ポーカーフェイスな結城さんは、三十路の三国先生を推している。
以前活動報告に上げていたSSを元に、設定を変えたり字数を削って投稿しました。
(元々はバレンタインデーの話でした)
放課後の校内で人を探していた俺は、教室に一人残っていた女子生徒に声をかけた。
「なんだ、結城が珍しく図書室や部室にいないと思ったら、ここにいたのか」
「三国先生」
外を見ていた結城愛実が振り向いた。
数学担当の俺と文系の結城は、文芸部の顧問と副部長という間柄だ。彼女はあまり表情が変わらず愛想のいい方ではないが、好きな作家や本の話になると打って変わって饒舌になる。好きなものへの愛は相当大きいようだ。
俺は白衣のポケットからポーチを取り出し、結城に差し出す。
「ほら、今朝の持ち物検査で化粧品が入ったポーチを没収されただろ? 放課後に返すって言ったのに来ないって、結城の担任から渡されたんだ」
「ありがとうございます」
「うわ、ごめん! 壊れてないか……ん?」
渡すときのタイミング悪く、ポーチが落ちてしまった。ポーチの外ポケットから白いカードが飛び出てしまう。
謝りながらポーチとカードを拾った俺は固まった。そこに書いてあったのは……。
三国先生へ。
あなたが好きです。
結城愛実
俺は即座にカードをポーチのポケットしまい、結城に渡す。見なかったことにしよう。うん。そもそも見間違いかもしれないし。
「独身だけど家事は嫌いじゃなくて、よれよれの白衣着てるけど洗濯後のアイロンが嫌いなだけで、お酒と甘いものが好きで、教頭先生からボサボサの髪を注意されても癖っ毛だってかわして、生徒に対して飄々とした軽い調子で接しながら一人の人間として尊重してくれる、雑なようで優しい三国先生が好きです」
「教頭に注意されてたの、見てたのか……」
情報量の多さに思わず呆けた声が出た。結城がくすっと笑う。
「さよなら三国先生。また明日」
「ああ、気を付けて……」
混乱する俺の横を結城がパタパタと通りすぎる。さっきの笑顔が頭から離れない。あんなかわいい顔して笑うなんて知らなかった。
いや、冷静になるんだ俺。くたびれた三十路の教師を十八歳の女子高生が好き?! ラブコメか!
とりあえず、家帰って酒飲んで一旦落ち着こう。うん。
「あー頭いてぇ……」
「おはようございます、三国先生」
「うおっ! ゆ、結城か、おはよう」
「いつも以上に頭ボサボサですね」
翌日、二日酔いでフラフラな俺とは対象的に、結城はいつも通りの澄ました顔だった。
拍子抜けして逆に気になりだした俺は単純なんだろうな。卒業式で結城からあのカードを直接渡され、「あと二年、待てるか?」なんて返事をしてしまうくらいには。
【裏設定】
結城さんは策士。ポーチを没収されたのも、ポーチを落としたのも、全てわざと。生徒の自分を恋愛対象として意識してもらうため。
ポーチを没収した結城さんの担任の先生(女性)は結城さんの協力者。少女マンガ大好きで、年の差大好物で、三国先生が生徒に手を出す人ではないと信頼しているため、結城さんの恋を応援している。
結城さんはNOT ス○ーカー。健全に色んなところから三国先生の情報を集める。三国先生本人が何気なく呟いたことも覚えているので、言ったことを忘れてる三国先生はちょっとビビってる(笑)
三国先生はヘタレ。学生の頃に手痛い失恋をして以来、恋愛からはご無沙汰。
三国先生は、元々ミステリーの趣味や読む本の共通点があった結城さんのことを好印象。告白?されてからはどう接していいかわからずギクシャク。結城さんがいつも通りすぎて段々落ち着くも、策士な結城さんから定期的に告白?のことを思い出させるように仕向けられて、うわああと身悶える。
1600字くらいのSSの改稿だけど、本当に久しぶりに楽しく書けました。
思いついたらまた1000〜2000字くらいの短編を上げたいと考えてますが、いつになるかわかりませんので明言は避けます……。