メモ(第4話 黒子天使の鑑定眼)
【4話 黒子天使の鑑定眼】
「ゴブ、ゴブゴブッ」
洞窟の中で寝かされていた、赤黒のゴブリンが目を覚ます。
小さな洞窟の壁には燭台が取り付けられ、ぼわっとした明かりが灯りっている。蝋燭のような光ではあるが、これはダンジョンに備え付けられたマジックアイテムで、取り外そうと思っても外すことは出来ない。
基本的にダンジョンの外郭を破壊することは出来ない。どんな聖剣や魔剣、最上位魔法を放っても、ダンジョンの外郭に傷一つ付けることが出来ない。だからこそ、この小さな洞窟がダンジョンである証明でもある。
ゴブリンを目覚めさせたのは、ぼわっとした燭台の明かりではなく、熾天使ブランシュの頭上の輪から放たれるハロの光。眩しさはなく、暖かくて優しい光。この光を浴びているだけで、傷や疲労さえも癒される。
そして目覚めたゴブリンは見慣れない光景と、初めて見る熾天使に驚き戸惑っている。魔物と熾天使、相反する立場ではあるが、かといって敵対する態度ではない。
女性適正がな分かりやすく狼狽え、ブランシュの前に立っている俺のことは全く見えていない。
「おいっ、ゴブリン」
「ゴブゴブ、ゴブ~ッ」
下等な魔物の中でも、底辺にいるゴブリン。しかし、言葉を理解することは出来るし、話すことも出来る。それなのに、慌てふためき“ゴブゴブ”と繰り返すだけで、何を言っているの伝わってこない。
「おいっ、ゴブ野郎。聞こえてるか!」
「ゴブゴブッ、ゴブ~ッ、エヘゴブ~ッ」
再度呼び掛けるが、俺の声には何の反応も見せずに、ブランシュの顔を何度もチラ見し、次第にニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべる。
魔物には黒子天使の姿が見えている。それなのに、ゴブリンは俺の姿にも、声にも全く反応を示さない。
「回復が不完全だったのかしら?脳に損傷が残ってるのかもしれないわね」
ブランシュが、さらにゴブリンに近寄ると、今度は一転して這いつくばって逃げだす。しかし、狭い洞窟の中では、逃げ場所も隠れる場所もない。
「安心して、私達は敵じゃないわ。回復魔法をかけてあげるから、大人しくして欲しいの」
「ブランシュ、違うんだ。コイツは、魅力状態にかかっていた。今は混乱状態になってるけどな」
熾天使が勇者や聖女に加護という力を与えるならば、黒子天使は鑑定眼スキルに特化している。冒険者達を殺さず、それでいて最大限のダメージを与える。その為に、黒子天使達の鑑定眼スキルは進化してきた。
「そんなことってあり得るの?私は天使よ。魔物から好かれる熾天使なんて聞いたことがないわ」
「疑うなら、離れてみれば簡単に分かる」
ブランシュがゴブリンから離れると、次第に落ち着きを取り戻し始める。ある程度距離があれば、ゴブリンですらブランシュのことを見て見てデレデレしてしまう。
このゴブリンは、女性に対しての経験や適正がない。黒子天使の鑑定眼を使うまでもなく、女性適正は最低ランクのFで間違いない。
「これだと、話が進まない。少し荒療治になるが仕方がない」
俺がゴブリンに近付いても、まだゴブリンは俺に気付かない。視線はブランシュを見たままで、気持ちの悪い笑みを浮かべている。そのゴブリンの額に目掛けて、渾身のデコピンを一発入れる。
頭が大きく後ろへと吹き飛ぶゴブリン。しかし、俺の鑑定眼でゴブリンのステータスは熟知し、完璧に加減された攻撃は、自然回復可能で損傷を与えないダメージでしかない。
「うっ、うっ、痛いゴブよ。何するゴブ。はっ、なんでこんなところに黒子天使……」
突然の襲ってきた衝撃と痛みに、ゴブリンはやっと俺の存在に気付く。
「やっと、気付いたか。ゴブ野郎」
「ワイなんか、煮ても焼いても美味しくないゴブ」
「ゴブリンなんて食べるわけないだろ。ここはダンジョンだ。お前をスカウトしてやる」
「えっ、ここがダンジョン……ゴブか?」
「そうだ、ここは熾天使ブランシュのダンジョン。お前を、このダンジョンで働いてみないか?」
俺の言葉で、再びブランシュを見るゴブリン。そして、再び気味の悪いデレた笑みを浮かべてしまう。