68話「あ ろっと おぶ れっぐわーく」
アトとシアンは大通りを歩いていた。中央都市では賑やかな通りのはずなのだが、今日はなんだか閑散としているように感じる。
この襲撃事件が尾を引いているのだ。なんとか出ていた屋台で串焼きを買うと、一人一本つまみながら歩く。大きなお肉のわりには値段も安かったが、これはどちらかといえば在庫を早く片してしまって街から出たいということなのだ。
肉を食べ終わると、串はぬぐってポーチに入れておく。何かに使えるかもしれない。
見ればシアンも食べ終わったところらしく、串を手持無沙汰にいじっていた。その顔は悩まし気である。
「調査……と言っても、どこを調べればいいのだろうね。アトには何か考えがあるかい?」
「ひとまず、襲撃された地点を回ってみようかと思う」
「現場は荒れてると思うのだが、どうかな?」
「うん。でも何かが“視える”はず」
「なるほどね」
シアンがぺきっと串をへし折った。
アトとシアンはひとまず襲撃された箇所を回ってみることにした。アトが【接合点】を探れば、手がかりは見つかるはずだ。あとはシアンの頭脳を借りて犯人の姿や目的を推理する。街を守る立場であるエンキなら、さらに情報を持っているかもしれない。そこに当たるのもいいだろう。
まずは<過去視>だ。運がよければ犯人の姿そのものを視ることができるだろう。
アトは気合いを入れた。覚悟をしたと言ってもいい。おそらく襲われている瞬間を多く見るだろう。気持ちだけでも太くなっておかなければならない。
「それで、いったいどこを襲撃されているんだい?」
「ええとね」
アトはアキティナからもらった巻物を拡げた。今現在冒険者ギルドへと集められた情報を書きつけてあるらしい。襲撃箇所も書かれていた。
始めは魔術師ギルドが襲撃されたらしい。学院の敷地内で数人の犠牲者が出ている。その後、ギルド本館に襲撃。魔術師が多くいたためにこちらは撃退された。
ただ、それと同時刻に冒険者ギルドが襲われた。こちらは冒険者を送り出していたこともあり、かなりの被害が出た。
「あとは、治療院も襲われてる……」
その情報に、アトは絶句した。
二か所の襲撃で負傷した人達は、回復のために治療院に運ばれたはずだ。そこをモンスターは襲撃したのだ。この出現パターンには、明確な悪意を感じる。なんというか、計画的なのだ。
モンスターとはもっと狂気と暴力の産物だ。“犬”や“大なめくじ”という知能の低いモンスターであれば、自分が死ぬか相手が死ぬかするまで退いたりはしないものだ。
群れの長というか、指揮官の存在を感じる。その点はシアンも同意していた。
「うわ……」
治療院に到着したアトは思わず声を出した。
建物が崩れているわけではないが、戦闘の傷痕がそこかしこに残っている。
冒険者ギルドからの調査員と言って治療院の職員に少し話を聞くと、治療のためのプールも破損してしまったらしい。今はなんとか修復しているが、モンスターに踏み込まれてめちゃくちゃになったようだ。
シアンが聞いている間に、アトは周辺を見回る。“雫”の残滓が多い。思った以上に【接合点】が多い。ひとつひとつに触れて、アトは何が起きたかを確かめていく。
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ゆったりと休む人々、落ち着いた時間が流れていく。
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飛び出したお客が、別のお客とぶつかる。一人がこけたことで、阿鼻叫喚となった。
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「知ってるか? 魔術師ギルドが襲撃されたそう――」
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「そこをどいて! 急患だよ!! 即癒槽は空いてる!? 空いてない!? そこのやつはもう内臓出ないでしょ! こっちと交換して!」
「まったく。なんてこと。地獄よ、これ」
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様々な情報が、アトの中に集まっていた。
静かな暗い空間の中、アトの前にはこれまで視たものが浮かんでいる。それらをアトはぼんやりと見つめている。
これは現実ではない。アトの脳内の風景なのだろう。
分かっていながら、アトは何をするでもなく立っていた。目の前の鏡のような風景たちは、目まぐるしく変わっていく。短い過去はループして再生。再生速度も早かったり遅かったりとまちまち。
こうやって目の前に揃っても、いまいち見えてこない。
だが、この事態を引き起こしている者の雰囲気くらいは嗅げるようになるものだ。
”誘われている。”
これみよがしな襲い方。「見てるでしょ?」という表情が透けて見える気がするのだ。
それは、アトのことを指しているのだろうか。
どんっ、と衝撃があった。
ハッ、とアトは我に返る。いつのまにかあの暗い空間は消えていた。
「アト、大丈夫かい?」
見れば心配そうな表情でシアンがこちらを覗いていた。ぼうっとしていたらしい。
「ひとまず必要なことは聞けたよ。襲撃の主犯らしき人物は姿を見せなかったそうだ」
「うん。私も“視”なかった。ここに来たのはモンスターだけみたい」
「じゃあ、次は魔術師ギルドに行ってみようか」
「うん」
治療院を離れ、二人は魔術師ギルドへと向かう。陽はかたむき、街は朱色に染まり始めていた。




