45話「みーてぃんぐ あげいん」
「もぅう。シアンも見つからないし。一体どこに行っちゃったんだよぅ」
べそでもかきそうな勢いで歩き回るアト。
図書館は確かに広いが、シアンを見つけられないほどではないと思うのだが、見つからない。<魔術師ギルドの学び舎>の学生とすれ違うたびに小さくなってやりすごしているのが問題なのだろうか。
しばらく図書館内を探してみたのだが、やhり見つからない。疲れたアトは図書館の机に突っ伏した。
<アディリン魔術洞>に入れない理由を調べる。
一体何を考えてヨサ叔父さんはこんなことを課題にしたんだろう。
アトはちらりと本棚を見る。ぎっしりと詰まったそれらは、知識の宝庫だ。ここから調べて探せということなんだろうけれど。
それって、どれくらいかかる? 数日? 一か月? 半年? ヨサ叔父さんから清掃依頼が斡旋される方が早いかもしれない。
「これは焦らずやれってことかなぁああぁぁ」
アトはごつんと机におでこをあてた。ひんやりとして気持ちいい。火照った頭を冷やしてくれるようだ。
「ちょっと。ちょっと、いいかな?」
そんなアトに声がかかった。
まるで死体のように机に突っ伏す得体のしれない女の子に話しかけるのだ。その声は若干うろたえていたが、どうやら間違いなくアトに声をかけているらしい。
おそるおそる肩も叩いてくる。アトは動く死体のように顔を上げた。
「ひぃ!? ……って、あれ? 君は……」
「あれ? アーネス? こんなところで何してるの」
話しかけてきたのは知り合いだった。アーネス・フォルトナー。薬の薬効成分を抽出するのに命を懸けている不思議な青年だ。
アーネスは焦った様子でアトに声を潜めるように手振りで示す。きょろきょろとあたりを見渡すと、本棚で出来た死角にアトの引っ張っていく。
「なんで君がこんなところにいるんだよ!?」
「それはこっちのセリフ。アーネスって魔術師だったんだ」
確かにアーネスはいつもと恰好が違っていた。
いつもはぼさぼさの髪の毛、よれよれの染みつき白衣。細かい成分を見るためかいつも小さい筒のような拡大鏡を片目に当てている姿しか見せていなかったのだ。
それが、今やしっかり手入れされ、セットされた髪、丁寧にプレスされた制服ローブを羽織っている。チラリと見えるインナーもけっこう上等な服を着ていることをアトは見逃さなった。
「へぇえ……。なんか、カッコイイね」
思わずぽろりとそんな言葉が出た。
ビシッと決まっているっていうのはいいものだと思う。それは制服であれ、騎士の鎧であれ同じことなのだ。アトも自分の装備もそうありたいと思う。
その観点から言えば、アーネスは“キマって”いた。しっかり整えられた銀髪は光を反射するように美しい。顔もカッコイイと言えなくない程度には整っている。制服ローブも似合っているのだ。
「――――ぐっ!?」
アーネスが変な声を出したかと思うと、急に咳き込んだ。
「おわっ!? だ、だいじょうぶ?」
「だ、大丈夫だ! 気にするな! それで、どうしてこんなところにいるんだよ。いや、それもだし、どうして導師様からの許可証なんてもらえるんだ!?」
「導師って、ヨサ叔父さんのこと?」
「叔父さん!? じゃあ、アトも魔術師ってことなのか!?」
「ううん。私は違う。<魔術>の技能を持っていないから」
「そうなのか……。まあいい、それなら納得は……できないが納得をしておこう」
アーネスは混乱したような表情になったが、無理矢理自分を落ち着かせた。そのまま手に握っていた木札をアトに手渡す。細長くひらべったい木札は二つあった。それには不思議な模様とヨサ叔父さんの下手な筆跡で『おれがゆるす』と書かれている。これ、大丈夫なんだろうか。
そういう視線をアーネスに向けるが、伝わらなかったらしい。
「よし、ちゃんと渡したからな。それじゃ……!」
こそこそと去ろうとするアーネスの襟首を、アトはひっつかんだ。
「ちょっと待って。お得意様じゃない。どうしてそう避けるの」
考えればさっきからこそこそとしたアーネスの動きはおかしい。関わってほしくないという雰囲気が見えている。アトはそういった雰囲気には敏感だ。すぐに分かる。
「分かった。分かった、分かったから離せ……!」
どうも力が入ってしまったらしく、苦しそうにしていたのでアトは離した。だが、半眼になって睨むのは忘れない。知り合いにそんな風な態度を取られると、嫌な気分になるのは当たり前だ。抗議のためにも冷たい視線を送る。
まっすぐにその視線を受け、アーネスはひるんだ。ため息を吐いて図書館の床に座り込む。
「君は分からないかもしれないけどね、この<マルヴァ学院>では冒険者はちょっと敬遠されているんだよ。だから、知り合いだといか一緒に居るってところを見られると、周りからよくない噂が流れるんだよ」
アトの視線が極低温になっていく。
敬遠どころじゃない。下に見ている。アトと知り合いだからアーネスは言葉を選んだが、嫌な思想が垣間見えていた。
嫌いだ。そういう考え方。
「アーネスだって、あの男の冒険者さんと知り合いじゃない。なのに、そんなこと言うの?」
思わずぽろりと出てしまった。
ハッとした顔になって、アーネスが立ち上がる。アトに詰め寄った。
「どこで、それを……!?」
「あ……、その……、いや……!」
やってしまった!
アトは全身がひやりとするのを感じた。村のような雰囲気を感じて、つい、そのまま喋ってしまった。<過去視>でアトが視たことについては、アーネスは知らないはずなのだ。




