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77話「みすりーど えびでんす」

 中央都市(セントレア)に設置されている図書館は一つ。博物館も一つ。

 アディリンとしてはおそらく図書館の方を狙うだろう。歴史を展示するための博物館というのは最近考案され出来始めたものらしく、まだ大した遺物が収められているわけではないのだ。展示物については鋭意努力中といったところで、見どころは少ない。


 迷宮(ダンジョン)産の高級な品となれば、それこそ切り札になるほどの戦闘力を秘める場合がある。オークションに出されることも考えると、やはり収められることはない。

 だからこそ図書館なのだ。文字情報、記録情報というのは残しておく分には問題ないのだ。


 まあ、神話級モンスターほどの驚異的な記録であれば、秘匿されている可能性もあるが、アディリンの操る<記憶の闇>ならば鍵穴くらいの隙間があれば通過できてしまう。


 アトは急ぐことにした。アディリンが自由になったのはすでに数日前。再現にどれほど時間がかかるものかは分からないが、邪魔をするのなら早いほうがいい。


 魔術師ギルドの前を通る時、にわかに雰囲気が変わっていることに気付いた。

 慌ただしく行きかう人。戦うための装備を整えた魔術師の姿が多く見られる。その中に見知った顔を見つけて、アトは駆け寄った。


「アーネス!」


 相手はすぐに反応した。


「アトか。来てたんだね」


「ちょっと迷宮(ダンジョン)に用事があって」


 アーネスも他の魔術師に劣らず、フル装備を身に付けていた。魔術師ギルドの支給品なのだろう。同じ装備を身に付けている人が多くここには居た。黒を基調として革鎧。ポーチは太ももまで覆う形になっており、防具もかねているのだろうか。同じく黒に染められたマントで、まるで死の使いのようにも見えた。


「それでアーネス。そっちはどうしたの?」


「うん。マルヴァ様が亡くなったんだ。その、弔い合戦に行く」


 アトは息を吞んだ。

 なんとも憎めないおじいさんの顔を思い出す。言葉が出てこないアトに、アーネスが続けて言う。


「今回の騒動の未来を読むために、力を使い果たしたんだ。視えた未来を告げて、さきほど息を引き取ったよ。敵はアディリン。過去の大魔術師、その居場所を伝えてね」


「アディリンはどこに……?」


「うん。どうやら中央都市(セントレア)の運営を司る執務庁に居るらしいんだ」


 中央都市(セントレア)の貴族区域。その中にあって、最も高く大きな建物が「執務庁」だ。ここでは外部との物流に関税をかけたり、住民の情報管理、商売の許可といった街を運営していくことに関することを行っていると聞いたことがある。

 教えてくれたヨサ叔父さんも、この中に居るのだろうか。


 考えこんだアトを見て、アーネスが不思議そうな顔をした。


「あれ? 彼女はいないんだね」


「うん。シアンにはちょっと頼み事をしてて」


 アーネスの言う通りだった。アトの隣にはシアンの姿はない。


 それにしても、やられた。

 アトの中のアディリンはそれが出来る事を伝えている。<未来視>を欺き、これ以上はないだろう思わせた先に、もう一つ罠を張る。

 今ここでアトが「図書館に戦力を向けるべき」と言って誰が聞くだろうか。マルヴァが生きていればその目もあったかもしれないが、<未来視>で力を使いすぎた彼は、没してしまった。


 アトは唇を噛んだ。

 アーネスだけでもついてきてもらおうかと思ったが、それも心の内にしまっておく。

 自分ひとりでも、やる。アーネス一人では死ぬ可能性が高い。

 なんとかアトが時間を稼いて大騒ぎすれば、執務庁からそのままこの戦力が駆けつけてくれるかもしれないのだ。その時アーネスが居ればスムーズにいくだろう。


「アーネス。私は図書館へ行く」


「へ? 今は緊急事態で開館してないよ?」


「ちがうの。アディリンの目的は図書室の蔵書の過去から、神話級モンスターを召喚すること。もし、執務庁に敵がいなかったら、みんなをこっちに連れて来て。もしヨサ叔父さんに会えたら、さっきの言葉を伝えて!」


「ちょ、ちょっと!!」


 アトはそれだけ言うと駆けだした。アーネスにどれくらい影響力があるかわからないけれど、ヨサ叔父さんなら動いてくれるはず。アトも死にたいわけではない。


 魔術師ギルドの敷地を駆け抜け、一気に外に出た。

 頭の中に中央都市(セントレア)の地形を思い浮かべ、最短ルートを考える。

 通りには人影はない。やはりこれまでの騒動のせいで家の中に隠れているのだ。


 いや、まさか都市から逃げて、家々は無人なのだろうか。

 そうであるなら、中央都市(セントレア)は生きながらにして死んでいることになる。


 ぶるりと震えそうになる体を、走ることで無理矢理整えた。

 がむしゃらに走るアトの視界には、中央都市図書館の無骨な外観が見えてきていた。

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