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88話「めい あい へるぷ ゆう?」

 すぐに前に出ようとしたアトを、いつのまにか近くに寄っていたネフェルが制止した。


「アト。凶神(アルゴウリス)と睨み合うだけにしておけ」


「ネフェル、どういう……」


 アトは凶神から目を離さずにネフェルに問いかけた。眼力で圧力をかけるやり方なんて知らないが、とにかく目を離さないようにする。


 地面から生み出された“なりそこない”達は、獲物を求めて動き出す。今までアトと凶神の攻防に釘づけになっていた冒険者達が反応する。襲い来る“なりそこない”達を押しとどめるように攻撃をしかける。


 アトは歯噛みした。数が多すぎる。あのまますぐに凶神に向かっていってしまっていては、数の暴力で押しつぶされていただろう。どれだけ剣が鋭くなろうと、体が強化されようと、アトは一人しかいない。振るえる剣には限りがあるのだ。


 首の無い凶神はアトの方を向いたまま動かなかった。周りだけが騒がしく、戦闘の音が耳を打つ。

 アトに近付く“なりそこない”はイドラが弾き飛ばしている。アトを集中的に狙うほどの知性もないようで、とにかく近くの生物を狙っているようだった。


「自分に届く刃はアトの宝石剣のみであることを奴も感じておる。ここで睨み合う限りしばらくは動けなくなるはずよ」


「でも、このままじゃ……!」


 冒険者の悲鳴が聞こえたのはこの時だった。

 “なりそこない”は彼らの敵ではない。それを撃破する間に潜り込んだ異物。アトが斬り落とした腕が変化したモンスターが猛威を振るっているのだ。

 “腕の使徒”とでもよぶべきか。肥大化した腕。その側面から短い脚が生えている。その造形を言葉にするなら、顔が手になっている大ワニだろうか。手の握力は凄まじい。咬みつかれる代わりに、握りつぶされ、千切られる。

 そんな化け物が“なりそこない”と戦っている混戦の中で這い回っているのだ。


「盾を持つ者は出ろ! 受けるな、横からぶつけて掴ませないようにするんだ!」


 ギルド長の指示が飛ぶ。何人かの死者は出たものの、的確な指示のおかげで対応できるようになった。だが、ジリジリと押される感じが否めない。受けを失敗すれば死ぬ。だが、冒険者側からも倒しきる火力が足りない。


 前線で指揮するギルド長にまで、“なりそこない”が押し寄せる。この敵の波を凌ぎ、相手の手数を削れば凶神を滅ぼすまでの道筋が見えるのに。


「これ以上止まっていられない。このままだと崩壊する……」


 アトが動こうとした瞬間だった。

 協力なオレンジ色の光が、アトの前を横切った。そのまま“なりそこない”にぶつかると光りに秘められた熱そのままに真っ二つに焼き切る。


 それが号砲だった。横合いから雷や炎、冷気の槍などが次々と飛来する。冒険者達を巻き込まない絶妙な精度で放たれた超常現象は、“なりそこない”たちを屠っていく。


「アト! 生きてたんだね!!」


「ほら言ったろ。何とか生き延びてるって」


 聞えてきたアーネスとヨサ叔父さんの声に、思わず胸が熱くなる。生きていたのだ。ヨサ叔父さんは指揮を執っているギルド長を確認すると、すぐにそちらに向かって大声を張り上げた。


「魔術師ギルド生存者、これより冒険者ギルドの指揮下に入る!」


「おおおおお!!!」


 猛る声を上げたのは魔術師だけではない。援軍を得た冒険者達も勢いを盛り返した。足りなかった攻撃力を得たのだ。あとはいつもの流れだ。チームで囲み、連携しながらモンスターを狩る。一気に“腕の使徒”相手に優勢に攻めかかる。


 ヨサ叔父さんはアトの状況を見て理解したようだった。ちらりとネフェルと見たあとに、通りすぎ際にアトの頭に手を置いた。


「存分にやれ。邪魔は入らないようにしてやるさ」


 睨み合っているため、後ろ姿も見送れない。だが、力はもらった。アーネスもヨサ叔父さんと一緒に行くのが分かった。彼の回復魔術があればさらに戦況は安定するだろう。


「アト……」


 ネフェルの呼びかけに、アトは逸れかけた意識を戻した。

 凶神の足元、落とした首がもぞもぞと動いていた。巨大化した頭に肉の六足が生え、気持ち悪い獣と化している。がちがちと嚙合わせる口。眼球が飛び出した姿は正視に耐えない。

 アトの背に冷や汗が流れる。

 いくら魔術師の助勢を得たとはいえ、あの“頭の使徒”まで相手にする余裕はあるだろうか。


「ネフェル。あの“頭の使徒”と戦える?」


「すまぬが、長年の略取に余の力もほとんど残されておらん。助言をするのが精いっぱいよ」


「だよね。戦えるんだったら宝石剣(ジェベル)でネフェルが戦ってるだろうしね」


 苦い味が口の中に広がるようだ。

 まるで蟲のような動きで“頭の使徒”が向きを変える。動けないアトを攻撃する気だ。噛みつかれるのもぞっとするが、ぶつかられるだけでも恐ろしい威力だろう。


 奥歯を噛みしめる。

 もう一息なのだ。もう一息、なのに。




 ふわりと、かぐわしい香りを嗅いだ気がした。それは金色の花。不敵な笑みが見えるような。


「なかなか面白い状況(シチュエーション)じゃないか。うずうずしてしょうがない。ボクの救けが必要かな?」


 アトの心を震わす声が、降り注いだ。

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