第七話 魔結晶
投稿大分遅くなってしまいました。
ちょっと4月は忙しくて。
まだ7話なんですがね。
暇があれば、読んで言ってください。
「そういえば、俺が死んでからそっちはどれくらい時間が経ったんだ?ほい、次のやつ。」
「そうですね。ざっと400年くらいだったはずです。これでいいでしょう。次の方。」
「ちょ!酷いですわ!そこ止めないでください。5が出せないじゃないですか!!」
「それ言ったら意味無くね?」
「いや、あなた達何やってるんです?」
ユグルが見たのはひとつの机を囲む三人の生徒の姿。
俺たちは現在七並べをしており、遅れて到着したユグルだけが参加していない状態だ。
今は特に依頼がないので部室で遊んでいるのだが、会話なくやっていたらたまたま入ってきた教頭を驚かせてしまったので、俺が向こうについての質問などをしていた。
「……パ、パス……です。」
「パス4回目。美瑠さんの負けですね。」
「くぅぅぅ!」
美瑠は悔しそうにトランプを片付け始める。
相当悔しかったのか、何も書かれていない予備のトランプを握りつぶしていた。
それ俺のトランプ……。
その間にユグルも席につき、4人で卓を囲む形になる。
絵面だけならたぶんまた教頭が腰を抜かすだろう。
「それで400年も経ってるならいろいろ変わってんだろ?」
「はい。前にもお話した通り、7つの種族の長『七珠玉座』が均衡を保つために存在しています。」
「【人族】暴食のカナット、【竜族】怠惰のサータ、【吸血鬼族】嫉妬のミリオン、【巨人族】強欲のスープ、【妖精族】憤怒のテル、【天使族】色欲のアムス、【魔族】傲慢のゼツ。今は彼らが納めている。」
あれなんか知ってる名前がチラホラと?
いや、変わってるだろもう。
あいつ俺より歳上だろ?
そろそろお陀仏になってるはず……
「妖精族のテルだけはずっと変わっていませんわよね?」
「妖精は長寿ですからね。ですが、最初からいるのはすごいと思いますよ。」
クソが!!
俺が台パンすると3人はビクッとしてこちらを見た。
俺はそれを無視して頭を抱えていると、オルトが心配そうに声をかけてくる。
「どうされましたか?」
「テルのやつ、まだ生きてんのか??」
俺の質問に対し肯定を示した三人は困惑気味だった。
「テルのやつは俺が魔王になる前からずっとあっちの世界で生きてるって言ってた。そうなると、おそらく世界の始まりから生きてやがる。」
「まさかそんなに長寿だったとは。」
三人は驚いた様子だ。
実際妖精は長寿だが、500年が平均寿命でさらに力も弱くなるため動けるのは300年くらいなのだ。
それが俺が生きて魔界を納めていた頃からとなると900年以上になる。
世界の始まりはもっと前。
おかげで俺ですら子ども扱いしてきやがった。
まぁ返り討ちにしたけど。
「そういえば、吸血鬼族って美瑠の一族だよな?真祖って名乗ってたが、俺が魔王の時、真祖はもう、ほとんど滅んだはずじゃなかったか?」
俺の質問は踏み込んだものだったかもしれないが、知らなきゃ行けないことだ。
なぜなら吸血鬼族、というか真祖は俺が魔王を少し前まで魔界の重鎮のような立場で闇を支配していた。
だが、ある時神によってその存在は弱体化し死んでいく。
弱い吸血鬼は見逃されたが、真祖は狙い撃ちをされたのだ。
「ええ、かつての真祖は1人しか残っておりません。真祖No.1ミリオン・バレンティス。私の母です。」
バレンティスと聞いてそうかと思ったが、まさか娘とは。
血を重要視する吸血鬼らしいのか。
しかし美瑠が弱い訳でもないから当然か。
「今の真祖はミリオンとその臣下11体で構成されているようなもの。実質ミリオンが王のようなものだ。」
呆れた声でいうユグルを見るに、かつての吸血鬼族では無さそうだな。
「てことは吸血鬼族も俺を狙ってるってことでいいんだよな?」
「そうじゃなければ私はここにおりません。」
厄介な。
真祖というか吸血鬼はあまり相手にしたくない。
吸血鬼という存在は血を扱って戦うことが多い。
鋭い爪は高い神体能力をより生かすためのパフォーマンスに過ぎず、本来は己の血の1滴すら相手を殺す猛毒になりうる。
その吸血鬼より力が強ければ効くことはないが、それでも危ないのは事実だ。
普通の吸血鬼ですらそれなのだ。
神が危惧したなら真祖はやばいのだろう。
魔王の俺ならいざ知らず、今の俺、しかも『決定』が通用しなくなったらまずい。
って俺も大分『決定』に影響されてる??
あ、すごく嫌だ。
しかし、そうなると美瑠が俺相手に血を使わなかったのは、俺を買い被っていたのか、はたまた、翼のためか……。
まぁ言わないけど。
「というかお前ら、向こうのにはどう報告してんだ?」
「私は独断で来たので特には。」
そうだった。
聞いた俺が馬鹿だった。
「私も報告はしていない。任務遂行以外必要ないし、期限も決められていないからな。」
うーん実にそのまま。
本当に排除しろとしか言われてないんだろうな。
「私は一応決まっていますが、一切連絡はしていません。」
こいつ、そういえばいつからいるんだ?
少なくとも8年近くはこっちにいる。
……まぁそんだけいれば定期報告もないか。
「まぁ全員見事に俺に負けたもんな。」
「な!僕はまだお前と戦ってない!」
「俺に負けたオルトに負けたんだ。優劣は明らかだろ。」
「ぐぬぬ。」
そうやって俺とユグルが言い争いなどを繰り広げているうちに下校時間がやってきた。
当然ユグルは教師なので帰らない。
悪態をつきながら見守る当たり素直じゃない。
・・・・・・・
「うんしょ!うんしょ!」
俺とオルト、美瑠が公園の前を通ると、そこで木に登っている女の子がひとり居た。
「あ……。」
「危ねぇ!!」
するとズリッと女の子が手を滑らせ落ちてしまう。
俺はカバンを投げ走った。
もう少しで女の子の頭が地面と接触してしまうという間一髪で間に入り、一応触れた瞬間女の子に防御魔法をしておく。
お腹の上に乗ってきた衝撃で少しむせた。
「お、おい、大丈夫か?」
「あ、ねこしゃん!」
するといつの間にか俺の上にはもうひとつ影が増えており、優雅にしっぽを揺らしている。
さすが猫は着地が上手い。
俺が寝っ転がっている上で少女と猫が仲良くじゃれ始めた。
せめて起き上がってからにして欲しい。
そうこうしてるうちにオルト達が近寄ってくる。
オルトは少女を、美瑠は猫をそれぞれ抱き上げ俺の上からどかした。
俺は起き上がり砂を払っているが、その間オルト達は抱き上げ奴らの相手をしている。
「優也さん。少女にも猫にも外傷はないようです。」
「なら良かった。この木はなんだかんだ高いからな。落ちたら大惨事だ。むしろよく登ったというか。」
「あ、お兄ちゃん!助けてくれてありがとう。」
「おお。怪我がなくて何よりだ。もうあんなとこ登っちゃダメだからな。」
そういって俺が頭を撫でると、少女は元気そうに頷く。
素直なのはいいことだな。
ん?何だこの違和感。
「えっと……名前はなんだ?」
「夏だよ!」
俺が聞くと元気よく答えてくれる。
大丈夫か?
ちょっと心配になるぞ?
このご時世危ないからな。
ってそんなことより。
「夏、その手に持ってるのはなんだ?」
俺が感じた違和感は夏ちゃんの握られた手から感じられる。
夏ちゃんの手の中には、黒い石のようなものが見えた。
俺が手を伸ばそうとすると、夏ちゃんはその手を後ろに隠し、イヤイヤとかたくなに見せなくなった。
「さっき知らないおじちゃんがくれたんだ!綺麗でしょ!あげないよ。」
なるほど。
確かに気に入ったものを取られるのは嫌だよなぁ。
よくわかる。
悩む俺の横からオルトがヌッと出てきて膝をつき、夏ちゃんを見上げる。
「夏さん。取らないので、見せていただけませんか?」
はいきたオルトのイケメンフェイス。
こいつ確信犯だろ。
わかっててやってるだろ??
ほら〜夏ちゃん赤くなってるじゃん。
初恋泥棒になりやがった。
「はい。ちょっとだけだよ?」
「ありがとうございます。」
夏ちゃんはそういうとおずおずと見せてきた。
それはただの青い石、と処理するのはあまりにも無理があった。
それはあまりにも、悪趣味がすぎる代物である。
「これは……魔結晶……。なぜ、こんなところ、に?しかも、黒い……。」
魔結晶とは、向こうでは魔族に近い石とされていた。
逆に天使族に近いのが聖結晶。
通常結晶と呼ばれるものは魔力によって形成された石であり、その色によって効果を変える。
色の種類で言うなら聖結晶は暖色と白、魔結晶は寒色と黒とされている。
基本的に魔結晶は持つものにとって与える影響が魔の方向とされている。
だからどの色でもろくなものでは無い。
特に黒の厄介なところは持っているだけでは何の変哲もないものだが、じわじわ所有者の幸福を奪っていく。
ゆっくり、ゆっくり、貪るのを楽しむかのように。
何もかもをゆっくり失っていく。
故に所有者は気づかない。
そして、唯一無くならない石に愛着わき、手放せず、最後は生きられるという幸福すら吸い取ってしまう。
ただ、石に込められた魔力より強い魔力があれば吸い取られることは無い。
逆に込められた魔力を自身の燃料にすらできてしまう。
だからこそ、魔力が弱い人間は怯えていた。
手放すよう促してくれる存在から離れて言ってしまうから。
誰も止めてくれないから。
子どもにこんなものを渡すなど、悪趣味極まりないのだ。
「幸い、さっき貰ったばかりなら問題は無い。今すぐ手放させるぞ。オルト、頼む。」
「はい。夏さん。その石はですね……」
よし、オルトなら上手くやるだろう。
なら俺は。
「美瑠、悪いがその猫貸してくれ。」
「ええ。お願い致しますわ。」
美瑠から渡された猫をじっと見つめ、つまみあげる。
猫は目をそらそうとはしなかった。
「おい。どこの誰だか知らないがな、来るなら直接こい。俺はいつだって姿を晒してんだからな。殺したいにしろ捕まえたいにしろ、やり方がぬるい。全神経かけて潰しに来いよ。なんたって俺は、優しい『魔王』だからな。待っててやるよ。」
そういうと俺は猫を下ろし見送る。
おそらく操っていたやつの元に行くのだろう。
「追いかけなくていいのですか?」
「お?オルト貰えたか。いいんだよ。俺はいつだって挑戦を受けてきた。城で勇者を待っていた。なら今回だってそうするさ。」
「そう言いつつ、あなたは突っ込んで行きそうですわよね。直進タイプですし。」
「失礼だな。さ、帰るか。」
(待つのは得意さ。なんたって500年、待ってたんだからな。)
俺は一人そう思いながら帰路に着く。
家に帰ったら魔結晶の方を調べなくては。
一応向こうの住人のだろうし。
ようやく動き出せました。
遅くなってしまい本当にすみません。