43話「すくーる おぶ まじっく ゆーざー」
アトは魔術師ギルドに来る時はいつも連れて行ってもらっていたので、こうやっていろんなところを歩くことはなかった。物珍しそうな視線をあちこちに向ける。どうやら<マルヴァ>の館に近い造りになっているのか、大きな建物の中にたくさんの部屋を詰め込んでいる。一つ一つがどうやら研究室になっているらしく、多くの人が出入りをしているのが見えた。
受付のお姉さんは魔術師ギルドの外へと出ると、敷地内の芝生を歩き出した。どうやら目の前に見える四角い建物が目的地らしい。中央都市でも珍しい大きな建造物にシアンの目が輝く。こういった大きな物が好きらしい。弐号くんもでっかいのはその影響だろうか。
建物前の芝生でたくさんの人が過ごしているのが見えた。公園に見えて大きく違うのは、その誰もが同じような服装をしているということと、どうもその年齢層が若いと言うことだ。デザインが同じ服はもしかすると魔術師ギルドの制服なのかもしれない。不思議に思うのは、街を歩いている時にはその服を見たことがないからだ。
芝生を横切るこちら三人を、他の人達が不思議そうな視線で眺めて来る。ここでは制服を着ていないこちらの方が異分子なのだ。アトは居心地の悪い思いを味わった。せめて何か会話をして紛らわそうと、お姉さんに呼びかける。
「あ、あの。今向かっているのってアノ建物なんですよね?」
「そうですね。あれは魔術師ギルドにおける若年層の学び舎です」
<魔術師ギルドの学び舎>。
なるほど。アトは納得した。どおりで若い子達が多いわけだ。制服もここで学んでいることを示すためのものだろう。
「<魔術>の技能を持つ人物の家からは、同じく<魔術>の技能を持つ人が出ることが多いのです。そのため、若い内から<魔術>持ちだと判明することも少なくありません。“遺伝”というやつですね」
「“遺伝”……」
ヨサ叔父さんも遺伝による<魔術>なのかな。アトは父親の父にあたる祖父と祖母について思いをめぐらせる。アトが産まれる前に亡くなったと聞いていた。<魔術>が遺伝するなら、もしかするとこの学び舎に通っていたのはアトだったかもしれない。
「<魔術>は強大な力です。その運用を間違っては甚大な被害を出してしまいます。その分別を身に付けるためと、その力を磨くためにこの学び舎があるのです」
お姉さんはそのことを誇りに感じている顔で語る。確かに<魔術>というのはすごい力だ。戦闘力で言えば何もないところから様々な現象を生み出し敵を攻撃することができる。武器を持つ者相手でも、遠距離から一方的に倒すことができる。
その一方で生活にも多く活用できるのも素晴らしい。炎は街の灯りとなり、水は生活用水として使える。風車を回したりすることで粉を挽くこともできるそうだ。
アトの<物体操作>も運搬とかに役に立つ。そのあたりは自慢に思ってもいいのかもしれない。そう考えることでアトは自分の自信を取り戻した。
そんなことをしているうちに三人は<魔術師ギルドの学び舎>に辿り着いた。内部は魔術師ギルドと同じような造りをしている。違うのは部屋の中には机と椅子が多く配置されており、勉学をするために適した環境になっているということだろう。アトとそう変わらない年齢の者達が、
アトはヨサ叔父さんにいろいろなことを教えてもらったときのことを思い出した。椅子に座り、机に向かって文字を書いたり、歴史を習ったりだ。一人で生活するなら読み書きくらいは身に付けたほうがいいと机の前に立ちながら教師役をしてくれたのだ。
気が付けばお姉さんが歩みを止めていた。ぶつかりそうになってあわてて足を止める。どうやら目的地に着いたらしい。
「到着しました。ヨサ様はお忙しい方なので、できるかぎりご用事は速く済ませて下さいね」
「分かりました」
「そ、れ、と! 次からはきちんとアポイントを取ってください。困るんですからね、ホント!」
「す、すみません。案内、ありがとうございました」
お姉さんは笑顔のままコワイ顔をするというすごい特技を見せつけながら、去っていった。
悪いことをしたなあと思うものの、いつまでもそうしていられない。気持ちを切り替えることにする。
どうやら辿り着いたのは本の貯蔵庫らしい。プレートには『図書室』と記されていた。
扉を開けて中に入ると、部屋中を迷路のように埋め尽くす本棚が目に入った。どの本棚にもぎゅうぎゅうに本が詰められている。そのことにアトは驚いた。アトの住んでいた村でも本はそれなりに手に入ったが、これだけ集まっているのを見ると圧倒される。すん、とアトの鼻に紙とインクの匂いが香ってきた。
「すごいね、シアン。……シアン?」
振り返ると誰もいなかった。
シアンは忽然と姿を消していたのだ。いつ離れたのか全くわからない。それほどの隠密ぶりで消えてしまった。絶対本を読みにいったに違いない。
シアンならやりそうだと納得してしまったアトの負けなのだろうか。とりあえず一人でも話を進めることにして、アトは図書室を探索し始めた。
どうやら三つほどの部屋をぶち抜いて設計されているらしい。奥行きがとても広い図書館になっていた。迷路のような本棚を進むうちに、ひらけたエリアに出た。生徒たちが勉強をするエリアらしい。大きな机を囲むようにいくつもの椅子が設置されている。
そこにヨサ叔父さんは居た。
多くの生徒に囲まれて何かをしゃべっている。アトが話しかける前にヨサ叔父さんの方が気付いてくれた。驚いた顔をした後、周りの生徒たちに何かを呼びかけた。
「よっし、お前ら! 少し自習だ。この辺の文献読み漁って頭に叩き込んでおけ。一文字たりとも小さい脳味噌の外へ逃がすなよ。知識は、すぐにどっかいこうとしやがるからな!」
「「は~~~い!!」」
ヨサ叔父さんは野良犬でも追い払うかのように手を振ると、生徒たちが一斉に散っていった。その後を見届けもせず、アトの方へと歩いて来る。




