《魔炎》3
水篠マリは勝利を確信していた。
炎と剣で魔神教団を壊滅させた魔法少女―――《魔炎》。
どんな怪物なのかと警戒していたけど、大したことなかった。
まぁ《魔炎》を倒したんだし、一気に一般兵から幹部に昇進は決まりね。
私は未来のことを考えながら、魔森君に視線を向けた。
「今頃、溺れ死…ん……で」
私は目の前の光景を見て、呆然とした。
今、私は信じられないものを目にしている。
「水の中で……燃えている!?」
そう。
大きな水の球の中にいた魔森君が、激しく赤く燃えていたのだ。
ありえない!水の中で炎が発生しているなんて!?
今まで私は火炎系の魔法少女を水の中に閉じ込めて溺死させてきた!
なのに魔森君は生きている!激しく燃えている!
私は驚きを隠せなかった。
そんな私を炎を宿した赤い瞳で、魔森君は見ていた。
お前だけは絶対に殺すという強い殺意が伝わってくる。
「ヒッ!」
私は思わず小さな悲鳴を上げた。
次の瞬間、炎の魔法少女は水の檻から飛び出す。
ロケットエンジンの如く背中から炎を噴射し、その反動で高速移動する魔森蓮。
咄嗟に私は杖を振るい、水の盾を生み出そうとした。
刹那、炎を纏った大太刀が杖を持った私の手を斬り飛ばす。
「え?」
一瞬、私は何をされたか分からなかった。
だが自分の手が切断されたと気づいた時、今まで味わったことがない激痛が私を襲う。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
痛い!痛い!痛い!
手を斬り飛ばされるとこんなに痛いなんて知りたくなかった!
切断された場所を残った手で押さえた。
その時、カツンカツンと音を立てながら、赤き魔法少女は私に近付く。
「こ、こないで!」
私は残っている片手を魔森君に向けた。
手の平から水の剣を生み出し、射出。
高速に飛ぶ水の剣。
それを炎の魔法少女は大太刀で切り裂く。
同時に、彼は目に止まらぬ速さで大太刀を振るい、残っていた私の片腕を切断した。
切断面から大量の赤い血が噴き出す。
「イヤアアアアアアアアアアアアアア!!」
痛みと恐怖が私を襲う。
痛い!怖い!痛い痛い怖い怖い怖い!!
恐怖のあまり私の身体は震え、呼吸が荒くなる。
呼吸がまともにできない!
「おい」
低く、そして殺意に満ちた蓮の声を聞いた私はビクッと身体を大きく震わせた。
どうしよう……恐ろしくて魔森君の顔が見れない。
「こっちを見ろ」
怖い怖い怖い!
見たくない!見たくない!!
《魔炎》がこんなにヤバいなんて聞いてないよ!!
私は涙を流しながら、その場から逃げようとした。
しかし腰が抜けて立ち上がることも、走ることもできない。
「いや……いや!」
私は身体を引きずりながら、逃げる。
だがそんな私を……《魔炎》は逃がさない。
「逃げるなよ」
《魔炎》は私の首を掴み、持ち上げる。
「う……あっ!」
メキメキメキと私の首を強く握る赤き魔法少女。
彼は炎を宿した真紅の瞳で、私を見る。
「あ…ああ……」
死の恐怖と絶望が私を襲った。
思わず尿を垂らしてしまう。
「い…や……死に…たくない!許し…て……くだ…さい!」
私は恥など無視して命乞いをした。
死にたくない!死にたくない!!
私はこんなところで死にたくない!死にたく―――、
「言ったはずだ。お前は殺すと」
冷たい声で告げた《魔炎》は、私の首を絞める手に力を込めた。
ベキッ!!
なにかが折れる音が聞こえた直後、私の意識は黒く染まった。
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