妹は謎の少女と出会う2
「私は白雪百合。よろしく」
手を差しだす白髪の少女—――百合。
エイミーは彼女の手を握り、「ど、どうも」と頭を下げた。
(それにしても美人な人だな~。今まで出会った女性の人で一番美しい)
同じ女性であるエイミーでも見惚れてしまうぐらい、百合は美しかった。
「ねぇ、エイミーさん。よかったらこの後、そこでお茶にしない?」
百合は細い人差し指を、近くにあった小さなカフェに向ける。
「ご、ごめんなさい。私……これからやらなくちゃいけないことがあるので」
エイミーは申し訳なさそうにしながら断った。
だが、
「いいから、いいから♪」
百合はエイミーの手を掴み、カフェに向かう。
「え?いや…ちょ!」
エイミーは手を振りほどこうとしたが、できなかった。
百合の美しさに、抗う気力がまったく湧かなかったから。
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カフェに入った百合は、エイミーと一緒に青空がよく見えるテラスのテーブル席に座った。
オシャレなメニュー表を見ながら、なにを頼もうか悩む百合。
そんな彼女にエイミーは少し困惑しながら、尋ねる。
「あ、あの……私に何かようですか?」
「まぁ……そうね。あら、このパンケーキとハーブティーおいしそう。エイミーさんも一緒でいいかしら?奢るわ」
「い、いえそんな!」
「遠慮しないの。すみませ~ん!」
百合は手を挙げて、店員を呼んだ。
やってきた女性店員が「ご注文は決まりましたか?」と尋ねると、百合は澄んだ声で「パンケーキとハーブティーをお願いします」と注文する。
顔も、声も、メニュー表に指を指す仕草も……どれもが芸術の如く美しかった。
思わずエイミーは見惚れてしまう。
店員が去った後、百合は手を組んでエイミーに視線を向ける。
「さて……一つ聞きたいんだけど、いいかしら?」
「な、なんですか?」
「あなたは……」
「いったい誰を殺そうとしていたの?」
百合の言葉に、エイミーは息を呑んだ。
百合はホワイトサファイアの如き白い右目を細める。
「あなたはさっき……誰かを殺そうとしていた。誰かを守るために。違うかしら?」
「……なんのことですか?」
「隠さなくてもいいわ。私にはわかる」
エイミーは一筋の汗を額から流す。
汗は彼女の頬を伝い、テーブルの上に落ちる。
「あなたは……この学園都市にいる魔神教団を殺そうとしていた。そうでしょ?」
「……」
「図星……みたいね」
百合がクスッと微笑みを浮かべた時、女性店員がやってきた。
店員は運んできたパンケーキとハーブティーが入ったカップを、エイミーと百合の前に置く。
百合は爽やかな香りがするハーブティーを一口飲む。
お茶の飲む仕草もまるで芸術の如く美しかった。
「あなたは……何者なんですか?」
「どこにでもいる魔法少女よ」
百合はナイフで生クリームが乗った白いパンケーキを一口サイズに切り、フォークを刺す。
そして小さな口にふわふわのパンケーキを運んだ。
味わうように咀嚼して呑み込んだ後、ハンカチで口を拭く。
「教えてくれないかしら。なにがあったのかを?」
「……」
エイミーは喋るつもりはなかった。
兄のことを。
なぜ魔神教団を殺そうとしているのかを。
だがエイミーの口は……自然と動き出す。
「……兄を…助けたいんです」
「お兄さんを?」
「はい。兄は誰かを守るためなら……自分のような存在を作らせないためなら悪人を殺せるんです」
「……」
「分かっているんです。兄のやっていることは人殺しだけど、必要な事だと。兄が悪人を殺すたびに世の中は平和になっていく。だけど……同時に兄の心も擦り減っていくんです」
エイミーはギュッと手を握り締めながら、顔を歪める。
「これ以上……兄の心を傷だらけにしたくないんです!」
「そう……辛かったわね」
百合は優しい声でそう言い、エイミーの手を両手で包む。
「だけどあなたが悪人を殺していい理由にはならないわ」
「でも!」
「もしあなたが悪人を殺したと知ったら……余計にあなたのお兄さんは傷つくわ」
「それ…は……」
「本当にお兄さんを助けたいのなら……自分一人で背負い込むんじゃなく、誰かに頼りなさい」
「誰…かに?」
「そう。もし誰も頼れないなら……私を頼ってみたらどうかしら?」
「え?」
「私……こう見えて強いの。だからきっと役に立つわ」
最初、エイミーは断ろうとした。
出会ったばかりの人に頼るなど、普通に考えてできなかった。
だがエイミーは目の前の少女に頼りたい、助けてもらいたいと思ってしまう。
そしてなぜだが……彼女にならお願いしてもいいと思ってしまっていた。
「……お願いします。兄を……助けてください」
「えぇ……任せて」
百合は微笑みながら、頷く。
そんな彼女を見て、エイミーはこう思った。
まるで……女神のようだと。
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