世界に聖女って必要ですか?
初めて小説を書いてみました。
自己満足だけで成り立っていますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
R15は保険ではありません。
玄関を開けると、突然足元から目映い光が弾けた。
少しの浮遊感の後、体を打ち付けた衝撃に目を開ける。
そこは石でできたひんやりとした空間で、床にはチョークで何かが描かれている。
少し離れたところには男たちが集まり、口々に何かを叫んでいる。
「召喚に成功したぞ」
「これで我が国は救われる」
「よかったな。ひと安心だ。」
「聖女さま。
私がこの国の宰相です。
あちらにいらっしゃるのが国王陛下です。」
この中では少し豪華めの服の年配の男性が宰相さまらしい。
そして宰相さまよりは、若い感じの男性が一人だけ椅子に座っている。
「聖女さま。
古い文献では聖女にしか世界は救えないとなっているのです。
我が国の命運は貴女にかかっています。
よろしくお願いします。」
宰相さんが満面の笑顔で告げてくる。
この人達、何言ってるんだろう?
私が助けるのが決定事項なの?
私に拒否権はないの?
断りもなく突然連れてきて、感謝の言葉もなく、もちろん謝罪すらもない。
貴女は聖女だから。
貴女にしかできないから。
聖女がこの世界を救うから。
だから何?
何なの?
なんで私なの?
私この国の人間じゃないよ?
助ける義務も義理もなくない?
何もしてもらってないよ?
そもそも私にメリットが何もない…。
「私に拒否権はないんですか?
やらなかったら、どうなりますか?」
「国の命運が貴女にかかっているのだ。
苦労して、召喚したのだ。
やってもらわねば困る。」
「だから、やらなかったらどうなるのよ!」
イラッとして思わず叫ぶと、ムッと眉を寄せた宰相さまを遮り、威厳のある声音で陛下が静かに口を開いた。
「貴女に拒否権はない。
やらないという選択はできない。
やるしかないのだ。
どうしてもやらないのなら、不敬罪に問うことになる。
奴隷としてやらせるだけだ。」
不敬罪ね。
バカじゃないの?
私はこの国の人間じゃないってば。
「不敬罪なら処刑が一般的だったよ。
私の国の物語ではね。
王族による冤罪がほとんどだったけど。」
護衛なのか監視なのかよくわからないけど、後ろに控えていた名も知らぬ騎士の腰から剣を奪うと、自分の体に突き立てた。
王様を襲うとでも思ったのか、王様の周りを素早く取り囲んだ騎士達も、王様も宰相様も驚愕に目を見開いた姿が、音もなく崩れ落ちていく私のこの国での最後の記憶。
「あらあら、生き急ぎますねー。」
そんな呑気な言葉が降ってくる。
あれ?
剣を刺したときそれなりに痛かったけど?
傷がどこにもない。
特に痛みも感じなくて、目を開けて体を起こすと、そこは一面真っ白な世界だった。
「ここは? 貴女は?」
「ここは、時空の狭間とでも言えばいいかしら?
貴女は死んでもいないけど生きてもいない状態ね。
今ならどちらにも行ける。
私は、貴女が呼ばれた先の国を見守る役目なの。
あの国の人達は、創生の女神と呼んでいるけれど、実際は管理者ね。」
「貴女が私をあの国に喚んだの?」
「そうね。
貴女の国の管理者にお願いして来てもらったのよ。」
「なんで?
なんで、私個人を指名したの?
日本にいる私の生き方見てなかったの?
もしちゃんと見てたなら、私が助けないことなんてわかったでしょう?」
女神か管理者か知らないが、めんどうなのに目をつけられたな。
「貴女、死ぬことに全く躊躇いがないのね。
こんな人初めて見たわ。」
一つため息をこぼすと、悲しげな瞳を向けてくる。
「今回、聖女が祓えばこの先200年はもつはずだった。
でも貴女が消えてしまったから、この先200年は聖女を召喚できないの。
あの国は滅ぶわ。
陸続きの周辺国もね。」
だから何だ?
私のせいなのか?
そもそもなんだよ。
その可哀想な私を助けてオーラは。
安物のラノベの頭の悪いヒロインか。
「助けることを拒んだ、私が悪者だと言いたいのですか?」
「この先起こり得る事実を述べただけよ。
卑屈過ぎるのではなくて?」
「あの国が滅ぼうが聖女が召喚できなかろうが、私には関係ありません。
それが私のせいだと言うのなら、人選を誤った貴女の責任です。
そもそも、たった一人の人間に国の命運を預けるとか、聖女をどっかから喚んでくるとか、他力本願過ぎませんか?
もうね。
心の底から、バカなの?って思います。」
私の蔑んだ静かな罵倒に目を見開き、何か言いかけてハクハクとすることしかできていない。
天を仰いで「はぁー。」とこれ見よがしに大きなため息をつく。
しばらくの沈黙の後、仕方がないから私から口を開いた。
「で?
私にどうしろと?」
またおかしなことを言えば罵倒されるとでも思ったのか、それでもそれしか言えることがなかったのか、目を伏せ発せられた言葉は結局それだった。
「…聖女として、あの国を助けてほしいわ。」
「あくまでも聖女が救った。という呈をとりたいわけですか?
その理由を聞いても?」
「あの国にとって聖女は突然現れて、思いもよらぬ方法で助けてくれる存在なの。
王よりも尊い存在だわ。」
「屁理屈に聞こえますけどね。
助けないと言ったら不敬罪だと言われましたよ。
聖女召喚に成功したけど、その聖女を死なせてしまった時点で、国としておしまいなのでは?
そもそも、自国から沸いたって良いわけじゃないですか?
なぜ異世界から召喚した聖女じゃないとダメなんです?」
私がしつこく詰め寄るからか、青い顔で小さなため息をついている。
「管理者としてそう決めたから。としか言いようがないわ。
管理者だからといって、ルールを勝手に変えると理に反するのよ。
変えるには承認がいるの。」
「ようは無能な貴女の尻拭いをしろということですね。
私が貴女を助けてやってもいいと思えるような、メリットを提供できますか?」
「なっ!?」
得体の知れない、未知のものに遭遇したような怯えを含んだ目を向けてくる。
「ただより高いものはないのですよ。
当然じゃないですか。
私は望んで聖女になった訳じゃありません。
どちらかというと無理矢理、聖女を押し付けられた方です。
聖女をやるのは選ばれた以上義務だと言いながら、報酬があるわけでも、私に某かの希望を聞くわけでもない。
聖女をやらないなら、このまま死んでもらう。と言われたらそちらを選びますね。」
これ以上ないぐらいに、驚愕に見開かれた目は、瞳がこぼれ落ちそうだ。
そもそもね。
私は積極的に生きてた訳じゃない。
死ぬ理由がなかったから、現状維持で惰性で生きてただけだ。
仕事も楽しかったし人並みに彼もいたけど、それが生きなけゃいけない理由にならなかった。
そして今、生きるか死ぬかを選べる時空の狭間とやらにいる。
やりたくもない聖女を押し付けられないためだ。
どうするかなんて一択じゃない。
「なっ……。
貴女は本当に聖女をやりたくないという理由で生を放棄するのですか?」
あーもー。
本当にめんどくさい。
聖女もやりたくないし、あの国を助けたくもない。
こいつの言いなりにもなりたくない。
そうだよ、私は自由意思を放棄するのがイヤなの。
自分でどうするかを決めたいのよ。
「あのさー。
そんなに助けたきゃ、自分で行けば?
聖女が助けたことにしたいだけで、
私がやらなきゃダメな理由はないんでしょう?」
「それはいいな。」
突然、心地よいバリトンが響く。
「管理者さま。」
「彼女に頼まれたから、貴女をこちらの世界に呼ぶことを許可したけど、迷惑だったかな?」
心地よいバリトンの優しげな声音。
悪いとは全く思ってないだろう顔でにこにこしている。
「迷惑だったか?と問われれば、迷惑です。としか言いようがないですね。」
女神さまが目を見開いて、青い顔をしている。
私のきっぱりとした拒絶が気に入らないんだろう。
管理者さまが二人になったから、片方は女神さまと呼ぼう。
「それはそれはすまなかったね。
迷惑みたいだよ?
どうする?
異界の管理者よ。」
可笑しそうに肩と声が揺れている。
「… …ですが、過去の聖女たちはあの国を助けてくれました。」
なんだそりゃ。
過去の聖女たちに押し付けてただけじゃないか。
「さっき彼女が言っていた異界の管理者、自らが聖女を請け負う。というのは考えないのかい?」
「わ…私がですか?」
「そう。
貴女はあの国を守りたい。
そして、彼女は聖女をやりたくない。
このままいけば彼女は輪廻の輪に戻って、あの国というより貴女の箱庭は消える。」
戻りかけてた顔色は青を通り越して白くなってる。
女神さまにとって大事な国なのね。
なのに他力本願なんだ?
他人にやらせたら自分が達成感を味わえないじゃない。
それってつまらなくないの?
「 …わかりました。
私が参ります。
あの。…管理はどうなるのですか?」
どうしても守りたいのか。
しばらくの沈黙のあと女神さまが決断した。
やっと解放だ。
「管理者でなくなるのなら教えられない。
これもルールだから。
貴女は管理者としてではなく、召喚者として行ってもらいます。
彼女ではない、他の誰かの記憶と変えておきます。
今までお疲れ様。」
女神さまが何かを言いかけたけど、光と共に消えていった。
「さて。貴女はどうしますか?」
さっきよりもずいぶん明るい声だ。
私に選ばせてくれるみたい。
どう。とは?と問えば、優しい目を向けてくれる。
「管理者が一人いなくなったから。
貴女が管理者をやってもいいというなら、任せる国を選ぶし
嫌なら輪廻の輪に戻ることもできますよ。」
「とりあえず、あの国が有る限り女神さまが聖女を全うするようにしてください。
国が残るかどうかは、女神さま次第ということで。
望みもしないのに無理矢理連れてくるとか、そんな犯罪行為はダメです。」
「わかった。
そうしよう。
手足がだいぶ薄くなってきてるね。
そろそろ決めないと貴女が消えてしまう。」
えっ!?
慌てて見ると確かに手足が胴体より薄くなってる。
ぶっちゃけ、輪廻の輪に戻りたいとも思わないけどな。
「管理者になったら、一から自分の手で箱庭を作ることってできますか?」
「慣れてくればできるよ。
最初はどこかを管理しながらになるけれど。
やってみるかい?」
新しい挑戦は大好きだ。
やったことないことってワクワクする。
聖女だって、やるかやらないかを選ばせてくれたらやったって良かったんだ。
強制だったから嫌だっただけで。
「はい。やります。
よろしくお願いします。」
私の箱庭には聖女はいらない。
拙い作品にお立ち寄りいただき、ありがとうございました。