《魔炎》4
水篠マリの首をへし折った蓮は、冷たい声を吐く。
「お前程度の水で【鳳凰】の炎を……アイツの炎を消せるわけねぇだろ」
蓮は水篠マリの首から手を離そうとした。
その時、
「流石は《魔炎》ですね。こうも簡単にこの子を殺すなんて」
死んだはずの水篠マリの口が動いた。
蓮は目を細め、額に青筋を浮かべる。
「……魔神教団がまた活動を始めたから、まさかと思ったが……生きていたか。イカレ教皇」
「えぇ……元気にやっていますよ。魔森蓮さん」
口元を凶悪な笑みで歪めて、水篠マリは話を続ける。
「それにしても容赦がありませんね。女の子の手を切断するなんて」
「てめぇら魔神教団に慈悲を与えるつもりはない」
「相変わらず恐ろしい方ですね」
クスクスと笑う水篠マリ。
蓮は知っている。
死んだ水篠マリを使って、喋っているのが……魔神教団のボスだと。
「《魔炎》さん。あなたは一度、私の組織を壊滅させました。そして……アレの力を手に入れて、私を殺しましたね?」
「それがなんだ?」
「私はアレを欲しています。だから……あなたを殺して、アレを奪います。そして……」
「あなたの大切なものを全て奪わせてもらいますよ」
その言葉を聞いた瞬間、蓮は大太刀で水篠マリの死体を真っ二つに両断した。
赤い血が彼の顔に飛び散る。
「その前に俺がまたお前を殺してやるよ。クソ教皇」
大太刀を素早く振るい、刃に付着した血を払う。
蓮の目はとても冷たく、しかし強い殺意の炎を宿していた。
「殺気を抑えぬか。《魔炎》」
蓮の耳に少女の声が聞こえた。
声が聞こえた方向に視線を向けると、そこにいたのは黒い振袖姿の黒髪少女—――皇覇満月だった。
「学園長」
「魔神教団の者を排除してくれたようじゃな。感謝するのじゃ」
「……仕事ですから」
蓮は地面の上で眠っているエイナを両手で抱える。
そんな彼の肩を、満月は優しく手を置いた。
「お主はよくやってくれた。だが……これ以上、人を殺すな」
「それは……できません。魔神教団のやつらは容赦なく殺さなくていけません。でなければ……俺みたいなやつらが増えます。そしてこれは……俺の復讐でもあります」
「……」
「失礼します」
満月に軽く頭を下げた後、蓮はエイナを抱えてその場から去った。
彼が憎悪と悲しみで顔を歪めていたのを、満月は見逃さない。
「まったく……本当に優しい奴じゃのう~。のう、エイミーよ?」
満月は一本の街路樹に視線を向けた。
すると木の後ろから、エメラルドグリーンの長い髪の少女—――魔森エイミーが現れる。
彼女は悲しそうに顔を歪めており、胸を押さえていた。
「学園長……どうすれば蓮兄さんを救えますか?」
「……」
「どうすれば……兄にあんな辛い顔をさせずにすみますか!?どうすれば……兄に手を血で汚させるようなことをさせずにすみますか?」
涙を流しながら叫ぶエイミー。
彼女は分からなかった。
どうすれば兄を救えるか。
嗚咽を漏らしながら泣くエイミーの頭を、満月は優しく撫でる。
「あやつは止まらぬよ。自分のような存在を作らぬために、あやつはこれからも悪人を殺し、手を血で赤く染める」
「そんな……」
「エイミーよ。人の命を奪うのは悪じゃが……その悪が必要な時がある。お主の兄はその悪を理解し、罪人共の命を奪う。《魔炎》はこの世界にとって必要悪じゃ」
「でも……それじゃあ……蓮兄さんは一生……!」
「永遠に苦しみ続けるじゃろう」
満月には分かっていた。
魔森蓮は優しい。
そして優しいからこそ人を殺した時、彼は苦しむ。
それを理解しているからこそ、満月はエイミーに教える。
「だからエイミー……お主があやつを支えるのじゃ」
「支え…る?」
「そうじゃ。お主は自分の兄に惚れているのじゃろう?」
「!!」
エイミーは目を見開いた。
まさか自分の恋心が気付かれているとは思ってもみなかったから。
「お主が本当に兄を男として愛しているのなら……支えるのじゃ。愛する男が苦しんでいる時……助けるのが女の役目じゃ。例え手が血で汚れていようと、傍にいるのじゃ」
「……分かりました」
エイミーは手で涙を拭い、瞳に覚悟を宿す。
「私は……兄を支えます。なにがなんでも……蓮兄さんの傍を離れません」
「うむ。その意気じゃ」
一人の少女はこの日、誓った。
大切な兄を……自分が支えると。
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