第一節 暖かい始まり
チチチ・・・
朝日の差し込む光と雀のさえずりが聞こえる
前日の契約で疲れたのか恭司はぐっすり眠れた
「う・・・ん・・・」
恭司が目覚める
「・・・なんだ、寝てたのか・・・」
今、恭司は時雨家の一室で目覚めた
恭司はテレビに出てきそうな豪華なベッドで清々しい朝を迎えた
コンコン・・
恭司の寝ていた部屋のドアがノックされる
「ん、どうぞ」
恭司が答えると裕子が部屋に入ってくる
「恭ちゃん、朝です、おはようございますっ!」
裕子が恭司に向かって太陽のような笑顔で言う
「ああ、おはよう、祐、」
恭司に名前を呼ばれたので、裕子の顔が赤らめる
「お、おはようございます、さ、さあ、ご飯にしましょう。」
何も気付かない恭司は裕子に向かって言う
「またお前顔色が悪いぞ」
裕子はさらに顔を真っ赤にして
「そ、そんな事ありませんっ、さ、さあ、早く食堂にきてくださいっ!」
そう言うと裕子はドアを「バタンッ!」と閉めて出て行った・・・
恭司は、まだ眠たい目をこすりながら食堂に向かう
昨日の契約の後に沙耶に屋敷を案内してもらったのですぐに分かった
「おはよう!恭司君!」
沙耶の父章吾が恭示に挨拶をする
「おはようござます、恭司さん」
沙耶の母千里が上品に恭司に挨拶をする
「おはようございます、章吾さん、千里さん」
恭司は章吾と千里に挨拶を返す
「おはようございます、恭ちゃん」
沙耶も恭司に朝の挨拶をする
「おはよう、沙耶」
恭司と沙耶は見詰め合う、瞬間、昨日の記憶が呼び起こされ二人は顔を赤くする
すると章吾が恭司に言う
「恭司君、座りたまえ、」
「あ、はい。」
恭司は促されるままに、イスに座る
「裕子さん、朝食をお願いします」
千里が裕子に促すと
「かしこまりました、奥様、」
そう言うと裕子は奥の方に消えていく
「さて、恭司君、」
章吾が恭司に向かって呼ぶ
「なんですか?」
恭司は不思議そうな顔で答える
「君の家のことなんだが・・」
章吾が恭司に向かって真摯なまなざしで言い出す
「それが・・どうしました?」
恭司はいい返す、
「君に土地の権利と籍の復帰の手続きが結構かかりそうなんだ、だからもう少し待てもらえないかね?」
章吾の話を聞くと恭司は
「まあ、いいですよ、それに少し話しておきたこともありますし・・・」
「話しておきたいことかね?」
章吾が恭司に問いかける
「はい、食事が終わったら少し時間いいですか?」
恭司が章吾に問いかける
「ああ、いいとも」
章吾が言い終わると食堂の扉が開かれる
「失礼します」
裕子がそう言うと朝食が運ばれる
「今日の朝食は、ベーコンエッグ、新鮮野菜のサラダ、コーンスープ、トーストになります。」
食事が恭司たちの前に運ばれると
「じゃあ、いただこう」
章吾の言葉とともに4人で朝食をいただく
「あっ、そうだ恭ちゃん「約束」忘れてませんよね?」
沙耶が恭司に問いかける
「ああ、忘れてないぞ、章吾さんとの話が終わったら何処かに行こう」
「はいっ!」
沙耶は恭司の答えを聞くとうれしそうに笑う
そして他愛のない会話をしながら朝食を取った恭司と章吾は書斎にいた
「話とは、なんだね?恭司君」
「単刀直入に言います、章吾さん、俺や俺の親父やお袋を殺したヤツのことは、何処まで知ってるんですか?」
恭司の問いに対して章吾は少し驚いた顔をする
「なぜ、私がそんなことを知っていると思ったのだね?」
「俺の記憶の中では、親父と章吾さんはかなり仲のいい知り合いと言うよりは親友みたいに見えたので・・・」
恭司の答えを聞くと章吾は少し困った顔をして
「確かに、私と君の父さん大悟とは本当に子供の頃からの親友だったよ・・・」
章吾は遠くを見るような目で話し出す
「君のお父さんが殺された日から私は、がむしゃらに調べたよ、だが、何も分からなかった・・・」
章吾は手で拳を強く握りしめながら本当に悔しそうに言う
恭司は、なんだかそれを聞いて少し安心した
「章吾さん・・・ありがとうございます、俺の親父のためにそこまでしてくれて」
「いいや、私は結局は何も知ることができなかった、お礼どころか、君が私を殴っても私は文句をいえないのだよ」
章吾が本当に悔しそうにうなだれる
「じゃあ、遠慮なく」
その瞬間、恭司は章吾を思いっきりぶん殴った
ボォゴォ!
「ぐっ!」
章吾が思いっきり吹っ飛ぶ
そして恭司は言う
「章吾さん、バカですかぁ!ちょっと言わせてもらいますけど、俺はありがとうございますって言ったんですよ!俺がそう言うって事は、もう大丈夫ってことなんです!はいっ!おわりぃ!」
恭司の言葉に驚きとすがすがしさを感じる章吾は微笑んで
「私が悪かった、すま・・・いや、ありがとう」
「じゃあ、俺、沙耶と約束があるんで、失礼します」
恭司が微笑みながら出て行こうとすると
「待ちたまえ」
章吾に呼び止められた恭司は
「はい?」
「これをもって行きたまえ」
そう言うと章吾は書斎の机から綺麗なスカーフに包まれた塊を恭司に投げる
「楽しんできなさい」
章吾は恭司に言う
「は、はい」
なんだか分からないものを受け取った恭司は部屋を出る
章吾は恭司が出て行った後独り言をつぶやく
「痛かったな・・・フッ、大悟、お前の息子は、結構まっすぐな好青年になってるぞ」
少し暖かい朝のできごとだった・・・