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66話「でぃざすたー あくしでんと」

 疲労の回復に小さなに村で一泊。そのあとは農家の馬車に乗り合わせてもらったり、徒歩で移動したりを繰り返して、中央都市(セントレア)に到着したのは<ギノスッス牧場>をクリアしてから三日後だった。

 それなりの怪我を負っていたが、回復ポーションを利用したアーネスの回復魔術によって完全に回復している。アーネスのポーションが減ってしまったが、エンキが埋め合わせをしてくれるらしい。その点は感謝していた。


「ん……?」


 何かに気付いたのはエンキだった。

 遠くに見える中央都市(セントレア)の門をよく見ようと細目になる。アトには普段通りの様子にしか見えなかったが、何か異変があるのだろうか。


「オマエらも門が見えるか?」


「ん? うん。それがどうしたの?」


「気が付かないか? 門を通って外へ行く人が多すぎる」


 アト達は進んでいるので、先ほどより門の様子が見えていた。確かに人通りは多い。だが、それはいつものことではないのだろうか。


「いつもこんなくらいじゃないかな?」


「違う」


 エンキは強く否定した。その瞳は真剣だ。


「門から出ているのは、ほとんどが市民だ。商人なら分かる。外へと商売に行くからだ。だが、普段は街の中にいる市民が外に出るのはどういうわけだ?」


 嫌な予感がした。

 みんなが顔を見合わせた。誰も声をかけなかったが、歩くスピードが増した。




 辿り着いた中央都市(セントレア)の門は機能していなかった。普段であれば、門番による行き先のチェックなどがあるものだが、今やそれは無くなっている。門番はいるのだが、疲れた様子で壁際に座り込んでいた。まだ立ち働いている指揮官らしき人物を見つけたエンキがそちらへ事情を聴きに行った。



 ここまで来れば分かる。

 おかしい。


 門を通る人達は、まさにその辺の家財道具をひっつかんだといった姿をしていた。大き目の袋を担いだ者。手押し車に山と生活道具を積んでいる者。いずれも、街を逃げ出すといった様子だ。


「何が……」


 呟くが、答える者はいない。

 街を出る人は一様に何かを怖れている表情をしていた。中央都市(セントレア)で何かがあったのだ。


 唐突にアトは肩を叩かれた。シアンだ。

 シアンも難しい顔をしていた。賢い彼女でも何があったか突き止めるには情報が足りない。


「アト、ひとまず冒険者ギルドに行ってみるとしよう。この事態に関した緊急依頼があれば情報を掴めるだろうね。何かの脅威なら討伐依頼が出ているだろうし」


「うん。アーネスはどうする?」


「僕はひとまず魔術師ギルドに戻るよ。もしこの原因が病気に関することの可能性もあるから、ポーションをあそこで補充してからになるけど。現在の進捗についてもマルヴァ学長とお話ししないといけないだろうし」


 アーネスはそういうと、一足先に雑踏へと身を投じた。すぐにその姿が見えなくなる。

 

「じゃあ、とりあえず冒険者ギルドに向かおうか」


 指揮官と話しているエンキに手を大きくふると、エンキも振り返してきた。

 どうやら向こうはまだ時間が掛かるらしい。たぶんマルヴァのところでまた会う気がする。冒険者ギルドでも会うことができるだろう。ひとまず別れることにして、アトとシアンは冒険者ギルドへと向かった。


 中央都市(セントレア)はいつもと変わらないように見える。

 だけど、何だかピリピリしている空気が漂っていた。道行く人達もなんだか急ぎ足だ。


 ようやく冒険者ギルドに辿り着いた時、アトとシアンは思わず口をぽかんとあけた。


 冒険者ギルドはボロボロの状態になっていた。

 窓ガラスはかなりの部分が割れている。無事なところを探すほうが難しいくらいだ。割れたガラスはそのあたりに散乱している。窓枠から完全に破壊されているところを見ると、魔術で破壊されたのだろうか。


 一番目を引くのは正面入り口だ。扉が無い。それどころか扉がついていたであろう部分はえぐれて壊れていた。

 風が吹き、アトの鼻に焦げ臭い匂いが漂ってきた。すでに薄れていることから、どこかが燃えていたのだろう。


 アトはギルドの館内に足を踏み入れた。中も惨憺たるものだ。テーブル類は端へ片付けられているが、床には様々なものが散乱している。荒らされた跡、いや、暴れた跡か。

 忙しそうに片付けをしている人や、佇む冒険者達も、どこか怪我をしているのか包帯などで手当てをされた姿だった。


 ごくり、とアトはつばを飲み込んだ。

 尋常ではない。アトの視界には、大量の【接合点(ノッツ)】が見えていた。


「アト、君には何か分かるかい?」


「見てみる」


 アトは表面に引っかき傷のあるテーブルに歩いて行くと、そっとその【接合点】に触れた。


 ――――


 “犬”が。


 まるで戦争だ。そこかしこで小競り合いが起きている。このフロアにいる冒険者と大きな“犬”がやりあっている。しかし、そのほとんどは腕なり足なりにすでに噛み付かれている。

 冒険者ギルドの二階。そこからどんどんと“犬”は降りてきていた。


「くそッ!? どっからモンスターが!? 机を倒せ! 盾にしろ! 正面からやりあうな、数が多いぞ!」


 冒険者の一人がそう叫ぶと、私を横倒しにした。天板部分を横に向け、裏側に彼が隠れるのが分かる。

 すぐ手前までやってきていた“犬”が、天板を爪でひっかく。


 ガラスが割れる音。私の目の前の冒険者が顔を向けると、窓枠を乗り越えて“大なめくじ”が侵入してくるところだった。


「くそがッ!!」


 べちゃり。彼の近くに“大なめくじ”が。


 ――――


「い――――ッ!!」


 口から出そうになる悲鳴を押し殺し、アトはテーブルから手を離した。

 死んだ。“大なめくじ”に圧し掛かられたところを、“犬”が喰いついた。


 ざっと周囲を見渡す。そこかしこにある【接合点】。全てそうなのだろうか。

 覚悟を決めていくつかの【接合点】を確かめた。得られた情報はだいたい同じものだったが。


「シアン……とりあえず何が起きたかは分かった」


 視えたものを伝えると、シアンは顔色を悪くした。

 原因は分からないが、モンスターが押し寄せて冒険者ギルドを襲撃したのだ。

 従魔の暴走? 何かの魔術道具? 上級モンスターの襲撃?

 分からない。アトは混乱しそうになる頭を必死に働かせていると、思いついたようにシアンがぼそりと呟いた。


「それほどの事態だ、受付員くんは無事だろうか?」


「……探そう」


 アトとシアンは、アンセスの姿をもとめて冒険者ギルド内を探しはじめた。

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