分かりました。え~と…必ず妹さんと結婚するわけではないようです。あくまで可能性が高いだけ」


 占いの魔法少女の言葉を聞いて、エイナは「チッ!」と舌打ちした。

 

「あなたの運命の人は一人ではありません」

「え?他にもいるんですか?」

「みたいですね。その運命の人達はあなたが知っている人。ただ…その運命の人達は全員、魔獣よりも恐ろしく、逃げても必ず探して見つける……だそうです」

「魔神かなんかですか?俺の運命の人達…」


 汗を流しながら、蓮は頬を引き攣った。

 将来が不安になった彼は占い屋に「回避は出来ないですか?」と尋ねる。

 しかし、


「無理ですね」


 と即答された。


「そう……ですか」


 蓮は目眩に襲われた。

 胃がキリキリと痛くなるのを感じながら、彼はチラッと隣にいる妹に視線を向ける。


「……」


 エイナは……無表情だった。

 だが彼女の身体からはドス黒いオーラが放たれている。

 それを見て、蓮は背筋が凍るのを感じた。


(俺……最悪、死ぬかも)


<><><><>


 その後、エイナと蓮は近くのカフェでカップル限定のパフェを食べていた。

 パフェにはイチゴやバナナ、ブドウなどの多くの果実が使われている。

 生クリームとチョコレートソースの甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 エイナがどうしてもカップル限定のパフェセットが食べたい!と言うので、蓮は仕方なく頼んだのだ。


「美味しそ~!」


 瞳をキラキラと輝かせるエイナ。

 そんな妹を見て、蓮は微笑む。


「それじゃあ、食べようか」

「うん!いただきま~す!」


 エイナはスプーンでパフェを掬い、パクリと口に入れた。

 果物の甘酸っぱさと、生クリームとチョコレートの濃厚な甘さ。

 二つの甘い味が、彼女の口の中を幸せにする。


「ん~甘くて美味しい♡」


 エイナは細長い耳をピコピコと動かしながら、頬に手を当てた。


「おいしいか?」

「うん!とっても」

「そいつはよかった」


 蓮は紅茶を一口飲んだ後、少し真剣な声で喋り出した。


「なぁ……エイナ」

「なに?」

「俺のことは諦めろ」


 その言葉を聞いて、スプーンでパフェを掬おうとしたエイナの手が止まった。


「なんでそんなことを言うの?」


 エイナの口から聞こえた静かで……低い声。

 その声を聞いた瞬間、蓮は空気が重くなるのを感じた。

 彼の頬から一筋の汗が流れ、ポタリと机の上に落ちる。

 しかし蓮はエイナに恐れず、口を動かす。


「エイナ……俺とお前は血が繋がっていないとはいえ、兄妹だ。俺はお前を女というより、妹として見てる」

「蓮兄……」


 地獄にいる悪魔が逃げ出したくなるような冷たい声。

 その声のせいか、パフェの器に皹が走る。

 蓮は軽く深呼吸をした後、言葉を慎重に選びながら喋る。


「例え兄妹の話を抜きにしても、俺の答えは変わらない。それに……俺はお前らの両親を…俺を拾ってくれたお義父さんとお義母さんを死なせてしまった男だ」


 蓮は思い出す。

 エイナの両親の葬式をした時のことを。

 胸が苦しくなるのを感じながら、蓮は前髪で隠れていた目を細める。


「そんな男が女を幸せにすることなんてできな」

「私は諦めないよ、蓮兄」


 蓮の言葉を遮るエイナ。

 彼女は真っすぐな目で、蓮を見つめる。


「パパとママが死んだのは、蓮兄のせいじゃない。それにこの好きという気持ちを消すことはできない」

「エイナ。だけど…」

「パパとママが死んでから、蓮兄は私の…私達のために色々してくれた。高校を辞めて仕事して、私達のためにお金を稼いでくれてる。好きにならない方がおかしいよ」


 エイナは告げる。

 自分の想いを。


「私は…蓮兄が好き。一人の女として」


 それはエイナの偽りのない想い。

 もちろん彼女は蓮を兄として尊敬している。

 だがそれ以上に、蓮のことを一人の男として愛していた。


「誰にも渡したくない。奪われたくない。諦めたくない」

「……幸せになれないぞ」

「なにが幸せなのかは自分で決める。そして蓮兄は私が幸せにする。人生のパートナーが私でよかったって思わせてみせる」

「なにを言ってもダメなんだな?」

「うん」

「そうか……」


 カップに入った紅茶を一口飲んだ蓮は、軽くため息を吐いた。


「俺は誰とも付き合わない。だけど……お前が俺を惚れさせるのは止めない」

「!ありがとう、蓮兄!」


 エイナは嬉しそうに頬を緩めた。


「だが俺がお前に惚れるかどうかは分からんぞ?」

「絶対に私のことを好きにしてみせる。だから―――」


 エイナはニッと笑みを浮かべながら、人差し指を蓮に向ける。


「覚悟してよね♡」


<><><><>


 カフェで食事を済ませた後、蓮とエイナは街の中を歩いていた。


「ねぇねぇ蓮兄、次どこ行く?」

「そうだな……ボウリングとかはどうだ?」

「いいね!行こ行こ!」


 エイナは蓮の手を引っ張って、ボウリング場に向かおうとした。

 その時、


「キャアアァァァァァァァァァァァァァ!」


 悲鳴が聞こえた。

 楽しそうに笑っていたエイナの顔が、一瞬で引き締まる。


「蓮兄はここで待ってて!」


 そう言ってエイナは駆け出し、悲鳴が聞こえた方向に向かう。

 現場に到着すると、そこには体長二メートル以上はある漆黒の狼達がいた。

 数は四匹。

 その狼達は赤い双眼を怪しく輝かせながら、人々を襲っていた。


「魔獣ブラック・ウルフ!歩兵級か」


 魔獣には強さのランクが存在する。

 十人以上の人を殺すことができる歩兵級。

 小さな街を破壊することができる隊長級。

 大きな都市を破壊することができる将軍級。

 一つの国を滅ぼすことができる王級。

 そして世界の半分以上を崩壊させることができる神級。


「こいつらなら私一人でも倒せる。【獅子の戦士(ヘラクレス)】!」


 エイナが叫ぶと、彼女の両腕が黄金に輝くガントレットに覆われた。

 手甲に覆われた拳を構え、エイナは唱える。


「変身!」


 次の瞬間、エイナの足元に黄金の魔法陣が出現。

 魔法陣から発生した粒子がエイナの身体を包み、鎧と化す。

 そして彼女の緑髪の一部が金色に染まる。


「魔獣!私が相手だよ!」


 魔法少女に変身したエイナは地面を強く蹴った。

 そしてブラック・ウルフに接近し、ガントレットに覆われた拳を力強く振るう。

 彼女の拳がブラック・ウルフの顔に重い打撃を叩き込む。


「キャイン!?」


 強烈な打撃を受けたブラック・ウルフの顔はグシャ!と潰れ、血と肉が飛び散った。

 仲間が殺されたのを見て、残った三体の黒狼は唸り声を上げながら警戒する。


「来なよ。すぐに殺してあげるから」


 魔獣達を睨みつけながら、エイナは拳を構えた。


「グアアアアアアアアアアアアアア!」

「ガアアアアアアアアアアアアアア!」


 二体のブラック・ウルフは大きな声で吠えながら、エイナに襲い掛かる。

 鋭い爪と牙が彼女の身体を切り裂こうとした。

 だが、狼型魔獣の攻撃をエイナは素早く躱す。


「遅い!」


 エイナは二体のブラック・ウルフの首を両手で掴んだ。

 そして地面に力強く叩きつける。


「「ギャウ!?」」


 強い衝撃を受けた二体の魔狼は血を口から吐き出し、絶命。

 三体の魔獣を殺した黄金の魔法少女。

 彼女は最後に残った敵を排除するために駆け出す。

 残った一体のブラック・ウルフはすぐに逃げようとした。

 だがそれよりも速く、エイナが攻撃を仕掛ける。


「くらえ!」


 素早い回し蹴りを放ち、ブラック・ウルフを吹き飛ばした。

 蹴り飛ばされた魔狼はビルの壁に激突。


「キャイン!」


 悲鳴を上げるブラック・ウルフは口から血を流す。

 魔法少女に変身したことで、エイナの身体能力は十倍以上にも強化されている。

 しかもエイナのガントレットには、魔獣を殺す力が宿っていた。

 故に通常兵器では死なない魔獣にダメージを与えることができたのだ。


「終わりだよ」


 すでに瀕死の状態のブラック・ウルフに、エイナは拳を打ち込んだ。

 バキバキバキと骨が折れる音が鳴り響き、魔狼は血を吐きながら白目を剥く。

 たった数分で四体の魔獣を倒した魔法少女エイナ。

 彼女はふぅと息を吐き、肩の力を抜く。


「大した相手じゃなかったな。おっと、そうだ。忘れないうちに」


 エイナはスカートのポケットからスマホを取り出し、前に翳した。

 すると魔獣達の死体が彼女のスマホに吸い込まれた。

 エイナが持っているスマホは、普通のものではない。

 魔法少女の力と科学の力で作られた特別製。

 緊急時の時、多くの魔法少女を呼ぶことができたり、倒した魔獣を回収してお金に変えることができる。

 魔獣の血や骨などは薬になり、肥料になったりなどするので高く売れるのだ。


「さてお金はどれくらいかな」


 スマホの画面に表示された魔獣の死体の買取金額を、エイナは確認した。

 すると彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「おお~!結構、売れた!これで蓮兄ともっと遊べる♪さてと魔獣は倒したし、早く蓮兄のところに行かないと」


 エイナは元の姿に戻ろうとした。

 その時、秋葉原の上空に黒い穴がある事に気が付く。


「あれは…ゲート。あそこから魔獣が出てきたのか。でももう魔獣は全て倒したし、待てば消えるでしょう」


 ゲートから出てきた魔獣を全て倒せば、ゲートは消える。

 あと数秒で消えるだろう。

 エイナはそう思っていた。

 しかし、


「あれ?なんで消えないの?」


 おかしいと思ったエイナが眉を顰めた。

 その時……黒い穴が大きくなり始める。

 巨大化したゲート。

 そこから浮遊する大きな鯨が現れる。

 その鯨は分厚い漆黒の外殻に覆われており、まるで飛行船のように大きい。

 最低でも百メートル以上はあるだろう。

 

「王級…鯨王(げいおう)。なんで、なんであんな奴が出てくるの!?」


 国を滅ぼすことができる化物。

 それが現れたことに、エイナや周囲の人々は驚愕した。

 だが驚くのはそれだけではなかった。


「ホオォォォオオオオオンンンンンン!」


 鯨王が大きな鳴き声を口から出した。

 あまりにも大きな鳴き声に地面や建物は大きく揺れ、人々は両手で耳を塞ぐ。

 鳴き声が収まったその直後、空に無数のゲートが出現。

 無数のゲートから翼を生やした蜥蜴や人の姿をした豚などの魔獣が次々と現れる。


「嘘……まさか…モンスターフェスティバル」


 数万以上の魔獣が出現し、多くの命を奪う最悪の災害―――モンスターフェスティバル。

 それを目にした人々は、


「に、逃げろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「キャアアアアアアアアアアアアアア!!」


 悲鳴を上げ、逃げ惑う。

 ある女は悲鳴を上げながら逃げ。

 ある男は呆然と立ち尽くし。

 ある子供は「ママ~!」と泣いていた。

 まさに地獄だ。


「と、とにかく学園に連絡しないと!」


 エイナが通う学園都市には、多くの魔法少女が存在する。

 その魔法少女の中には、百年以上も魔獣と戦っている歴戦の猛者もいるのだ。


(全ての魔獣を倒すのは難しいかもしれないけど、人々が避難できるまでの時間は稼げるはず!)

 

 そう思ったエイナは電話をかけた。


「もしもし!こちら魔法少女エイナ!現在、東京でモンスターフェスティバルが発生しました。至急応援を!」


 学園に繋げたスマホに叫ぶエイナ。

 そんな彼女の言葉に対し、スマホから返ってきたのは、


『こちら三日月。残念ながら応援を送ることはできません』


 絶望を与える言葉だった。

 エイナは言っている意味が分からず、動揺する。


「な、なぜですか!?」

『現在、浮遊学園都市『大和』の周囲にもモンスターフェスティバルが発生。学園都市にいる全ての魔法少女達が応戦中』

「そんな!」


 まさか二か所同時にモンスターフェスティバルが発生。

 これでは援軍が来れない。


『魔法少女エイナ。現地にいる他の魔法少女達と協力し、一人でも多く安全な場所に避難させてください』

「……了解しました」


 エイナは通話を切り、ガリッと歯噛みした。

 ハッキリ言って、今の状況は最悪だ。

 敵は強力な奴がいる上に、多数。

 しかも援軍は来ることができない。

 おまけにエイナは多少戦えるぐらいの強さしかない。

 魔法少女の中では、中の下。

 一年生の中ではトップの成績だが、まだまだ未熟なのだ。


「ダメだ。このままじゃあ……そうだ蓮兄!蓮兄を置き去りにしてた!?」


 最悪な事に、今の状況で大切な兄を一人にしてしまった。

 蓮はただの一般人。

 魔獣に出会ったら、一瞬で殺される。


「蓮兄!!」


 急いで兄の所に向かおうとしたエイナ。

 そんな彼女の目の前に、大きな何かが空から落下した。

 土煙が舞い、轟音が鳴り響く。


「ウオオォォォォォ!!」


 エイナの目の前に現れたのは、筋肉質の巨人。

 体長は十メートルはあり、目玉が一つしかない。

 巨人型魔獣サイクロプス。

 強さは隊長級。

 今のエイナでは勝てるような相手ではない。

 だが、


「どいてよ、邪魔!蓮兄のところに行かないといけないんだあぁぁぁぁぁぁぁ!」


 エイナは拳を握り締め、サイクロプスに襲い掛かった。

 

「ウオオオォォォォォォォォォォォ!!」


 怒涛の連打を放つエイナ。

 しかしサイクロプスの肌が鋼の如く硬いせいで、彼女の攻撃はまったく効いていない。

 それでもエイナは殴り続ける。


「ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 不愉快に思ったのか、サイクロプスは雄叫びを上げながら岩の如く大きな拳を放つ。

 咄嗟にエイナは両腕をクロスさせ、巨人の一撃を防ぐ。

 しかしあまりにも重い一撃に、エイナの身体はスーパーボールのように吹き飛んだ。

 そして彼女はコンクリートの上を何度もバウンドし、ビルの壁に激突。


「ガハッ!」


 口から強制的に空気を吐き出されたエイナ。

 魔法少女の力のおかげで身体は頑丈になっているため、即死は免れた。

 だが大きなダメージと痛みのせいで、エイナは動けない。


「う…うぅ……」


 なんとかして立ち上がろうとするが、うまく力が入らない。

 必死に動こうとするエイナに、サイクロプスはゆっくりと近づく。

 ドスン!ドスン!と聞こえる足音は、エイナに死の予感を与える。


(ああ…ダメだ。これは死んだ)


 今の自分ではサイクロプスに勝てない。

 どう足掻いたところで、死は免れない。

 それを理解したエイナは、多くの魔獣に埋め尽くされた空を見上げた。

 

(あ~あ。せっかく蓮兄とのデートだったのに…もうめちゃくちゃ。蓮兄…ちゃんと逃げられたかな)


 エイナは自分が殺されるというのに、兄の事を心配していた。

 自分が死んだら泣くだろうか?

 死んだ後、自分のことをずっと思てくれるだろうか?

 そんなことを考えながら、顔を歪めて彼女は呟く。


「死にたくないな…まだキスしてないのに」


 涙を流しながら、エイナはゆっくりと瞼を閉じた。

 サイクロプスは右腕を上げて、エイナに向かって拳を力強く振り下ろす。

 一つ目巨人の拳がエイナを叩き潰そうとした。


 だがその時、サイクロプスの首に鋭い刀が突きつけられた。


「ッ!?」


 サイクロプスの拳がエイナに当たる寸前でピタリと止まる。

 一つ目巨人型魔獣は身体中から汗を流し、ガチガチと歯を震わせた。


「グ、グアアアアアアア!!」


 サイクロプスの目には、自分の首に刀を突きつける鎧武者の姿が映っていた。

 この娘に手を出したら己が殺される。

 そう理解したサイクロプスは、距離を取った。

 鎧武者の幻影を出す()()()()()()()


「エイナ。大丈夫か?」


 少年は倒れているエイナに声を掛ける。


(この声…)


 聞き覚えのある声を耳にして、エイナはゆっくりと目を開く。

 そして…目を大きく見開いた。


「嘘…なんで」


 信じられないものを目にしていたエイナ。

 彼女の瞳に映っていたのは、自分の知っている人(最愛の人)


「なんで…ここに」


 エイナの視線の先にいたのは、右耳に金色のピアスをつけた黒髪の少年。

 その者の名を、エイナは知っている。

 その者が誰なのか、エイナは知っている。


「なんでいるの、蓮兄!」

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