妹は兄に恋をしている2
浮遊学園都市『大和』にある大きな病院の病室で、蓮は椅子に座って待っていた。
ベットで寝ている魔森エイナが目覚めるのを。
(今回は完全に失敗した。また妹を失うところだった)
後悔していた蓮は、唇を強く噛む。
魔神教団の魔法少女である水篠マリがなにを企んでいるかを知るために、彼は手を出さず、あえて泳がせていた。
だがそれは大きな間違い。
水篠マリを泳がせていたせいで、エイナは魔神化させられてしまった。
(こうなることなら早く殺せばよかったな)
蓮の脳裏に一人の少女の顔が浮かび上がる。
「りりさ」
前髪で隠れていた目を悲しそうに細めて、蓮がポツリと呟いた。
その時、エイナは「ん……んん」と声を漏らしながら目をゆっくりと開く。
「エイナ!」
「蓮…兄?」
エイナが目覚めたことに、蓮はホッと安堵した。
彼女はゆっくりとベットから起き上がり、周りを見渡す。
「ここは?」
「病院だ」
「病院?……ハッ!!そうだ、私……水篠先輩と会って……それで……」
どうやらエイナは魔神化した時のことを思い出したようだ。
彼女は頭を両手で抱え、身体を震わせる。
後悔した表情を浮かべ、ハァハァと荒い息を漏らす。
「わ、私……多くの魔法少女を…この手で……」
「エイナ…落ち着け」
蓮は優しくエイナの背中をさする。
「大丈夫。お前が傷つけた魔法少女達は全員無事だ。俺が完璧に治療した」
「でも……私……!」
「今回は魔神教団の魔法少女が悪い。お前はなにも悪くない」
「……蓮兄は優しいね。こんなバカな私に」
身体の震えは止まり、呼吸も正常になった。
だがエイナは暗い表情を浮かべて俯く。
「私……蓮兄やエイミーを助けられるような魔法少女になるためにこの学園に入学したのに、迷惑ばかりかけて」
「エイナ……それは違う」
蓮は否定するが、エイナは頭を左右に振るった。
「違くないよ。蓮兄が私を助けてくれたんでしょ?私……助けられてばかり」
自分の情けなさに深く落ち込むエイナ。
そんな彼女の頭を、蓮は優しく撫でる。
「お前は俺を助けてくれたよ」
「え?」
「俺は……なにもかもを失って、深い悲しみの中にいた。そんな俺をエイナとエイミーは助けてくれた。居場所をくれたんだ」
蓮は覚えている。
なにもかも失い、悲しんでいた時……エイナとエイミーが救ってくれた時のことを。
蓮は覚えている。
魔森家が家族として温かく迎え入れてくれた時のことを。
「それに迷惑をかけて何が悪い。妹は兄に迷惑かけていいんだよ。いくらでも甘えていいんだ」
「蓮…兄……」
「お前が自分を何と言おうと……俺は百回こう言ってやる」
蓮は真っすぐな瞳でエイナの目を見つめながら、優しい声で告げる。
「お前は……俺にとって最高の魔法少女だと」
その言葉を聞いた瞬間、エイナはルビーの如く赤い瞳から涙の雫を零す。
エイナは涙を手で拭うが、いくら拭っても涙は止まらない。
「ずるいよ……蓮兄は」
エイナは蓮の胸ぐらを掴み、強く引っ張った。
そして蓮の唇に、彼女は自分の唇を重ねる。
「お、おい!」
慌てて離れる蓮。
そんな彼の瞳に、太陽の如く明るい笑顔を浮かべたエイナの姿が映った。
「やっぱり私……蓮兄のことが好き」
エイナは赤い瞳を黒く染め、蓮に宣言した。
「絶対二、私ダケノモノ二スルカラ覚悟シテネ?」
蓮はとてつもない寒気を感じ、頬から一筋の汗を流す。
(せめてヤンデレは勘弁してくれ)
蓮はそう願ったが……彼の願いを叶える者はこの場にはいなかった。
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