第四話 郷に入っては郷に従え
第四話です。
今回は新キャラ登場って感じになります。
誤字脱字はごめんなさい。
あれからまちまちだが依頼が来るようになった。
主に失せ物探しだったが、着実に見つけていき周りからの信頼は得られるようになった。
「あのぉすみません。依頼いいですか?」
そんなある日、扉の前にいたのは見たことない男性だった。
こんな人は生徒にも教師にもいなかったはずだが…。
もしかして街の人かな?
とりあえず中に入れ話を聞くことにした。
「私の名前は山中秋と言います。今日来たのはこの子の、まるの飼い主を見つけてあげて欲しいんです。」
猫は白い毛並みだが所々に斑点がある。
大人しく寝ているところを見るとよっぽどこの山中さんに抱かれて安心しているのか。
「つまりその子は拾い猫ってことですか?でもまるというのは?」
「はい。数日前に怪我をしているところを見つけて動物病院で治療してもらったんです。首輪をつけているので飼い猫だったのはわかっていたんですが。街を散策しても張り紙などはなくて。とりあえず今はわかりやすいようにまるって呼んでます。」
なるほど。だが見つけるのは簡単。
猫の歩いてきた道のりを探ればいいだけだ。
とりあえず猫を預かるか。
俺が山中さんから許可を取り猫に触れようとすると猫の方から何か異様な気配を感じ取り、猫にも威嚇された。
「…っ?!」
「え、どうしたんだまる。ごめんなさい。」
まぁむやみに触れようとしたから怒るのはわかるが、にしてもあの異様な気配はなんだ?
……これは思った以上に面倒なことになるかもしれないな。
椅子に座る俺の後ろで立っていたオルトは特に表情を変えていない。
何を考えているのやら。
「気にしないでください。俺が勝手に触ろうとしてびっくりさせてしまったのが悪いですから。」
生前からのことだが俺は動物にあまり好かれるタイプではない。
そりゃ使役していた使い魔とかはいたが最初は肉体言語で語り合った後になんやかんやあって仕えてくれたやつだからな。
最初から好意的だったやついなかったぞ。
まぁ魔族だから当然だけど。
まぁそんなことより今は猫だ。
俺が受け取れないとなると
「山中さん、すみませんがその猫の写真を撮らせて頂いてもよろしいでしょうか?その猫は山中さんにとても懐いているようなので。」
「はい。」
とりあえず俺はまるの写真だけを取らせてもらい俺の連絡先を渡しておいた。
見つけたら連絡するという形をとるために。
家を見つけたら連絡すると伝え今日のところは帰ってもらった。
山中さんが出ていったのを確認すると俺は魔法を唱える。
「さて、『足跡』。」
この魔法は対象の辿ってきた足跡を浮かび上がらすというもの。
見えるのはある程度魔力を持つものだけだ。
だからこれで辿ればいい。
「オルト、手分けしてこれの最初を探すぞ。」
「はい。私は街の左側を見てまいります。」
「なら飛ぶことを許可する。」
すると窓からオルトは飛んで行った。
オルトはその性質上羽を持っていないが飛べる種族であるため対して魔力を使わず飛ぶことが可能だ。
ならなぜ俺に許可を取ったかって?
認識阻害魔法をするためには魔力がいるからな。
俺も徒歩で街の右側を見出回るか。
俺は部室を後にした。
・・・・・・・
足跡はそこら中にあり遡るのに苦労しそうだ。
「あの猫相当歩いたってことだよなぁ。」
それだけこの現代が平和ということか。
向こうじゃ決して考えられないな。
あんなに小さい生き物がこんなに外を歩き回るなんて。
向こうじゃ人間同士でさえ争いが耐えない。
特に魔族なんて弱肉強食の世界。
弱い存在はすぐに搾取されていた。
今は知らないがな。
「優也様。」
「オルト。じゃあ行くか。」
俺が歩いているとオルトが背後に現れた。
どうやら猫の家を見つけたらしい。
「ここか。」
着いたのは随分古い一軒家だった。
庭には多くの足跡があり、ちょっと寄ったという感じではなく完全に住んでました感がある。
ここで間違えないだろう。
しかし人の気配はない。
「やはりそうでしたか。」
「なんだオルトも気づいてたのかよ。」
「まぁそうですね。」
予想通りというかなんというか。
ありのままを報告するしかないよなぁ。
「あらぁ貴方達どうしたの?渡辺さんのお宅に何か用?」
俺たちが声のした方を見るとそこには隣の家から出てきたおばさんがいた。
ちらっと表札を見ると確かに渡辺と書かれている。
「はい。実はこの渡辺さんのお宅の猫がどうしているかと気になったんです。よく懐いてくださいましたから。」
うわぁめっちゃ笑顔で嘘を言ってるよ。
既にちょっとおばさん顔赤いし。
イケメンフェイス恐るべしだな。
「あらぁそうなの。そうねぇ、確かについ最近までいたんだけど、いなくなっちゃったみたい。ようやく、飼い主が死んでしまったことを理解したのかしら。姿は見てないわ。」
「そうですか。」
「でも本当に。あの子は渡辺さんによく懐いていたし彼が搬送された時も帰ってくるからって言ったのを信じて待ってたのよ多分。見てて痛々しかったわ。残酷な嘘ってあるわよね。」
その後はおばさんの話がヒートアップし、解放されたのは2時間後だった。
「はぁ疲れた……。」
めちゃくちゃ疲れた。
こんなに疲れたことそうそうないぞ。
逆にあそこまで喋り続けられる体力がすごい。
「女性の方はお話好きが多いと聞きますので。」
「オルトのおかげで助かったよ。もしあそこで止めなきゃ絶対あれより長くなってた。」
「お易い御用です。」
「とりあえず連絡見つけたことは連絡しておくか。話は直接すればいいだろ。」
俺たちは連絡をして帰路についた。
次の日の放課後山中さんが来るのを待っていたが一向に来ない。
どうしたのかと思い俺が電話をすると随分息の上がった声が聞こえてきた。
[すみません。実は、まるの姿がないんです。]
「え?それは大変だ。一緒に探します。」
[ありがとうございます。あの一度ソファラビルに来ていただけませんか?そこの近くではぐれてしまったんです。]
「わかりました。」
俺たちは急いでソファラビルの前まで行った。
そこには山中さんの姿があり、手を振って迎えてくれた。
「実はこのビルに入った可能性が高いんです。」
「なら一緒に探しましょう。ここは取り壊し予定のビルですし。」
俺たちは取り壊し予定で人がいないソファラビルに入る。
窓もほとんど割れており上を見上げれば廃線がむき出しだったり塗装されていたとされるあとがあったりした。
前を歩く中山さんに向かって俺はいくつか質問をする。
「中山さん。ここにいるんですか?」
「ええ、ここに入っていくのを見たので。」
「まるは随分と冒険心旺盛ですね。こんなところに入るなんて。」
「ええ。全く困ったものです。」
そして俺は足を止めた。
これ以上の会話は不要だと互いにわかっていたからだ。
「もう取り繕う必要ないぞ?天使。あの猫もお前がこっちに来てから使役した猫だろ。だから俺が触れようとした時威嚇をした。違うか?」
「バレてましたか。」
俺がそう言うと山中さんはこちらを振り返りニヤリと笑うと彼を取り巻くように霧が発生する。
「全く。あの子にはもう少ししっかりと教えこんでおくべきでしたね。」
霧晴れると山中さんの姿は金色に赤い目になり、その背中からとても大きい白い翼が現れる。
「その様子なら僕が何者か既にわかっていたようですし。残念ですね。」
辺りには白い羽根が落ちており、幻想的な風景を作り出していた。
しかし天使ならあるはずの頭に金色の輪っかがないあたり本気ではない。
あれは神の加護を受けてる象徴だからな。
それとも神の力がこっちまで届いてないのか?
「僕の名前はユグル・ラファール。あなたを消すために神の命を受けここに来たのです。」
「いや隠す気なかっただろ。お互いそのつもりでわざわざ人のいない所を選んだんだ。それにここなら存分に話が聞けると思ったんだよ。」
「穢らわしい魔族と話すことなど何一つないですよ。」
にっこりと笑うその顔に愛想はなくただただ貼り付けたような笑顔。
その顔の裏でどんだけ悪い顔してるのか想像は容易い。
わかっていたがとりあえず戦闘で黙らせるのが1番か。
するとオルトが前に出てきた。
「優也様、ここは私が。」
確かにオルトは魔法よりは肉弾戦の方が得意だろうしこんな狭い場所なら俺よりオルトが適任だな。
「なら頼むぞ。」
オルトが俺の前に出てユグル相手に構えた。
ユグルもそれを見越していたかのように戦闘態勢に入る。
2人は同時に動き出し一気に距離を詰め、お互いの顔面を狙うように拳を放つ。
当然どちらも当たらず拳は顔の横を通り過ぎ鼻先10センチ程度の距離になっていた。
すぐさま2人は距離を取り先程よりも動きが早くなっている。
オルトは蹴り技中心に戦い、その威力はコンクリートの床すら穴を開けそうである。
てか実際空いてるかもしれない……。
まぁ取り壊す予定だし大丈夫だろ。
対してユグルはオルトの攻撃を流すようにしている。
おかげでオルトの攻撃が決め手にかけるものになっているが……。
「大人しく魔法を使ったらどうだ?まぁ闇属性など光よりも強力な神の光に焼かれるだけだが。」
お互いの動きが止まる。
ユグルの息が上がっておりオルトは涼しい顔をしている。
おそらくだが……。
「いや、これで終わりですよ。」
「な?!」
オルトはユグルのガードが間に合わないスピードで懐に入り顎を一気に蹴りあげた。
「グハァァ!!」
ユグルは天井に叩きつけられそのまま重力したがって落ちてきた。
まさに勝負あり。
おそらくだがユグルの戦闘経験は少ない。
オルトはずっと蹴り技を上から叩きつけるようにしか使用していない。
それによってユグルは無意識に防御を上に集中させていた。
それをまんまと利用されて防御が薄い場所に叩き込まれたわけだ。
「全く。天使の防御力はなかなかに厄介なものですね。砕くのに苦労しましたよ。」
「天使って守ることが多いからそういう感じなんじゃないか?」
「しかし四大天使の一角を担う一族を名乗るだけはあるのかもしれませんね。」
四大天使??なんだそれ。
「オルト、その四大天使って……」
「く、くそ……。この僕が……。」
ユグルは力を振り絞って起き上がろうとしていた。
やっぱりタフだな天使って。
しかし相当効いたのかなかなか立ち上がることができない。
「『全回復』すればいいんじゃ。」
「優也様。お言葉ですが『全回復』は高等魔法ですよ?しかも使う魔力量も多い。あそこで私使った貴方は異常だっただけです。」
「いや、こっちだと結構『全回復』に魔力ほとんど使わないんだよ。まぁむやみに使って良い奴でもないが。」
ある程度の傷は治すことが可能な『全回復』は致命傷意外なら治すことが可能だ。病気でさえ治すことが出来る。
回復するものによって使われる魔力量は異なるが大抵大きな怪我を治す時しか使われないからか莫大な魔力を消費してしまう。
ただしある種万能薬のようなものなので覚える難易度も相当高い。
それでも致命傷を治せないのはそれによって死を否定してしまうからだ。
死の運命を曲げることは許されない。
そうしたのは神だ。それまでにどんな行いをしようと神が決めた死を否定することは神を否定することと同義だという『決定』になっている。
「ゴフッ……。……何故だ……。」
力を振り絞り立ち上がったユグルはこちらを睨みつけている。
その目には確実に憎悪があった。
「なぜ、魔王である貴様が人助けなどしている……!よろず部などと、バカバカしい。殺した者たちへの償いか?誰かに認められたいか?!そうだろうなあの慈悲深いゼルテ様ですらお前をもうお救いにはならない。哀れな存在よ!」
ああ、こいつは勘違いをしている。
償い?誰かに認められる?俺があんな神に救われる?
冗談じゃない。反吐が出る。
俺は笑いが止まらなくなってしまった。
あまりに目の前の天使が言うことがおかしすぎて。
「な、何がおかしい。」
「ああ、すまんすまん。あまりにバカバカしくてな。」
「な、何?!」
「俺が救われる?勘違いするな。俺はただ奪われたのが許せないだけだ。魔王のものを勝手に持って行った奴には罰がいるだろう?だが俺は存外この世界が気に入っていてな、この世界のルールで落とし前をつけさせてもらうだけだ。」
俺の言葉にユグルは目を見開いた。
しかし俺は最初からそうだ。
翔太は俺の親友であり魔王で言うなら所有物だ。
それに手を出されて、あまつさえ殺されるなんて、許せるわけもない。必ずこの手でそいつの腐った心臓を引きずり出してやる。
そのための、そいつを見つけ出すための情報集めとしてのよろず部だったからな。
俺はなんだって利用する。
「この国にある言葉を知ってるか?郷に入っては郷に従えだそうだ。」
俺がニヤリと笑うとユグルは諦めたように去っていった。
「私はいつかお前を引きずり下ろしてやる。」
オルトは追いかけようとしたが俺はそれを止める。
聞きたいことは聞けたしな。
また会う時があれば今度はどんなことをしてくるか少し楽しみにしていることは内緒だ。
・・・・・・・
昨日は大変だったな。まさか天使まで来るとは。
オルトと違ってあっちは確実に俺を殺す気だったが。
当然と言えば当然か。なんせあのゼルテの部下だしなぁ。
これからもあんなのが来るのか……。
ちなみにオルトは気になることがあるとかで先に行った。
「そう言えば、翼は相川さんと上手くやってるのか?」
「うん!おかげさまでよく一緒にいるよ。」
「よかったな。」
俺が教室に入るといつかのように女子たちが騒いでいた。
その光景がどこかあの時に似ていて嫌な予感がする。
外れて欲しいこの予感。
担任の浅井先生が入ってきていつも通りのHR。
さっきの予感は杞憂だったのか?
それならいいんだけど。
「じゃあ紹介するぞ。今日からこのクラスの副担任をしてくれる先生だ。」
「皆さんはじめまして。ユグル・ラファールです。よろしくお願いします。」
ドンガラガッシャーン!!
俺はやっぱり椅子から落ちた。
なにか質問などがきたらそれに答えていく場所としても使っていこうかなって思ってます。
まぁ質問が来るほど読んでくれる方が増えるように頑張ります。