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三枚のお札

作者: めんた



「いやあ、ひさしぶりだね。」

「ああ、今日はちょいとおまえさんの意見を聞きたくてね。」


久しぶりに尋ねてきた平川はそう言って私が勧めたソファに腰をかけた。

「飲むかい?」

「いや、相談の後にいただけたらいいな。」


平川は俗にいうオカルト研究家だ。それが門外漢の郷土歴史研究家あるいは民俗研究家の私に年に3,4回は相談に来ていた。

数10年前に雑誌の対談で会ってから、打ち上げで飲んだ時に趣味の一致から意気投合したのだ。


私はプログレッシブロック、例えばイエスやキングクリムゾン、ピンクフロイドなどが大好きで、初期のクイーンなども好きだ。彼も全く同じでそれで仲が良くなったのだ。不思議なものでそんな出会いから彼は私の親友になったのだ。年を取ってからでも親友ができるというのはいいものだ。それでもコロナ禍だったから会うのは2年ぶりくらいだろうか。


「それで今日は何の相談だ?」

「いや、やっと確信をもてるようになったというか、長年の疑問がな。」

「おや?どういう話だ。」

「うん、三枚のお札という昔話があるだろう?」


三枚のお札という昔話はなんとなくは知っている。平川から前にも聞いたと思うのだが。そうだ。確かに何度かこの話を平川としている。平川は忘れているのだろうか。

確かやまんばに殺されそうになったのをお札のおかげで助かったという話だったか。

私は平川の話を聞いてみることにした。


日本の昔話には不思議なところがある。どう考えても説明がつかないが、置き換えてみれば説明がつくという話が。例えば三枚のお札だ。

寺の小僧が栗拾いにいく。和尚から三枚のお札をもらっている。やまんばに見つかる。逃げるためにトイレにいく。

一番目のお札は自分の身代わりに返事をさせる。2番目のお札は川を出す。だがやまんばに飲まれる。三番目のお札は炎を出す。しかしやまんばはさっき飲んだ水で炎を消す。そして小僧は逃げてくるが、最後に小僧は隠れていて、和尚はやまんばを小さくして餅にくるんで食ってしまう。思い切りかいつまんでいえばこういうストーリーだ。けっこういろんな地域に似たような伝承、昔話が残っている。

だが、陰陽師でもないのに、なぜ寺の和尚がそんなことができるのだ?神社ならいざ知らず、仏教にそんな力は無いはずだ。お釈迦さまは普通の人間だぞ。平安時代でもないだろう、あの時代設定は。

あとなんで持たせたお札はたった3枚なんだ?子供に持たせるなら10枚でも100枚でもいいだろう。本当に危ないということならばな。

一番の疑問は和尚がやまんばを喰っちまったことだ。なぜ退治とか成敗じゃなくて食ってしまったんだ?


「ふむ。それで?」


平川が一息入れて言った。

「あれは宇宙人の仕業なんだ。」


私は苦笑をこらえた。あまりにも唐突すぎる。意味がわからない。

「おいおい宇宙人とは、また。」

「いや笑わないで、まず話を終わりまで聞いてくれないか」


いつになく平川の顔は真剣だ。


「わかった。終わりまであんたの論理を聞こう。そのうえで意見があれば言うよ」

「助かるよ。専門家の見解を聞きたいんだ。」


「いや、待てよ。あの話は山にやまんばが住んでいてあそこに行ってはならないというところから始まるんじゃなかったかな」


「それだ。それが事実は逆だったらどうする?実は別の山にいる和尚と小僧が宇宙人だったとしたら。そいつらがしていたことをやまんばのせいにしていたとしたら。」


私は思わず身体を乗り出した。

「面白い発想だとは思う。それで?」


平川が話し出した。


和尚も小僧も宇宙人だった、日本に駐屯しているな。しかし小僧は宇宙人と言っても子供だろう。好き勝手したいし、まだ幼い。しかし、当時の村人は宇宙人がしていたことを知っていた。つまりやまんばというのは和尚なんだ。おそらく行方不明とか神隠しなんてのもそれに関連していたのかもしれんと俺は思う。

小僧が遠くまで遊びにでた。当然村人たちがそれを見つけたら捕まえようとする。前々から怪しいと思っていた寺の小僧だからな。

そこで小僧は持っている超能力を使ったんだ。


「おいおい、超能力って。」

「話は最後まで聞く約束だ。」


平川は目が座ってきている。


小僧はおそらく今でいう携帯電話的もっと言えば通信装置的なものを使ったんじゃないか。一枚目のお札だ。トイレ、厠か、で自分の代わりに返事をするってやつな。そんなものは録音していたら簡単にできるじゃないか。今の技術力に近いものを持っていたとしたらな。


2枚目の川を出したやつだが、宇宙人の子供の超能力なんてたかが知れているのじゃないだろうか。水を出したとしてもすぐにそのやまんば、つまりは村人たちに飲まれている。ということは大した量は出せなかったということだ。ひょっとしたら普通に歩いて渡れる程度の川しかだせなかったんじゃないか。そして3枚目は火を出したが、その飲まれた水で消されたことになっている。こんなのは村人たちが力を合わせればすぐに消し止められたということじゃないのか。もっと言えば火炎放射器を使ったのかもしれんが、多勢に無勢だ。一人ではかなわんだろう。


私は「ぐむう」と声を出していた。


それで逃げてきた小僧を和尚はかくまった。つまり宇宙人は一日に使える超能力は3回が限度だったということじゃないか?そこで追加でお札を使わないんだからな。しかし、小僧は3回使っているが和尚はまだ超能力を3回使えるはずだ。けれども、和尚はお札を使わずに、大勢詰めかけてきた村人を全部喰っちまったわけだ。本当に小さくして餅に包んだのかはわからん。だが、この伝承が残っているということはその和尚は相当な強さを持っていたんだろう。仮に村人を小さくするという超能力の1回でも使ったのかもしれんが、それでも相当なものだ。だから日本支部に駐屯しているくらいの実力者だったんだろう。


平川がふうっと息を吐いた。


日本支部か。まるで世界中に支部があったという前提だ。


「で、どう思う?」


「。。。 いや、話は面白いがな。あえてそういう風に捉える意味が良くわからんな。昔話というのは口伝で伝わってきた文化、いや伝統のようなものだ。やまんばに限らず妖怪のたぐいの話はたくさん残っているよ。」

「その文化や伝統というものを司ってきたのはだれだ。俺は自分で気が付いて唖然としたよ。村の文化を作ってきたのは寺社だろうが。坊主の話す言葉が歴史であり道徳であり、勉学だったんだ。寺の坊主は村人から敬われてお布施で生きていたんだぞ。現代の坊主にできるのは弔いのお経を唱えるだけだ。しかし、本当にそうなのか?それこそお前さんが言うように口伝で伝わってきた話だ。けれども、和尚はすごい力を持っていたから敬われたと考える方が筋道はとおらないか。」

「確かにそうも思えるが、敬われた理由は宗教だからじゃないのか。」

「宗教にはまるというのは教義に惹かれるだけか?オウム真理教みたいな教団もあったんだぞ。それこそ80年代のオカルトブームにのっかったんだ。超能力でな。」

「いやオウム真理教の教祖は超能力なんて持っていなかっただろ。それでも一部の人間が騙されてはまってしまっただけだろ。それは当時の空気や環境が関係しているだけじゃないか。」

「お前さんらしくもない反論だな。だったらなおさらそこで本物の超能力いや宇宙人の技術力を見せられたらどうだ。一気に信仰対象になるじゃないか。室町時代でもなんでもいい。今よりはるかに効き目はあると思うぞ。織田信長が寺を焼いたのは、彼は気が付いていたからではないのかとすら思うんだ。結果、暗殺されたがな。遺体が見つかってないというのも気になる。」


信長?ここで出てくるか。確かに革命的な戦国武将だった。


「。。。いや、わかるんだが、お前は今までの寺社や現在の寺社も全て敵に回すことを今言っているんだぞ。俺はそれが心配だが。」

「もともとは八百万の神が収める日本に一気に寺つまりは仏様、お釈迦様が普及したな。全国に出来た国分寺な。国を分ける寺ってんだぞ。そして挙句の果てには神仏習合だ。こんなことにも抵抗を示さない俺たちというのはなんなんだ?神と仏が共存しているんだぞ。それも一緒みたいに思わされてな。西洋はキリスト教にしてもイスラム教にしても一神教だろう。だが日本の八百万の神とお釈迦様は一緒だと思ってしまっている現実がある。」

「どういうことだ。」

「これこそマインドコントロールじゃないのか?それだけの力を宇宙人は持っているということだ。すまん、煙草を吸ってもいいか。」

「いや日本人は神様とお釈迦様、いや仏陀を一緒とは思ってないと思うがな。お前さんは一神教の話を出したが、エジプトにしても日本にしても多神教の国はある。そのほうが俺的には抵抗はないがな。それが日本のいいところだとも思うが。」


私は灰皿を差し出した。

平川は煙草の煙をふうっと吐き出して私の話は無視して続けた。


「寺にはご本尊というのが大抵あるよな。多くは仏像だ。俺はあれも怪しいと思っているんだ。あの中になにかあるんじゃないかと思ってな。」

「おいおい。待て。いちいち祀られている仏像を叩き割って中を見るというのか?」

「俺の話に興味を持ってくれた寺が実はあってな。生臭坊主だが、寺はたたんでもいいって言ってるんだ。

俺だって現在残っている全ての寺の坊主が宇宙人だなんて言わんさ。おそらく本物がいる場所は限られているだろう。だが、俺の仮説が正しければ多くの寺の収蔵物になんらかの手掛かりが残っているはずだ。由緒代々、受け継がれてきたものがな。何百年も崇め奉られてきた仏像だ。しかし金箔ではられた中身はおそらく空洞だろう?なぜ空洞なんだ?」


平川はまたふうっと煙をはいた。

「で、お前さんの見解を聞きたいんだ。やはり俺の仮説はおかしいか?オカルトじみているか?」


ここまで来たらしょうがないだろう。こいつは本当にやりかねない。


「うむ。実に面白い論理だ。確かに。よくぞ辿り着いたと思うよ。脱帽だ。びっくりしたよ。」


私は思わず笑みを浮かべていた。


「え?」


平川の顔色が変わった。

私は平川の体に金縛りをかけた。この能力は現在は霊の力だと説明されることが多い。

さすがに今はすぐに食ったりはしない。我々だって良識はわきまえている。いきなり拉致などもしない。それは作り話だ。どうしようもなくなったらするしかないだけの話だ。

平川はすぐに意識を失った。

現在の寺にはおそらく我々の仲間はいない。と私は思っているがわからない。ただ痕跡はあるかもしれない。それが暴かれることを防がねばならないのが私の仕事だ。


私は故郷に電話をかけた。俗にいうテレパシーだ。

「私だ。今から、一人そちらに送りたいから迎えに来てくれ。うん。頑固な人間だ。よろしく。」


時折、鋭い人間は真相に近いところまで近づくから危ない。元々、三枚のお札の話は、私はくわしく知らなかったが、平川が言うように過去にへまをした子供がいたのだろう。何度か話を聞いたときに危ないなと思ったから、確かその都度記憶を消したのだが、彼の執念が今日に至ったのだろう。これ以上は私ではどうにもならない。


「いい友達だったのだが、残念だ。」

私はため息をつきながらつぶやいた。


しかし、私を故郷に返してくれるのはいつなのだろうか。

数百年いると日本にも愛着もわくが、自分がやっていることもむなしくなる。単身赴任の身は辛い。妻にも息子にも会いたい。

故郷に帰ったとき、平川に再会できたらうれしいのだが。全てさらけ出して酒を酌み交わす。平川が我々の仲間になってくれるのを願うばかりだ。


私は人間型のスーツを脱いだ。シャワーを浴びてビールでも飲んで寝るか、と言いながら。久しぶりに能力を2つ使ってしまった。今日はあと1つしかないから気を付けないと。


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