48話「びー ろすと いん ざ くらうど」
<マルヴァ学院>の前庭に生徒たちが集められていた。
知り合い同士が集まっていくつか小さなグループになっているのが見える。誰もがお揃いの制服ローブを着て、わくわくした顔で並んでいた。
腕に付けられたリボンが同じ色をしていることから、同じ階級の学生が集まっているのだ。
彼らは<アディリン魔術洞>へと挑む学生の集団なのだ。
おそろいのローブの下には、それなりに装備を整えている者が多い。短剣の鞘が見える者もちらほらと見える。流行りのデザインなのか、似た小さめのポーチを揃って付けている人が多い。あれくらいのポーチだとあまり入らないと思うのだけれど。ベルトをホルスター状に改造し、様々な薬品小瓶をつけている生徒もいた。
「見ろよ! これ最新の雫石で出来た杖だぜ」
「いいなあ、それ魔術威力の増幅するタイプのやつだろ。いいデザインしてるじゃん」
「よっし! 今回で<魔術:炎>をランクアップさせたいんだよな。ⅡとⅢじゃ全然ちがうっていうだろ?」
「あんたの炎じゃかまどの火くらいにしかならないわよ。それより私の<魔術:水>の餌食にしてやるわ!」
たいそう威勢のいいことである。
そんな集団の片隅で、こそこそとしている五人組のグループがあった。そのうちの男子生徒は非常に顔色が悪い。みかねた生徒の一人が声をかけにいった。
「おい、アーネス! 大丈夫か? なんだか顔色が悪いようだけどよ……」
「えっ!? お、おう! 僕は大丈夫! 大丈夫だよ。ちょっと緊張してるだけだよ!」
赤毛と金髪の男子生徒が、奥に居る女生徒が隠れるように動いたのに気付いただろうか。女生徒はぐっとフードを深くかぶり直す。
「そぉかぁ? ま、無理をするなよ?」
引率役の魔術師の姿が見えたことによって、彼は自分のグループへと去っていく。アーネスが重たい息を吐くのが聞こえた。
集合を告げる声が聞こえる。生徒たちは引率役の前にとぞろぞろ集まっていった。
アトとシアンは生徒たちの集団に紛れていた。それなりに歳が近いアトとシアンは、制服ローブさえ着てしまえば学院の生徒としてまざってしまえるということだ。事実、今のところ誰にも指摘されていない。ローブで顔を隠していることもあるが、アーネスの他に噂に詳しい赤毛と無口で大柄な金髪の手助けも大きいだろう。楽しそうということで手伝いをしてくれている。
「よぉし! それでは<アディリン魔術洞>での魔術実践授業を行う! 次回の授業については未定となっているため、今回の授業は特に気合いを入れていけ!」
「「はいッ!!」」
「いい返事だ。今回の引率はミレアテヌス導師、ヨサ導師、そしてこの私、スタインが務める。生徒諸君気を抜くではないぞ!!」
生徒たちの前に立つのは三人の魔導士だ。
妙齢の女性であるミレアテヌス導師。料理教室のおばちゃんといった風貌をしている。体型もすこしぽっちゃりしているというか、どうも戦闘向きの魔術師のようには見えない。持っている大きな杖も持て余しているように見える。
スタイン導師はモヒカン頭に口髭を生やした男性魔術師だ。杖を持つ姿も堂々としていて、頼りになりそうに見える。導師の中のリーダー的な位置にあるらしい。私語をする生徒たちに鋭い視線を向けて静かにさせるあたりからも、ベテランの導師なのだろう。
そして、ヨサ叔父さんだ。いつものローブ。腰に帯びるのは剣ではなく短杖が二本だ。予備の杖だろうか?
いきなりヨサ叔父さんの視線が何かを探すように走った。アト達のグループの方を向いているように思える。
ひえっ!?
気付かれたかとアトの肝が冷える。だが、何も言わないままヨサ叔父さんは視線を外す。どうやら気付かれずに済んだらしい。ほっと胸をなでおろす。
「それでは出発する! 遅れずに二列縦隊でついてこい!!」
スタイン導師の大声で、ぞろぞろと生徒たちが動き出す。アトとシアンもその列の中に入った。あとはこのまま行けば自動的に連れて行ってもらえることだろう。
学院内を歩くこと少し。建物と建物の間に立派な四阿が見えてきた。屋根や柱は白い石で出来ている。屋根には美しい女性を象った彫刻がなされていた。見事な彫刻に<アズースの石切り場>を思い出す。
段差を登った台座に、立派な石扉が立っていた。蔦と鳥が描かれた扉だ。普段の迷宮と違い、赤く輝く鎖で封印がされている。
生徒たちに緊張が拡がっていく。スタイン導師が何でもないことのように封印を解除した。砕けて消える鎖。誰も押していないのに、石扉は少しずつ開いていく。
やがて開き切って扉に導師が先に入る。そのあとを生徒がぞろぞろとついて入った。
アトとシアンもまた、周囲の生徒たちに紛れて<アディリン魔術洞>へと入ることができたのだった。




