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46話「いんべすてぃげいと」

 アーネスとしばらく睨み合う。いや、睨んでいるのはアーネスだけで、アトは動けないだけだ。

 しばらくそうやっていたが、やがてため息を吐いたのはアーネスの方だった。


「まあ、冒険者どうしの繋がりもあるだろうしな……。いずれはバレると思ってたんだよなぁ……」


 アトが何も言わないうちに、どうやらアーネスは自分でありえそうな答えに飛びついてしまったらしい。どこからはともかく、すでにバレてしまっているのだ。これ以上じたばたしてもしょうがない。そんな雰囲気が伝わる吹っ切れた表情になっていた。


「ええと、私、冒険者だけど、いいの?」


 アトはおずおずと申し出た。なんだか申し訳ない。

 アーネスは目を細めた。目はアトに向いているが、アトを見ていない。何かを考えているようだった。


「どうやって知ったかは気になるけど、それより君にこれからも依頼(クエスト)を受けてもらった方がメリットがあるからね」


「分かった。これからも手伝うから」


 アーネスはうんうんと頷いた。どうやら持ち直したらしい。

 気を付けないと。アトは心の中で思う。できるだけ人は視ない。不用意なことは言わない。よし。


「そもそも、冒険者のことを下に見ること自体がおかしいんだよ。この学院から出たら冒険者と組んで迷宮(ダンジョン)に行くことだってあるだろうにさ」


「魔術師って昔からそんな感じなの? ヨサ叔父さんはそんな感じじゃなかったけど」


「そうだね。確かに最近の魔術師に多い気がする。一度全体的にそんな雰囲気ができてしまったら、どうも逆らえなくてね……」


 アーネスはそう言うと肩をすくめた。その視線がアトの手に握られている木札へと移った。


「話を戻そう。君が導師様の親類だというのはわかったけど、どうして許可証をもらえることになるのか僕にはわからない」


「それは……」


 アトはこれまでの経緯を説明した。冒険者ライセンスの昇級、そして<アディリン魔術洞>への侵入禁止についてのヨサ叔父さんの課題だ。

 それを聞いて、アーネスの表情に疑問符が浮かぶ。


「<アディリン魔術洞(ケイヴ)>か……。僕が知ってるのは、学生たちによる遠征があるってことくらいだけれど……」


「アーネスは行った事ないの?」


「授業の一環として定められているから、これまで何回か行ったことがある。だけど他の迷宮(ダンジョン)と比べて、特段変わったところは無かったと思うけどなあ」


 思い出すように天井を見るアーネス。現状手がかりはない状態だ。

 とりあえずアーネスにも調べるのを頼むことにした。ヨサ叔父さんの課題なのだから、何か得る物があるはずと無理のない範囲で手伝ってくれることになった。この<魔術師ギルドの学び舎>のことをよく知っている人が助力してくれるのはとても大きい。


「そういえば、さっきココのことを<マルヴァ学院>って言ってたよね。<魔術師ギルドの学び舎>じゃないの?」


「ああ、何だか長いしあまり恰好よくないから、僕たちの間では魔術師ギルド長の名前を取って<マルヴァ学院>って呼んでる」


 マルヴァと聞いて思い浮かぶのは、初心者冒険者の時にお世話になった、あの迷宮(ダンジョン)だ。


「マルヴァ様はすごいんだ。ギルド長になってからは魔術を保護するための人材を集めて学院を造ったり、様々な新しい魔術の活用法を見つけて論文を書いたりしているんだ! マルヴァお孫さんが冒険者ギルドの受付で働いているのは有名な話だね。それに、人工迷宮(ダンジョン)を造るという偉業を成し遂げた人でもあるんだよ」


「<マルヴァの館>……?」


「おっ! 知ってるんだね!!」


 まだまだ続くアーネスの話をアトは上の空で聞き流す。

 アトが気になったのは、“人工迷宮”という言葉だ。近頃これに近いことを聞いたことがある。

 あの青い月の砂漠。玉座のネフェル。

 モンスターを捕らえダンジョンボスにしてしまう黒い腕。”ナユの腕”。そしてそれに抗しうる“ウシュタの翼”。

 アトは自分の身体を抱く。あの黒い腕を思い出して心が冷えたからだ。


 だが、迷宮(ダンジョン)を造ることができるということは、“ナユの腕”を知っているということではないだろうか。それならば、“ウシュタの翼”についても。

 できれば質問してみたい。答えてくれるかはわからないが。


「―――ィナさんに会ってみたい気持ちもあって、僕も冒険者ギルドに赴いて一緒に仕事を受けてみたんだよ。一人じゃ危ないから、何人か冒険者とチームを組んでね。ドッシュとはその時知り合ったんだ。薬学は迷宮(ダンジョン)を攻略する際にあると便利だからね。いろいろ研究しているんだ」


 気が付けばアーネスの話は怒涛のようになっていた。あまりの情報量に溺れそうになる。

 自分が好きなことについては饒舌になるというタイプなのだろう。とても詳しい人なのだろうが、教えたりするのには向いていない気がする。

 アトの微妙な顔に気付いてアーネスの回転数が止まるまで、しばらく聞いていなくてはならなくなった。


 とにかくしばらくは<マルヴァ学院>に通うことにする。集合場所はこの図書館にすることを約束して、アトは宿に戻ることにした。


「あ……! シアンのこと忘れてた!」


 シアンのことを思い出したのは、その日の夜ご飯を食べた後のことだった。

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