ハナ3
蓮はハナを連れて、ある部屋にやってきた。
その部屋の中は天井や壁がなく、扉以外なにもなくて広く白い。
部屋の中を見て、呆然とするハナに蓮は軽く説明する。
「ここは特別な修行場所。外では一分でもここでは一年が経つ。肉体は魔力を使わずとも歳は取らない。ここでは全力を出しても壊れない。ここで必要なのはただ一つ。根気です」
ハナはゴクリと唾を呑み込む。
「さて……修業を始める前にハナさんに質問です」
「なんでしょう?」
「あなたは」
「どんな自分になりたい?」
蓮の問いにハナは首を傾げた。
「どんな自分……ですか?」
「そう。例えばパワーのある魔法少女になりたいとか、美しく敵を倒す魔法少女になりたいだとか、なんでもいいです。とにかく理想の自分を教えてください」
「理想の……自分」
ハナは顎に手を当てて、黙り込む。
一分後、彼女はゆっくりと口を開いた。
「一撃で……相手を倒すことができる魔法少女になりたいです」
「いいですね。じゃあ、そんな理想の自分になるにはなにが必要ですか?」
「そう……ですね」
再び、ハナは顎に手を当てて黙り込む。
「技……圧倒的な技だと思います」
「オーケー。ならそれで行こう」
蓮がパチンと指を鳴らすと、何もない空間に建物とトレーニングマシン、ランニングコースなどが現れる。
それを見てハナは目を見開く。
「これは……」
「ハナさん。生物が成長するのに一番必要なものは何ですか?」
「え?強い意思?」
「それもありますが一番じゃない。一番必要なものは……環境です」
「環境?」
「そう。寒いところにいた生物が寒さの耐性を持つように、暑いところにいた生物が暑さの耐性を持つのと同じ。それは人間も変わらない。だから技を極めるのに相応しい環境を用意しました」
蓮はまっすぐな目でハナを見つめる。
「じゃあ始めましょうか」
「はい!」
ハナは気合が籠った声で返事をした。
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「まずハナさんはなにができるかを教えてください」
「私は剣を振るうことだけしかできません」
「なるほど……とりあえず〈マジックアイテム〉を見せてもらっても?」
「わかりました」
ハナは己の相棒を召喚するために唱える。
「斬れ、【刃】」
ハナの手から鞘に納められた刀が現れる。
蓮はその刀を触り、よく観察した。
(ふむ。確かに〈マジックアイテム〉の中では最下位の奴だな。実は秘められた力があるとか、そういうのもないな)
蓮は目を細めながら、刀をハナに返した。
「因みに【刃】の能力を教えてください」
「斬れ味を鋭くするだけです」
「なる……ほど」
身体能力を強化できない上に、〈マジックアイテム〉は最下位のもの。
確かに魔法少女としての才能はないに等しかった。
だが……強くできないわけではない。
「ハナさんの修行内容が決まりました」
「本当ですか!?」
「はい。まずやらないといけないのは……筋トレですね」
<><><><>
「ふん!ふん!」
「いいですよ~。あともう少しです!」
「ふ~ん!」
ダンベルで筋トレをするハナを、蓮は応援した。
「あの!特別な!鍛錬とか!しないんですか!?」
汗を流し、筋トレをしながら尋ねるハナ。
蓮は一つ一つ丁寧に説明する。
「いやいや。特別な鍛錬なんて必要はありません。強くなるためには特別な鍛錬をしなくてはならないというのはアニメやマンガだけの話です。まず強くなるには人間が当たり前に持っている筋肉を鍛える必要があります」
「なる!ほど!」
「筋肉は強力な技を放つために必要です。なにより筋トレは美肌効果やストレス解消にもなりますからね」
「は!い!」
「特別な武器はいらない。まずは人間が当たり前に持っているものを磨きましょう」
「わかり!ました!」
頑張ってダンベルで筋トレするハナを見て、蓮は微笑む。
「それが終わったら、少し休んで……次はランニングです」
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「はぁ!はぁ!はぁ!」
汗を流しながら走るハナ。
そんな彼女の隣で蓮も一緒に走る。
「走り込みは心臓や肺を鍛え、脚力や持久力を強化します」
「は、はい!」
「これも人間が持つ当たり前のものなんで頑張って鍛えましょう」
「わ、わかりました」
「ペースを上げますよ」
「は、はい~!」
<><><><>
「次にやるのは反射神経の強化です」
ハナは用意されたスープリュームビョンでトレーニングしていた。
広いボードに不規則に配置された光るボタンを、ハナは素早く叩く。
「ふむ。これは得意みたいですね」
「反射神経には少し自信があるんです」
「なら今より速くしましょう」
「え!?」
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「さて次にやるのは……食事と一時間休憩です」
「え?休むんですか?」
「当然。修行で一番大切なのは継続。その継続に必要なのはバランスのいい食事と休みなのです。というわけで……じゃ~ん!作っておきました」
蓮が用意したのは温かいあさりの味噌汁とホカホカの白米、そしてサラダとハンバーグ。
「いっぱい食べてください」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
ハナは味噌汁を一口飲み、目を大きく見開く。
「おいしい」
「ははは。うまい飯を食うと、元気が出るでしょう?」
「はい……とても」
「俺も作った料理を食べてくれて嬉しいです」
蓮がニッと笑うと、ハナは頬を赤く染めながらごはんをパクパクと食べる。
「その……驚きました」
「なにがです?」
「いえ、その……りりささんと少し話をしたんですが、あなたにナンパされるかもしれないと言われたので。けどここまで真面目に付き合ってくれて……」
「アイツ……余計なことを」
蓮はハァとため息を吐き、ガリガリと頭を掻く。
「流石に修行中にナンパはしませんよ。というかできないですよ。あなたの目を見たら」
「目?」
「あなたの目には誰かを守りたい、助けたいという強い想いが宿っています」
「!」
「そんな人をナンパなんて流石にできませんよ」
蓮は『焔』のみんなのために、そして一人でも多くの人を守るために戦っている。
だからこそハナの気持ちを彼は気付くことができた。
気付いたからこそ、ナンパはしない。
全力で強くなるのを手伝いたいと思った。
「とにかく……ハナさんを今よりも強くします。絶対に」
蓮の言葉を聞いて、ハナは嬉しそうに微笑む。
「はい。よろしくお願いします」
花が咲いたような微笑み。
その微笑みを見て、蓮はドキッと胸が高鳴るのを感じた。
「え、えっと……飯を食いながらでいいので聞いてください」
「なんです?」
「飯を食って、一時間休憩した後は―――」
「戦闘訓練をします」




