プロローグ
西暦2835.11.4
地球連合軍 第38次派遣艦隊
天王星チタニア基地 抜錨
西暦2835.12.10
ケンタウルス座アルファ星プロキシマケンタウリ星系第二惑星イシュタル上空にて戦闘開始
地球連合軍艦隊総勢70隻余り。
紡錘陣形となり、ただ一点を目指す。
その中心部には、旗艦ヘルメスが威容を示す。
各艦から放たれた戦闘ドローンやファイターが乱舞する。
局所制空権の確保のため。
光点が1つ現れるたび、戦闘マシンは虚空に塵となっていく。
戦艦ヘルメス以下、戦艦5隻は主砲をある一点に集中斉射する。
地球連合軍が、対イシュタル戦で変わらず行う戦法だ。
鮮やかな光の束となったフォトンレーザーが、光のゆっくりとした速度で忌々しい悪魔の巣に放たれる。
物体の質量と運動エネルギーを破壊の源とした電磁加速砲弾が漆黒の闇を切り裂きながら悪魔の巣と呼ばれるイシュタル軍要塞ウプサラの滑らかな肌に爪痕を残そうと放たれる。
数えきれない殺意がイシュタル軍最後の切り札に襲い掛かる。
≪地球連合軍艦隊旗艦 戦艦ヘルメス 戦闘指揮所≫
“各種センサー オールグリーン”
“レーダーに反応多数。射角前面にセクター型に展開”
“全機発艦。各機直ちにブログラムC-2を起動。”
「各艦は予定通りこのまま最大戦速。要塞砲は?」
「敵砲の斉射まであと10分。計算上は問…」
「司令、敵艦隊は射線上から離れていきます。艦隊に散開を!」
突如、戦闘指揮所に大きな揺れが伝わる。
ヘルメスの真横で忠実に命令を遂行していた僚艦がウプサラの砲弾の直撃を受けて火を噴き始めた。
「プロメテウス被弾。戦線を離脱します。」
セクター型の陣形を取っていたイシュタル艦隊は、徐々に散開しはじめ、要塞砲の射線上から敵はいなくなっていく。
“敵要塞まであと7万キロ…“
「巡洋艦ケイローン被弾。沈みます!」
“要塞砲 仰角コンマ02修正を確認”
あれほど激しかった要塞からの砲撃が…すっかり止む。
「司令!計算上はあと5分あります。5分あれば初弾があの砲口に着弾し要塞砲は沈黙します。このまま進路の維持を!」
“砲口内温度上昇!!440℃、500℃、670℃…”
“巡洋艦アキレウス、エレクトラから入電。特攻により時間を稼ぐ、ヘルメスは退避を”
「司令!そのまま直進を!」
しがみ付こうとする男。
「司令!散開し陣形を立て直しましょう!要塞正面に固まりすぎています。」
何隻かの僚艦が食われ、今、ヘルメスを退避させるため特攻をかけるという。
そうなれば話は別だ。
司令と呼ばれた男はやっと重い腰を上げる。
若き主戦派の士官の意見は封じられ、艦隊は退避行動に移る。
船は大きく、ゆっくりと、回避行動を取る。
大きい船の舵が効きにくいのはどんなに技術が発展しても古今東西変わりようのないものだ。
だが…その判断は遅きに失した。
“砲口内温度 振り切りました!!”
「ッ!!」
男が前方のコンソールを叩く!
その刹那!
眩い光が砲口に溢れる。
光の奔流が!!!!!
西暦2835.12.12
第38次イシュタル派遣艦隊は撤退を開始。
実に4割の艦艇が要塞のたった1撃の砲撃で…虚空に消え失せた。
ちょっと修正しました。