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吸血鬼ピンキーの1000年戦記  作者: きっと小春
第一話 14階層の夢
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第一話 吸血鬼と冒険者

 天空の塔、14階層。

 ここは1階層が一国程度の広さを誇るヨハン大陸の大迷宮である。

 その一角で犬型の魔物に囲まれた小さな少女が魔法を詠唱した。

血魔法:沸騰(ボイル)

 視界に入った魔物たちが断末魔を上げて地に倒れる。

 少女の目は紅色に輝き唇からは可愛い犬歯が顔を覗かせていた。

 少女が天空の塔に来ておよそ120年、14階層に到達して6年の月日が流れていた。

 岩のくぼみを見付け、無理やり体を押し込めると目を閉じる。

 120年前に国を追われて金色の騎士と天空の塔に逃げ込み最上階を目指し始めた冒険。

 金色の騎士は途中で合流した人族のパーティに殺され、少女はどうにか逃げ延びた。

 黄金の騎士に鍛えられた戦闘でどうにか今日まで生き延びてはみたが先の見えない天空の塔に心が折れそうになっていた。

「生きていても意味ないじゃない……」

 少女の閉じた瞳から涙が零れ落ちる。

「出てこい! 魔物め!!」

 失態だ。警戒を怠っていた。

 気がつけば人族パーティーに囲まれていた。

 14階層まで辿り着く人族である。無駄な抵抗は無意味だ。

 少女は両手を上げながらくぼみを出る。

「子供? 女の子じゃない……」

「いや、吸血鬼だ」

 ここで冒険は終わりだ。

「殺すならひとおもいに首を刎ねて」

 緊張した声で言いたいことを告げて目を閉じる。

 人族の足音が聞こえる。

 首を刎ねられれば痛いのは一瞬だ。

「名前は何て言うのかしら?」

 死ぬ瞬間を意識していたのだが、頭を撫でられて驚く。

「こ、殺さないの?」

「こんな小さな子を殺すわけないじゃない」


 老僧侶の魔法により人族から吸血したか否か検査されたが、ピンキーは血を吸ったことがない。

 すると人族の緊張は嘘のように解けて、食事をしながら楽しい会話になった。

「ピンキー。巫山戯た名前でしょ?」

「可愛い名前ね」

 人族の冒険者は、剣士の青年、魔法使いの姉妹、老人僧侶の4人パーティだった。

「それでこんなところでなにをしていたの?」

 ある適度の真実を伝え目的を話した。

「最上階にあると言われる転生の花を探しているの」

「転生の花?」

「うん、人族に転生してお日様の下で海を見たいの」

「転生ってことは……死ぬんだぞ?」

 考えたこともなかったが、黄金の騎士と夢見たその場所へ行く……ただソレだけだった。

「天空の塔は100階層と言われている。人類が到達できたのは14階層。つまり俺達が辿り着いた、ここだ」

「あと86階層もあるのね」

 ピンキーはもう一度尋ねた。

「ねぇ、本当に私を殺さなくても良いの?」

「天空の塔を出ることよりも、天空の塔に挑み続ける。そんな女の子を殺せるはずがない」

「私弱いよ」

 あの頃の黄金の騎士と来れべたらまだまだだ。

「そうじゃない。君は純粋だということだ」

 どうにも人族の言うことは難しい。

「私、純粋じゃないよ。人族と吸血族の混血……」

 突然、人族の魔法使いが覆いかぶさる。

「ピンキーおいで一緒に寝よう」

「狡いお姉ちゃん、ピンキーは私と一緒に寝るの!!」

 左右を人族に囲まれた。

 きっと私を警戒しているのだろう。

 だけど温かい。

 黄金の騎士と一緒に寝たあの日を思い出す。

 でも黄金の騎士の名前は思い出せなかった。

 ゆらゆらと揺れる焚き火の炎に照らされた自分自身を見ていたら、いつの間にか眠りについてしまった。


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