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76話「あうぇいくにんぐ ぱーそなりてぃ」

 時間が止まる。

 ギリリとゆっくり砲身が回転するのが見えた。射撃のための駆動準備だ。

 スローモーションになっているのは、アトが頭の中だけで時間を伸ばしているだけなのだろう。端に見えるシアンが、いやにゆっくりした動きで駆けつけようとしていた。

 その速度では間に合わない。


 だが、その攻撃はアトから外れた。

 今にも鉄の飛礫を放とうとした“守護者(ガーディアン)”は、横合いからの衝撃で照準をずらしたのだ。イドラがその巨体を利用しての体当たり。鋼鉄のボディだけあって、イドラのほうが痛そうだったが、それも言っていられない。なりふりかまわない一撃に、アトの命は救われた。


 豪快な破砕音と、空気がめちゃくちゃに荒らされる衝撃。アトは体勢を崩した。

 その音の連なりに、アトは時間が戻ってきたことに気が付いた。


 どっと冷や汗が出る。


「回避に専念するんだ! できるだけ射線に入らないようにするしかない!」


 シアンのアドバイスはもっともだ、正面から立ち向かうには危なすぎる。

 しかし、このままではらちが明かない。もう一体の“守護者”が近付いてくる気配を感じる気もする。


 “守護者”の動きはさらに速度を増していた。アトが回避に専念すると、矢面に立つのはイドラしかいなくなる。剣が折れた今アトの脅威度がさがったのも原因の一つだろう。

 どうやら“守護者”は始めにイドラを倒すつもりなのだ。

 鋼鉄の脚による攻撃と、短い間隔での射撃攻撃。イドラも影を掴ませぬように動こうとしているが、洞窟という広いとはいいがたい空間がそれを阻害する。

 繋がっているアトには、イドラの焦りが伝わってきていた。このままでは、まずい。


 イドラが低く唸った。まずい手を打った。横薙ぎの脚攻撃をジャンプして回避。追撃の突き攻撃も体を捻って避ける。だが、“守護者”は着地時にガトリング砲を合わせてきた。避けれらない。


 勝つためには、こじ開けなければならない。


 アトは“守護者”を睨みつける。眼力で倒そうとするくらいに、力を込める。

 できる。できるはずだ。

 <ギノスッス牧場>のことを思い出せ。


 ――――シアンの腕を折ったのは、誰だ?


「ああああああああああッ!」


 ぶちぶちとちぎれるおとがする。

 血管や、筋繊維ではない。

 心の中の、何か切れてはいけない部分が。

 

 古来より、大事なものを捧げることにより多大な力を得るという伝承は事欠かない。

 そんなことを、思い出した。


 “守護者”の砲身が唸りを上げ、大量の弾丸をばら撒く。そのいずれもが体勢を崩したイドラを直撃するはずだった。その身にかじりつくはずの弾丸は、全て空中で静止していた。まるで雲霞の如き光景。


 イドラが訝し気に唸る。シアンが絶句していた。“守護者”ですら、不可解な事象に疑問を覚えたのだろうか、動きを止めていた。


「アト……?」


 シアンが呼びかけてきた。こんなことが出来るのは、アトの<物体操作(キネシス)>くらいなものだろう。だが、これほどまでの強さがあったのか不思議に思っているのだ。

 シアンの肌に、鳥肌が立っているのが見えた。それが少し可笑しい。


 アトが操作を打ち切ると、全ての鉄の飛礫がざらざらと下へ落ちていく。

 “守護者”は観察のためか、ひとまず距離を取ろうとする動きを見せた。逃げられては困る。


「まずは……脚」


 アトの<物体操作(キネシス)>が“守護者”の脚を捉える。そのままへし折り、ねじ切った。バランスを崩して、球体ボディを地面に打ち付ける。

 アトはぐっと全身に力を込める。暴れようとしたので脚をあと二本ちぎり取り、外側の装甲をベキベキと引き剥がす。ゴーレムの素材としてこれくらいでいいだろうか。

 もう少し必要と思えたので、さらに力を込めた。使い方が分かってきて、アトは楽しくなってきた。


「シアン。これくらいで足りる?」


「……もうゴーレムを創る必要はないだろうさ。そいつはもう動けない」


「え……?」


 “守護者”は変わり果てていた。もはや動く鋼鉄の芋虫といったところだろう。心臓の鼓動を思わせる赤い光点が明滅し、やがて消えていく。じっと見ているうちに、ざあっと塵に還っていく。このあたりはモンスターと変わりないらしい。


 ガシャガシャと重い足音が聞こえた。どうやらもう一体の“守護者”がようやく到着しようとしているのだ。

 アトは自分の口が笑みの形になっていることに気が付いていなかった。



 もはやシアンもイドラも出る幕はない。

 もう一体の“守護者”が<物体操作(キネシス)>によってバラバラにされるまで、さほど時間は掛からなかった。

 シアンは“守護者”が塵に還る前に、その素材でゴーレムを創り上げる。そのまま冒険者ライセンスに収納していく。従魔にしたらしい。


 “守護者”を倒したと認められたのだろう。アトとシアンのすぐそばに、出口となる門が急に出現する。接触できないようになっていただけで、はじめから近くにあったのかもしれないが。ともあれ、これで外に出られる。

 残りのボス二体も倒さねばならないのかとちょっと嬉しくなっていたが、そこまでしなくともいいらしい。


「アト……」


 シアンがじっとアトを見つめていた。普段より真剣な顔をしているが、その理由は分からない。


「いや、いい。ボクが何か言えることではないね」


 シアンが苦笑した。それに含まれるのは憐れみでも、憎しみでもない。ちらりと香ったのは「寂しさ」だろうか。

 ふっと見直した瞬間には、もうその色は消えていた。いつものシアンの表情だ。


「さて、アト。これからどこに向かうべきかは分かるかい? ここまでやったんだ、何か成果があるのだろう?」


「うん。私が視た限りだと、おそらくアディリンなら図書館を狙うと思う。もしくは、博物館」


「……高位冒険者が居る場所ではなく?」


 モンスターを再現できるなら、強い冒険者に会いに行く。出来る限り優位に会うために分散させる。そのための布石だと考えたらしい。だが、そうではない。すべてが陽動だ。


「ううん。高位冒険者なんて使い物にならない。アディリンは、古代遺物の記憶から“神話級モンスター”を再現するつもりだから」


「なッ……!?」


 シアンが声を失った。その目がぐるぐる動いているところを見ると実現の可能性を考えているのだろう。

 可能だろう。アトの中のアディリンの記憶もそう告げている。

 ここに来たのはよかったが、時間を稼がれて、一歩遅れている。今から追いかけても止めるのが間に合うかどうか。


「それで、シアンにお願いがある」


 アトは切り出した。

 打てる手は、打っておきたい。

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