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89話「はいぱー ごーれむ りぶーと」

 シアンは高みから状況を睥睨していた。

 球体ボディに四足の脚。“守護者(ガーディアン)”から奪ったパーツで作った蜘蛛型ゴーレム<参号>である。シアンはそのボディの上に立っていた。

 <アズースの石切り場>までイドラに運ばれて、そこからむちゃくちゃな勢いでよくわからない存在とアトのライセンスで契約。それをイドラに託すと疾風のように帰っていった。シアンを置いてだ。

 しょうがないので参号に騎乗し、出来る限り急いで戻ってきたところなのだ。

 巨大な“あれ”は見えていた。街を思うさま破壊する傍若無人ぶりにはひやひやしたものだ。アトが潰されているのではないかと。

 いつのまにかあれが居なくなり、地上にはかわりに“なりそこない”がうじゃうじゃと出てきたので建物の屋根部分を伝って移動することにしたのだ。蜘蛛型ゴーレムの参号には可動域の多い脚が備えられており、そういった三次元機動も可能にする。


 そうして戻って来てみれば、アトは何だか強そうなモンスターと向かい合っているじゃないか。

 シアンは弛む口もとを抑えきれなかった。何だか少し前に見た時より顔つきも変わっている気がする。


 彼女が対峙しているのは頭のないモンスターだ。頭はないが睨み合っているようで、その均衡を気持ち悪い頭に四足が生えた獣が崩そうとしていた。ひとまず“頭獣”と呼ぶことにする。


「さて、ボクの相手はキミだね」


 蜘蛛型ゴーレムの参号が屋上から飛び降りた。脚をうまく外壁に突き刺しながら落下速度を殺して着地する。ズシン、という重い音を立てて参号が着地した。シアンはすぐさま地面に飛び降りる。シアンが乗っていれば高速移動手段として使うことができるが、シアンが乗っていないと安全を無視しした超高速機動が可能なのだ。

 突進してきた“頭獣”をシアンは燃えるような目で見る。参号がシアンを守るように前に出た。“頭獣”の突進をがっしりと受け止める。


「そのまま押さえているがいい、参号。ここでもうひと押しといこう。<機巧兵創造(クリエイト・ゴーレム)>!」


 シアンの魔力が巻き上がる。激戦を経て、ここには大量の武器や防具、瓦礫や建材が落ちている状態だ。それも高位の冒険者が身に付けるような物だ。それらがシアンの技能(スキル)によって組み合わさっていく。

 ベースは弐号。盾をボディに。武器を腕に。これまでで最高の出来栄えが創造できることをシアンは核心していた。


 ブオオオオオオオ!!!


 “頭獣”が吼えた。一気に力を込めると参号を押しのける。バランスを崩された参号が地響きを立てて倒れる。“頭獣”がニヤリと笑った気がした。参号が倒れるとシアンを守るものは何もない。短い脚を振りかざし、“頭獣”は疾走する。シアンに咬みつかんと口を開けてシアンに迫る。その大きさはもはや丸呑みしそうなほどだ。


 だが、シアンは動じない。


「ひどい声だ。すこし黙るといい」


 すっと上げた手に、弐号が反応した。まるで重装騎士となった弐号が、剣を束ねた奇っ怪な武装を振りかぶる。いくつもの剣をジグソーパズルのように組み合わせ、一本の巨大な剣としているのだ。それもまたゴーレムの応用だ。

 分厚い刀身がずるりと動く。弐号はゴーレムにあるまじき有機的な動きで、剣を振りきった。ズドンと重い音がして“頭獣”の額が大きく切り裂かれる。


「やはり素材がいいと動きが良いな」


 フフとシアンは笑う。故郷の最新鋭機械的な素材であるか、質として高い素材。そういったものならば弐号の動きにブーストがかかるのだ。この武器や防具を使った素材はそれに値している。

 弐号は剣を回転させると、がっしりと構えた。切っ先を天に向け、いつでも斬りかかれる構えだ。上部を斬られた“頭獣”は一時的に後退させられていた。そこに復帰した参号が挑みかかる。鋼鉄の脚を絡ませて動きを止める。まるで連結した列車のように重なる眼前に、弐号が踏み込んだ。


 ゴドンと地を揺るがす音がして、全力の一撃が振り下ろされた。大上段の一撃は、空気を引っ掻いた軌跡すら残る速度だった。“頭獣”が何とか逃げようと体を傾ける。だがもはや逃げるほどの時間は無い。巨大な頭蓋骨ごと一気に断ち割った。


 まるで果物か野菜でも斬るかのようだった。弐号の大剣は地面にめり込むとようやくそこで静止する。

 “頭獣”の眼から力が失われていく。瞳孔が開き、虚ろな目になったままでろりと舌を出した。


「ふむ……。まったくでたらめな造形のモンスターだな、コレは」


 沈黙した“頭獣”を前に、シアンは興味深そうに観察する視線を向けた。そのシアンの前で“頭獣”の肉体から不気味な色をした蒸気が吹き上がる。毒かと口もとを押さえながら下がったが、そのままぼろりと“頭獣”の体が崩れていった。存在する力を失い、土塊へと戻るようだった。まるで人間の垢の塊のような色合いと臭いの物体となって、崩れ果てた。


 そこでようやくシアンはアトが“あれ”と戦っていることに気が付いた。

 高速の移動があるわけでもない。両者とも足を止めて、お互いの剣戟を打ち合っているのだ。


「さて……どこで介入したものだろうね」


 シアンは目を細めた。見る限り両者のベクトルは別であれど、総合的な実力は拮抗しているように見えた。だが、どこかでいつかその綱渡りが切れる時が来る。その時に介入するべく、シアンはタイミングを測り始めた。

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