一人占め
ふう、終わったか。男の癖にバタバタ暴れて。見苦しいったりゃありゃしない。何が愛してるよ。愛してるなら大人しくしてりゃ良かったのに。
私は相棒だった男の亡骸を放置して、スーツケース片手に山小屋を出た。
このスーツケースの中には山奥の老夫婦を殺して奪った三億円が入ってる。相棒は、二人で仲良く外国で暮らそうと言ったがそんなことしたら金が減るじゃない。元々アンタはそういう駒だったのよ。
まあ外国に逃げるのはいい案だわ。一度家に帰って準備をしないとね。
途中のガソリンスタンドに寄る。セルフではないところなんて珍しい。担当した店員が窓を拭きながら話し掛けてきた。
「お連れ様、具合が悪いようですが大丈夫ですか──?」
と助手席を見ながら言う。私は驚いてそちらに目をやるが何もいない。しかし、店員は心配そうだ。
「な、なによ。バカなことを言わないで!」
「で、ですが……」
私はさっさと車を出したが、助手席が気になって仕方がない。
畜生! あの男、幽霊になって引っ付いて来てるんだわ。
ムカついて、ダム湖の駐車場に車を放置して歩き出した。スーツケースさえ有ればそれでいいもの。
途中、ヒッチハイクをするとバカなトラックの運転手が引っ掛かった。
「ごめんなさい。途中の駅まで乗せてくださる?」
「ああいいよ。荷下ろししたところだし荷台が空いてる。ひーふーみーよーの四人か。乗っておくれ」
四人!? 四人ですって?
ゾッと背中が冷える。私の他の三人は誰か? 見渡してもそんなのはいない。私は無理を言って助手席に乗せてもらった。
背中が気になる。私の近くには見えない三人がいる。それは相棒と、老夫婦だろうか? 恐ろしい。私はガタガタと震えていた。
運転手は大きな駅で下ろしてくれたので、私は後ろの三人を振り払うように駅の中に駆け込んだ。
そして駅員に訪ねる。
「はぁはぁ、ごめんなさい。切符売場はどこかしら?」
「ああ、団体ならば窓口でどうぞ」
「団体ですって!?」
「ええ、あなたの後ろのイチ、ニー、サン……十五人ですか?」
十五人──! 私はその場に卒倒した。