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49話「うぃる お うぃすぷ」

 まさにそこは洞窟だった。

 ごつごつした岩肌。どこからか響く水滴が落ちる音。すこし湿った空気を感じる。天井はそれなりに高い。見える天井からは棘のような石が生えていた。


 アトは周囲を見渡した。思っていたよりは暗くない。それというのもこの洞窟中に小さな光の球が浮いているからだ。悪く言えば舞う埃のように。美しく言うなら蛍のように光が舞う。


 シアンが前を歩くアーネスをちょいちょいと突いた。歩きながらアーネスが半分だけ顔を向けてくる。


「アーネスくん。ここにはどんなモンスターが出るか知ってたりするかい?」


「毎回出て来るモンスターが違うんだ。植物モンスターだったこともあるし、猪のような動物モンスターの時もあった。決まってない感じかなあ。あんまり出ないこともあったし」


「ふむ……? おかしいね。普通の迷宮(ダンジョン)なら出現するモンスターは決まってくるはずなんだけれどね?」


 シアンが考えこむ姿勢を見せたので、アトはあわててその背中を押した。こんなところで止まってもらっては困る。


 そうこうするうちに目的の場所に着いたらしい。それなりに広い部屋の中に、湖が広がっているのが見えた。前方は視界も広いためモンスターが来たら見えるということだろう。ここに拠点を設営するらしく、導師たちは手早く小さい天幕や椅子を準備していく。ミレアテヌス導師はすぐに座っていた。

 あんな道具どこに入っていたんだろう。最初見た時にはそれほどいっぱい持っているように見えなかったのに。


「よし、それじゃあ始めるぞ~。キャンプから目が届かない位置に行くな。モンスターが出て対処できないときはすぐ報告しろよ」


 ヨサ叔父さんがやる気のない声を出した。それをきっかけに、生徒たちがざっと散らばっていった。それぞれが杖や両手を突き出して身構えている。

 あれ、何やってるんだろう。

 アトが尋ねる前に答えがすぐに見えた。


 生徒の達の前にひとかかえもあるくらいの白い光の玉がふよふよと出現する。不規則な動きをしているが、移動速度は遅い。生徒たちはこぞって光りの玉に魔術を放ち出した。

 まるで的当てだ。


「あの光の玉が世界の雫(ワールドエッセンス)の塊なんだよ。他の迷宮(ダンジョン)と違って、肉眼で見えるほどに濃いんだ。あれを魔術で破壊することで、自分の身に吸収する。それが<魔術>のランクアップにつながるらしい」


 疑問が顔に出ていたらしい。アトの表情を見たアーネスが丁寧に説明してくれた。これも最近授業で習ったらしい。

 まあ、血眼になっておいかける生徒たちはちょっと怖いけれど、そっちに集中しているなら好都合だ。

 アトはシアンに目くばせをする。


 導師たちの視線は光の玉を破壊する生徒たちに注がれている。全員の意識がこちらから逸れていることを確認しながら、そっとアトとシアンは抜け出した。もと来た通路を引き返し、途中で違う道へと折れ曲がる。ここまでこっそりマッピングしてある。また戻ってくることもできるだろう。


「ふう。みんなが同じ格好っていうのも、不思議なものだね」


 見ればシアンが自分が着ているローブを撫でていた。視界が悪くなるからかフードは外している。アトもフードを外す。ついでにローブの前をはだけ、動きやすくしておく。こっそりと隠し持っていた直剣を腰に提げた。ようやく安心する。モンスターが出るかもしれないのだ。これくらいの準備は必要だろう。


「それで、君たちはどうするつもりだい?」


「わっ、アーネス、着いてきてたんだ」


 アトはびっくりした。アーネスがついて来るとは思ってなかった。迷宮(ダンジョン)内に入る案内までは頼んだけれど、それ以降は彼も生徒たちと一緒に行動すると思い込んでいたからだ。


「ここまで手伝ったんだ。気になるじゃないか」


「モンスターもいるし、危ないかもしれないよ?」


「だったらなおさらだろ、き、君たち女の子だけを行かせるわけに行かないじゃないか!」


 照れながら言うアーネス。アトは苦笑を返した。


「できれば生徒たちに紛れて出たいからね。目標を確認しよう、アト。とりあえず迷宮(ダンジョン)内のゴミを拾って回ろう。こういうのは既成事実を作ってしまえばいいのだよ」


 シアンは持っていた袋から、ゴミを入れる用の麻袋と長いトングを取り出してアトに渡す。

 それをアトは微妙な顔で受け取った。何故かアーネスも受け取っている。剣と盾ならぬ、トングとゴミ袋の部隊が完成だ。


「思うんだけどね。こんな無理矢理なやりかたで、依頼のクリアになるのかな?」


 アトは疑問に思ったことをシアンにぶつけた。ここまできた今更だが。


「なると思うさ」


 シアンから返事が簡単に返ってきた。当然、といった顔をしている。


「この冒険者ライセンスというものはとてもよくできている。ものすごく高性能だ。それはわかるね?」


 分かる。従魔の機能もそうだし、アトのレベルや技能(スキル)まで表示されるのだ。こうやって仲間といっしょにパーティを組むことも出来る。とても高性能だ。


「昇級のためのクエストは多数ある。そのクエストすべてに監査官が付いているのか? もっと危険な場所に赴く上級の規定クエストにも? いつ行くかもわからないものをずっと監視してるわけでもない。おそらく、冒険者ライセンス自体に規定クエストをこなしたかの判定機能があると思うんだよ」


 シアンは目の前で冒険者ライセンスを振って見せる。


「今やっていることでクリアに可能性は十分にあると思うね、ボクは」


 シアンは自信たっぷりに胸を張った。そのおおきなお餅が強調される。アーネスが顔を赤くしてそっぽを向くのが見えた。

 アトも冒険者ライセンスを取り出して眺めてみる。

 そうなのかな、と思わなくでもないが、シアンが言うのだ、信じてみよう。


「うん。じゃあとりあえず清掃を開始しよう!」


 アトは天高くトングを突き上げた。

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