表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

改定:四天王討伐。倒せ! エルダートレント!! 鍛錬編。




  

    「「「いゃぁぁぁぁああああッ!!!!!」」」


 三人の落ちこぼれ戦乙女は声を揃え、鋼鉄のボディにしがみ付く。

  全体的に丸みを帯びた頑強なこの体。掴む場所は限られている。


 首元、肩関節、肘関節等々。丸みを帯びたパーツでは無い部分しか無い。

  彼女達はその部分にそれぞれ必死にしがみ付く。

 振り落とされれば怪我どころではない。

 確実に死ぬ、それも酷い傷を負って、無様に―


    (死…死ぬぅぅぅうううっ!!!)


 超加速ハイブースト

  機械人の腰に装着されている高機動ブースターを

  噴射させ、残像を残す程の速力での移動を可能とする。


   「ビャハハハハハハハハハハハッ!!!!」


 草原を滑るように疾走する。


 既に討伐本隊は遥か後方、男の目前には小高い丘。

  ここからでは見えないが向こうは崖。

 知ってか知らいでか、勢いを殺す事なく丘を駆け抜け、

  崖から跳躍した。


  「うっひょぉぉおお」


 機械の体、その機能を堪能しているのだろう。

  自らを隊長と名乗った男は空を飛びながら笑う。


 まるで戦乙女達の事を忘れているようにも見て取れる。

  空気抵抗その他諸々の物理的な衝撃が彼女達を襲い続ける。


  「も…もう無理ですのぉぉぉぉ」


 最年少で最も非力なリリスがついに頭から手を離し、

  高さはおよそ15m、空中を勢いよく飛ぶ男から

  振り落とされ、お気に入りの魔女帽子も別々に飛ばされる。


  「リ…リリスーッ!!!」

  「リリスちゃん!?」

  

 振り落とされたリリスを見た二人は、左右からあらん限りの力で隊長の

  鋼鉄の横顔を殴る、殴る、殴る。


  「最低! アンタなんかぁぁぁあっ!!!」

  「死んで地獄に落ちて下さいお願いしますぅ!!」


 その言葉が終わるや否や、体をぐるんと180度回転。


   即応加速クイックブースト


 足と腰のバーニアを噴射させ、進行方向を強制的に逆に。

  急速旋回した際に生じた強烈な遠心力に残りの二人も振り落とされる。


   「ちょっ…いやぁぁああっ!!!」

   「めがみしゃまぁぁあああっ!!!」


  それを確認した隊長が、ジグザグに激しく移動しつつ

   落ちていく三人を順繰りにキャッチした。


   「流石にこれは無理かよwwww」

   「ふ、ふにゃぁぁぁぁぁ…」


 目を回している戦乙女達を見て隊長は激しく、土煙をあげながら

  地面へと降り立ち、狂ったように笑い出す。


  「おうおちこぼれ、意外にしぶてぇなwww」

  「っ!! アンタなんか鉄屑にしてやる!!」


 反骨精神旺盛なのだろうルーンが隊長へと当然の抗議。

  腰に挿したショートソードを抜きながら歩み寄る。

 それに対し、隊長は大きく身を屈め、両手でルーンを手招き。


  「カムォォォォン…底辺娘ぇwww」

  「底辺…言うなぁぁぁああっ!!!!」


 ヂュィィイイインッ!! 


 勢い良く踏み込んだルーンの袈裟斬りは

  見事に隊長の右肩にヒットした。

 だが丸みを帯びた隊長のショルダーパーツはそれを

  火花を散らして受け流す。


  「ちぃ…ヤァッ!!」


 それを見越していたルーンは追撃、斬り上げる。

  更にそれを見越していた隊長はあろうことか、

  右足を上げて斬りあげてくる斬撃を跨ぎ股間部へと招き入れた。


 ガチィィィィイ!!

  

 今度は滑らずに見事に斬りあげた。

  隊長の股間部に見事なクリティカルヒットを叩き込んだ。


  「…oh。何処を斬る気だよwww」

  「な…ちょ…アンタわざとでしょ!?

    何て所を斬らせるのよ!!!!」

  「肉を斬らさず、玉を断たせるwwww」

  「っ!!!!!」


 顔を真っ赤にしてショートソードを引っ込め身構える。

  切っ先が震え、肩で息をしている。

 そんなルーンを更に小馬鹿にするように、

  隊長は太い装甲を内股に擦り合わせ、股間に右手を当てる。


  「もうっ…お婿にっ…いけないっwwwwww」

  「ふっ…ふざけんなぁぁああっっっ!!!!」


 それから幾度も幾度も、ルーンは隊長と斬り結ぶ。

  その度にセクハラ染みた行動を隊長は取り、

  ルーンは怒りのボルテージを上げ続ける。

 そんな光景をただ溜息をつきながらナーシアは見ていた。


  (なんていう下品な方でしょう。でも…でも)


 彼が隊長なのかと疑問はある。

  だがナーシアの目には、小馬鹿にしつつも、

  ルーンの実力を測っているように見えていた。


  (女神から遣わされた、私達の隊長…教導官様)


 少し疑問は残るものの、その答えは今のルーンの顔を

  見れば一目瞭然とも彼女は思う。


  「てぇやぁぁあああああっ!!!!」

  「うっはw すげぇww 

    こわされるーwwww …かっこぼうよみ」

  「ぬ…がぁぁぁあああっ!!!」


 明らかに怒っている。今までに無い程に。

  口元は屈辱に歯を食い縛っている。

 だが、目元は中々どうして、凄く楽しそうに見て取れた。


  (今まで、見下され、相手にすらして貰えませんでした。

   ですがこの方はどうでしょう、こんなに真正面から、

   私達を見て、知ろうとして下さって…いる?)


  「ぜ…はぁっ…。も、無理。何この化物…

    他の隊長より段違いに強い気がする…」

  「あぁん?w もう少しでこわれちゃうよー?

    ほらほら残り1億万回程だよー?ww」

  「ふざっけっ…くっ」


 ついに力尽きたのか、その場に剣を突き立て膝をつく。

  既に息をするのも困難なのか、肩を大きく上下させる。

 焦点も合わずただ地面一点を見つめ、口で必死に呼吸をする。


  「悪く無いねぇ…底辺剣士。

    いーい筋してるんじゃ? 豆腐ぐらない斬れるぜぇww」

  「はぁ…こ…ぜぇ…こわす…はぁ…絶対に壊す…」


 彼女を試していたのだろう。師弟のようにも思えナーシア。

  感覚が鋭いのか周囲の殺気にハッと気が付いた。


  「た、隊長さん?」

  「わーかってるよww 魔物が右手に一匹…いるねぇ」

  「で、ですです!アレは…!!」


 ナーシアの視線の先、部分的に硬質化した外骨格を身に纏う

  身の丈5mはあろうかという黒い熊が、身を屈めてコチラを睨む。


  「グルルルルル…」


 それを視認した隊長の目、スコープにはある程度

  敵戦力情報を示す機能が付いていた。

 女神からの贈り物だろうか。


  「ビャハハww 解析機能付きとか便利じゃね?ww」


  アーマードベア Lv58

  HP5800 MP0 攻撃値150 防御値128


  強敵だ。少なくともこの三人の戦乙女なら一撃で蒸発する。

  逃げの選択肢すらも無いかも知れない。

  ズシリ、ズシリと、四足歩行で歩み寄る魔物。


   「くっ…アンタが疲れさせるから…っ!」

   「あはぁん?w もう限界? ひんにゅ…もとい、貧弱ぅww」

   「きっ…貴様ぁぁああっ!!!」


 怒りの声と共に立ち上がり、辛うじて剣を身構えた。

  それを見た隊長がポツリと呟き、ルーシアが目を丸くする。


   「それでいい。限界なんぞ気にするな」」

   「隊長…さん?」

   「限界なんてなぁ…突破する為にあるんだよwwwwww」


   (やはり、この人はやはり…!)


 そう言うと隊長は左に抱えたリリスと、肩のナーシアを下ろし

  単身、アーマードベアへと突撃。真正面から組み合った。


   「グガァァァァアアッ!!」

   「うっひょょおww こっわwww

     お口とヨダレがクッサぁぁぁぁぁあっwwww」


 互いの膂力が拮抗しているのか、微動だにしない。

  ただそれをルーンが剣を構えて見ている。


   (まだあれだけの余裕…化物か。

     それに引き換え、アタシは…くそ…くそぉっ!!)


 言うだけの実力があり、自身らを導くべく女神より

  遣わされた戦士、教導官。

 その背中がとても大きく、いや、今自分が立っている草原。

  それよりも更に広大に見えた。得も言えぬ敗北感。

 加えるに、今はまだ言葉に出来無い感情だろう。

  恐らく、隊長が彼女に伝えたかったモノがルーンを突き動かした。


 それは不撓不屈の精神に他ならない。


   「う、らぁぁぁぁあああっ!!!」


 既に体力が尽きた体を、不撓不屈の精神力が突き動かす。

  正面で堂々と受け止める隊長の背を蹴り大きく飛び越え、

  大上段からの一閃。


 ガキィィィィイッ!!


 無防備な頭部へクリーンヒットしたが手ごたえが

  全く感じられない。追撃しようと頭よりも体が反応し

  熊の頭を蹴り、身を翻し、右側面へと着地すると同時に

  独楽の様に回りつつ、熊の足を薙いだ。


 ガシュッ


 またしても手ごたえらしきは無く。

  だが、ルーンは止まらない。聞こえていたのだ。

  隊長の呟きが、先ず倒すべきは何なのか。


   「うぁぁああああっ!!!」


 連撃。速く軽い一撃が立て続けにアーマードベアを襲う。


   「グァ?」

   「ちょwwwおまwww隊長様に当たってる当たってるww」


 重い、体が鉛のようだ。

  だが不思議と重さに違和感を覚え始める。


 ザシュッザシュッガチンッガチンザシュッ。


 ダメージ的には1だろう。全く意に介さないアーマードベア。

 ようやく意識を取り戻したリリスが、ナーシアの膝枕から

  強固な外骨格と隊長のボディが彼女の剣を弾く音で飛び上がる。

   

   「これ…何がどうなってるですの!?」

   「隊長さんと、ルーンさんが…あああアーマードベアと…」

   「鎧熊ぁ!? 無茶無理無謀ですのぉぉおっ!!」


 Lv1の彼女達に勝ち目なぞ無い。

 ゲームで言えばステージの中ボスのようなものだ。

 一応、この中で一番賢い(笑)リリスが熊に指差して無理だと。

 

   「無理ですの、逃げるですのぉぉおおっ!!」

   「くるぁああっ!! 無乳バルキリー!!

     魔法の一発ぐらいぶちこめやwwwwww」

   「むにゅっ!? …は、はいですのーっ!!」


 少し怒っているように見えた隊長。慌てて手にした杖を地面に突き付け、

  両手をアーマードベアに向け、初級雷撃魔法を放つ。


   「雷の矢よ、敵を討て!!」


     雷撃ヴォルト


 一本の雷撃の矢が、あろうことか隊長の背に命中。

  その瞬間、隊長のメタリックボディが帯電し、

  アーマードベアにまで雷撃の威力が届く。


   「あびゃびゃびゃびゃ!!!」

   「グオ?」


 機械人の隊長には雷撃特効。対して鎧熊には効果が薄いようだ。


   「おまwwww 誰がwww 俺メカwww

     つか…わざとだろてめぇwwwwwww」


 斬撃に続き、雷撃を当てるもいまだアーマードベアは

  怯んだ様子もなく、隊長を押し潰そうと力を込める。


   「ぬっwwはwww」


 ボン。という破裂音と共に隊長の左肘関節部が火を噴いた。

  熊の膂力による圧力なのか、リリスによる雷撃なのかは不明。

 しかも、当のリリスはMPが尽きたのか魔法が…。


  「も、もう魔法使えないですの…」

  「単発wwwもういい殴れ!!

    全員で殴れwwwwwwwwww」


 ルーン、リリス、ナーシアの三人は、

  剣、杖、本の三種類の武器で近接戦を強いられる。

 隊長が部分的に爆発炎上しながらもアーマードベアを

  抑えている間に、幾度も幾度も斬撃と打撃を繰り返す。


 0では無い。1だ。ならばと敵のHPが尽きるまで殴り続けた。


 頭の上にあった太陽が沈み、月が頭の上に届く。


  「たぁぁぁぁああっ!!」

  「も、もう限界ですのぉぉぉぉっ!!」

  「私、神官なのに…本の使い方間違ってますぅ!!」


 一人、確かに使い方が間違ってはいるが、分厚い聖典の角。

  これは確かに鈍器である。


 超スパルタパワーレベリング。

  隊長が高Lvモンスターを固定させ、

  一方的に殴り続けさせる事、十二時間にも及んだ。


 ついに、アーマードベアが白目をむいて泡を噴きつつ

  地面へと崩れ落ちる。


  「た…倒した?」

  「嘘…ですの」

  「何十倍も強い相手ですよこれ…」


 信じられない。こんな事在り得無い。

  ただその思いに呆然とする三人の戦乙女――


     <超加速ハイブースト>


 ―を、今度は両脇に抱えて草原を疾走する。

  闇夜に彼女達の絶叫を響かせて。


  「「「きゃぁぁぁああああっ!!!!」」」


  「不可能なんてのはなぁ、可能にするためにあるんだよ。

    覚えとけお前達wwwwwww」


 バーニアの火が大地を疾る。

  隊長の頭脳にインプットされた第一の目的地。


 四天王が一つ、エルダートレントが護る【魔の森】へと。

 



   

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ