メモ(プロローグ)
【プロローグ:ダンジョン崩壊】
魔力は、万物の素となる。
地中から涌き出る魔力から全ての物が生み出され、魔力が無ければ神々であろうと何も生み出すことは出来ない。多くの魔力を保有することが神々の力の象徴であり、魔力を多く持つ者が神となる。
キョードの神々が天使達に命じたのは、ダンジョンを造り地中より魔力を吸い上げること。しかし、ダンジョンは諸刃の剣。少しでもダンジョン運用を失敗すれば、災厄が降りかかる。ダンジョンの崩壊と同時に、関係した者の全ての存在は消滅してしまう。
だから、神々はダンジョン運営に決して関わらない。熾天使をダンジョンマスターにし、吸い上げた魔力を上納させる。
俺は黒子天使のレヴィン、イスイの丘のダンジョンの副司令官になる。
このダンジョンの熾天使はフジーコ、そして司令官の黒子天使はラーキだが、2人ともダンジョンには居ない。ダンジョンのことは全て下の者に丸投げし、自分達は天界で遊び呆けている。
「先輩っ、35階層に勇者パーティーの転移確認しました」
俺に勇者が来たことを告げるのは、俺の大学時代の後輩のマリク。俺の後を追いかけるように、このイスイの丘のダンジョンへと就職してきた。
現在60階層あるイスイのダンジョンは、ダンジョンランキングでもトップ100に入る。比較的新しいダンジョンではあるが、急激に成長し注目を集めているダンジョンの1つ。
「ああっ、分かってる。気を付けろ、またフジーコの奴が勇者に加護を与えたらしい。今度こそ、何が起こるか分からん」
「分かってるっす。まだ魔力予備率は5%をキープしてるっす」
正面のモニターに映し出されている6人パーティーの冒険者。戦斧を担いだリザードマンの戦士に、二刀流のヴァンパイアの剣士、ケモミミのある狩人、エルフの魔法使い、桃色髪の聖女。そして、最後の1人がヒト族の勇者。
「それにしても、ハーレムパーティーは気にくわないっすよ。こんな奴を守る必要なんてないっすよ」
「そんなこと言うな。この勇者の生命力だけはS級なんだ。ダンジョンの成長には欠かせない」
この勇者パーティーは、現在36階層で足踏みしている。この階層から初めて現れる竜種に苦戦し、現在までに10連敗中で、攻略の糸口さえ見えていない。
最初に立ちはだかる大きな壁ともなる存在で、勇者達が傷付けば傷付くほどに、ダンジョンは成長してくれる。しかし、負け続けれて勇者達の心が折れてしまえば、このダンジョンのリピーターにはなってくれない。
負けた中でも、攻略の糸口であったり、成長を感じさせてやる必要がある。
「10連敗中の割には、自信満々の顔をしている。フジーコの奴、またハイスペックな加護を与えやがって」
「ええっと、ステータスでは聖剣ペルセウスのスキルが増えてますね。S級スキルっすよ」
「本当に、何考えてるんだ。まだ駆け出し勇者に、そんな高度なスキルが扱えるわけないだろ」
もちろん、フジーコの与えた加護なのだから勇者の力だけでスキルを発動するわけじゃない。このダンジョンが吸い上げる魔力を供与し、不足分を強制的に補う強引なやり方。
「先輩っ、勇者がペルセウス流星剣の予備動作に入りました」
「問題は、連撃回数だな。5連撃までなら問題ない」
「それ以上なら、どうなるっすか……」
「ブラックアウトだ。ダンジョンは崩壊する」
そして、勇者が天に翳した剣が薄っすらと光始める。しかし、本来の輝きとは程遠く、スキルの力は十分に発揮されていない。
「弱々しい光っすね。まだまだ、レベルが足りてない証拠っすよ」
「だから、ここからが問題なんだ」
熾天使フジーコによって与えられた加護。ダンジョンマスターの意志を実現させる為に、ダンジョンの魔力が強制的に勇者へと流れ込む。
「おおっ、輝きが増しましたね」
「マリク、魔力予備率から目を離すなよ」
そして、勇者の放つペルセウス流星剣。光速の斬撃だが、十分な力は発揮出来ていない。地竜の鱗を切り裂いているが致命傷には程遠く、連撃の回数が増えてゆく。
「先輩っ、魔力予備率が急激に低下してます。4%を切りました。まだまだ、下がります」
するとモニターの画面が消え、少し遅れて部屋の照明も消える。非常灯が点灯し、緊急事態を告げるサイレンが鳴り響く。
「先輩……魔力予備率、3%を切りました」
「ああ、分かってる。全ての業務停止、緊急退避だ」
こうして、イスイの丘のダンジョンは消滅した。