ハナ7
修行空間で蓮がハナを鍛えて、三年が過ぎた。
ハナはこの三年で大きく成長した。
その証拠にハナの肉体に表れている。
無駄のない脂肪に、鍛えられた筋肉。
女性らしく、そして同時に戦士の肉体をハナは手に入れていた。
「ふっ!はっ!」
汗を流しながら、自分の身体よりも大きな剣で素振りするハナ。
そんな彼女を見て、蓮は素直に凄いと心の中で称賛した。
(文句を一つ言わず、努力のみでここまで強くなるとは……強くするとは言ったけど、ここまでとは)
ハナに魔法少女としての才能はない。
それは間違いなかった。
だが努力と継続の才能はある。
蓮が教えられる知識と技術を吸収し、努力で自分自身を磨き上げたのだ。
その結果、彼女は小さな街を破壊することができる隊長級の魔獣を余裕で倒せるぐらいには、強くなった。
(もう修業はこの辺でいいだろう)
ハナは強くなった。
それも百年ぐらい生きている魔法少女ぐらいには。
もう教えることはない。
否、もう教えてもこれ以上は強くなれないだろう。
(ハナさんは頑張った。だけどこれ以上……努力しても強くなれない。例え百年ここで鍛えても同じ)
ハナは頑張っている。
しかしどれだけライオンが空を飛べるように努力しても、飛べない。
ハナは将軍級以上の魔獣を倒すのは不可能。
それぐらいハナには魔法少女の才能がない。
もし僅かにでも魔法少女として才能があれば、また違う未来があっただろう。
「ハナさん。もういいですよ」
蓮がそう言うと、ハナは素振りをやめる。
彼女は大剣を床に突き刺し、蓮に視線を向けた。
「なんでしょう、蓮くん?」
「あなたはもう十分強くなった。修行はもういいでしょう」
「……」
「だから終わりです。お疲れさまでした」
蓮は拍手しながら、笑顔でそう言う。
彼の言う通り、ハナは強い魔法少女になった。
魔法少女の世界でもやっていける。
なにより彼女はこれで満足しただろう。
蓮はそう思った。
しかし、
「嫌です」
ハナは真剣な表情で修行をやめることを拒否した。
「私は……もっと強くなりたいです。それも……王級の魔獣を倒せるぐらいに」
「……ハナさん。残酷なことを言いますが、もうこれ以上、強くなるのは……」
躊躇いながらも真実を言う蓮。
そんな彼の言葉を、ハナは頭を左右に振って否定する。
「いえ……もう一つだけさらに強くなる方法があります」
「それは……なんです?」
「……見ててください」
ハナは己の相棒である刀型〈マジックアイテム〉―――【刃】を召喚。
鞘から刀を抜き、静かに構える。
そして口を動かし、刀を振るった。
「姫神流剣技―――死嵐」
美しく、しかく殺すことに特化した連撃が放たれた。
それを見て、蓮は目を大きく見開く。
「はぁ?」
蓮はハナが放った剣技を知っている。
なぜならその剣技は蓮が先祖代々に受け継いできたものだから。
「姫神流剣技―――鬼突」
「姫神流剣技―――月光」
姫神流剣技を次々と放つハナ。
剣を振るう速さは静かで、ゆっくりだが……間違いなく姫神流剣技だった。
(まさか……あの時に見せた俺の剣技を盗んだのか!?一度見ただけで)
未完成ではあるが確かにハナは『姫神の剣』を使えている。
そのことに蓮は戦慄し、顔から大量の汗を流す。
「……姫神流剣技。この剣技は剣士が最も望む理想そのもの。使えるようになるまで時間が掛かりました」
ハァハァと口から荒い息を漏らし、汗を流すハナ。
剣を握り締める彼女の両手から血が流れていることに、蓮は気付く。
「まさか……」
蓮はハナに近付き、彼女の両手を掴んで掌を見た。
そして彼は顔を歪める。
「……どれだけ無理をしたんですか」
ハナの両手には剣ダコができており、そこから大量の血が流れ出ている。
姫神流剣技を使えるために、どれだけ頑張ったのか蓮にはよくわかった。
「なぜここまで頑張るんです?」
蓮は聞かずにはいられなかった。
血が出るほど剣を振るい、才能ではなく努力のみで姫神流剣技を習得したハナはゆっくりと口を開く。
「……私には多くの姉がいます。その中で一番仲良かった姉が、魔獣に襲われそうになった私を庇って大怪我を追いました」
「……」
「運よく命は助かりましたが、二度と魔法少女になれなくなりました。姉は自分が魔法少女であることに誇りを持っていたのに……私がそれを奪った」
ハナは強く唇を噛む。
「姉は『お前は悪くない』と言ってくれましたが、どうしても自分を許せなかった。だから私は……姉の分も頑張って魔法少女をしなくてはならないのです」
僅かに瞳を潤ませるハナ。
魔法少女という誇りを姉から奪った後悔と罪悪感。
姉の分まで魔法少女として活動するという覚悟。
三つの感情がハナの両目に宿っていた。
「だから……教えてください。『姫神の剣』を。姫神流剣技を使えても、意味がないことはわかってます」
「……」
「『姫神の剣』は姫神流剣技となにかを一つにすることで初めて完成する。そうですよね?」
蓮は否定しなかった。
彼女が言ったことが当たっているから。
「お願いします。蓮くん」
深く頭を下げるハナ。
家族のために魔法少女になると決めた彼女を、蓮は自分と重ねてしまう。
『おれ、まほうしょうじょになれるならなるよ!かぞくのためにがんばりたい!だからつよくなるほうほうをおしえて!』
まだ〈マジックアイテム〉に選ばれたばかりの五歳の頃、母に言った言葉を蓮は思い出す。
「……ハァ……負けですよ。俺の」
蓮は深いため息を吐き、両手を挙げる。
「姉のためにここまで努力するあなたのお願いを……断ることはできません」
「!それってつまり……」
顔を上げたハナは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「教えましょう。人類最高にして最強の戦闘術—――『姫神の剣』を」




