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67話「りくえすと ふぉあ いんべすてぃげいしょん」

 アンセスは見つかった。冒険者ギルドの二階。いつものカウンターでお姉さんに問いかけると、資料室なるところへ行っているらしい。呼び出してもらうと、頭や腕に包帯を巻いた痛々しい姿でやってきた。

 アトとシアンの顔を見ると、細い目がふにゃっとほころんだ。


「お二人とも、ご無事でしたか!」


「あ、うん。街の外に出てたから。それより、何があったの。アンセスも怪我しているみたいだけど、大丈夫なの?」


 アトの問いに、アンセスは小さく頷いた。その顔色は悪い。何か嫌な事を思い出したらしい。


「この冒険者ギルドがモンスターに襲われたのです。多くは“犬”や“大なめくじ”の組み合わせでした。生息している迷宮(ダンジョン)も違えば、種族的に協力するはずもないモンスターなんですが……」


 アンセスは冒険者ギルドが襲われた時の様子を、とつとつと語り出した。魔術師ギルドから寄せられたモンスター襲撃の一報。冒険者の多くを送り出した直後の襲撃。残った冒険者の数も質も低く、かなりめちゃくちゃな状態になったらしい。

 シアンがそれを聞いて不愉快そうに息を吐く。


「陽動だろうね。何がしたいのか分からないが、どうやら犯人は冒険者ギルドを狙ったらしいけれど、何が目的なのだろうね」


「冒険者ギルドの被害はどう。そこから何を狙ったかわかるかも」


 アンセスは腕を組んで考え込んだ。眉間に皺がよる。


「多くは職員や冒険者が襲われたようです。戦闘による物的被害は多いですが、こちらはどちらかというと二次災害ですね。あとは、魔術道具保管庫や資料室も襲われました。何かを持ち出すといったわけではなかったのですが……」


「資料室って、さっきアンセスが行ってたところ?」


「そうです。少しでもお二人の力になりたくてモンスターや迷宮(ダンジョン)について調べに行ったんです。その途中に襲われて、コレですよ」


 そう言って頭や腕の包帯を指し示す。にじんでいる血の染みを見れば、噛み痕だとわかる。あの“犬”に襲われたのだ。こちらを安心させようとしているのか、笑顔で言っているが、実際はものすごく怖かったに違いない。戦う力がないアンセスからすると生きているのが不思議なくらいだ。


 アトはぐっと唇をかみしめた。誰だが知らないが、やってくれる。

 大丈夫、とアンセスは力こぶをつくろうとするが、その拍子に傷がいたんだのか顔をしかめる。


「アンセス、治療院へは?」


「僕なんてまだ軽傷な方ですからね。魔術師ギルドの方でも多くの怪我人が出たらしく、治療院は混雑しているようです。入れてすらもらえないくらいで」


 そこでアンセスは言葉を切った。アト達に近付いて来る人影があったからだ。ギルド受付員の制服を綺麗に着こなし、ゆったりと歩いてくる姿。ゆるくウェイブした髪、果実酒を思わせる芳醇な美しさがそこにあった。

 それ以上に目を引くのは、制服につけられた星だ。複雑な図形をした星を筆頭に、多くの星を着けている。いったい何人の専属冒険者を持っているのか。


 アンセスは驚いた様子で彼女を見ていた。細い目がわずかばかりに開いているのが彼の驚きを表している。

 女性はにっこりと笑って会釈すると、アンセスのすぐ隣の席に着いた。


「こんにちわ、お二人さん。私はアキティナ。このギルドの受付員ですわ」


 聞きやすい落ち着いた声。その一挙手に思わず目が留まる。そのせいか、少し遅れてアトも挨拶をした。

 どうやらこのアキティナも専属冒険者がだいぶ巻き込まれたらしい。気落ちした表情を見せた。


「この事件の問題は、犯人が分からないことなのです。犯人というより、犯人の狙い、ですわね。魔術師ギルド、冒険者ギルドといった重要拠点が襲われたのに対し、どこからも要求や声明は出ていません」


 街の有力施設にダメージを与えたのだ。次は「言うことを聞かなかったら分かってるだろうな、またやるぞ」といった脅迫が送られてくるものなのだ。それも、無い。


「あれだけのモンスターを従える方法もわかりません。まさに方法も、目的も不明。脅威だけが残る形となりますわね」


「また同じことが、すぐ起こると?」


「それも分かりませんわ。調べたくとも、調査のための冒険者の数も不足していて……。そういえば、お二人は冒険者ライセンスの昇級をされたのでしたよね?」


 アトはそのことをすっかり忘れていた。いろいろあったのだ。<ギノスッス牧場>でも、戻ってからも。何となくみんなの視線がアンセスに集まった。


「僕もうっかりしていました。こちらが新しい冒険者ライセンスになります」


 アンセスはカウンターの裏から、小さな涙滴形の宝石のようなものを取り出した。アトとシアンに冒険者ライセンスを出すように言うと、そこに宝石をそっと置く。


「おお~」


 宝石は一瞬で溶けた。そのままじわっと冒険者ライセンスに染み込んでいく。冒険者ライセンスの色が濃くなったような気がした。そのまま黄色みが抜け、青色になっていく。

 アンセスが誇らしげに頷いた。


「この青色の冒険者ライセンスが新しいものとなります。これでより上位の依頼の受注が可能になり、従魔をさらに二体追加で得ることができるようになりました」


「おめでとうございます。この短期間での昇級とは、驚きましたわ」


 アキティナが笑顔で拍手をして祝福してくれる。アトは少し照れた。褒められ慣れていないのだ。

 シアンはさっそく受け取った冒険者ライセンスをいろいろ試している。新機能がないかチェックしているようだ。


「さて」


 アンセスの隣に座るアキティナさんの雰囲気が変わった。いままでは世間話モードだったのに、今はまるで鋭い刃のようだ。真剣な雰囲気が伝わってくる。


「昇級されたお二人に、ぜひお願いしたい【依頼】があるのです」


 アキティナはそこで言葉を切った。目線でアトとシアンにその気があるのか確かめている。


「この事件の調査をお願いしたいのです」


「アキティナさん!?」


 その言葉に難色を示したのはアンセスだ。慌ててアキティナの言葉を遮る。


「その【依頼】を受けるということは、あのモンスター達の大群を相手にする可能性があるということです! 現状不明な点が多すぎて、依頼の難度も設定できないものを【依頼】にすべきじゃないですよ!」


「ええ。だからお二人だけでなく、他の冒険者の方にもお願いするつもりです。ですが、モンスターの襲撃によって現在手が足りない状態。危なくない範囲で構いません。何でもいいので情報が欲しいのです。そうしないと、二度目は防ぎきれない」


 アキティナは頭を深く下げた。カウンターにつきそうなほど。

 彼女の髪が重力にしたがって垂れ下がる。


「お願いします、同じ被害を繰り返したくないのです……!」


 アキティナの言葉には、重みがあった。


 アトとしては【依頼】を受けたい。だが、依頼を厳選し、提供してくれるのは専属受付員なのだ。勝手に受けるわけにはいかないだろう。

 アトとシアンはアンセスを見た。あとは彼の判断だ。


 アンセスはしばらく苦悩の表情のままで固まっていた。その間、アキティナはずっと頭を下げている。


 やがて、根負けしたのはアンセスだった。


「わかりました。頭を上げてください、アキティナさん……。僕からもお二人にお願いします。街へのこれ以上の被害を防ぐために、調査を」


 それを聞いてアキティナが頭をようやく上げた。ほっとした表情をしている。


「それでは、調査に必要な根回しはこちらのほうで。何かわかりましたら、冒険者ギルドへと持ち帰ってくださいね」

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