42話「ぎるど おぶ まじっく ゆーざー」
中央都市の中央に冒険者ギルドが存在にするのに対し、南東部に居を構えるのが魔術師ギルドだ。居を構えると言ったが、大きな建物と言ったレベルではない。中央都市の一画がまるまる魔術師ギルドのエリアとなっているのだ。これだけでもわかるようにこの街でかなりの発言権を持っていると言えるだろう。中央都市から出る門も設置されているのだ。魔術師ギルドの構成員が優先的に使うことのできる出入り口まで押さえているとなればその権威もわかるだろう。この一画のことを通称“魔術師区”と中央都市の住民は読んでいた。
アトとシアンはその魔術師区の前に立っていた。何も検問があるわけでもない、目の前の通りを越えると魔術師ギルド管理下の区画に入るというだけだ。目の前のに雑貨屋があるが、商業区画のものと何ら変わりはない。何か怪し気な光や炎が乱舞しているなどと言う光景はなかった。
「ええと、魔術師ギルドに行ったら、まずは私が話すから、シアンは静かにしていて」
「まずは作戦そのいちということだね?」
二人は魔術師ギルドの建物がある場所に向かってあるき出す。実は何回か来た道なのでアトは知っている。その迷宮の所在までは知らないが。
「それにしても、君にコネがあるなんて知らなかったよ。実はとても高貴な家のお嬢様だったり?」
「そんなことないよ。うちはただの農家。叔父さんがうちの家系では特殊な方だと思う。突然変異というか。ちょっと……ううん、かなり変な人なんだけど」
「魔術師ってそういうものだろうさ」
路地をいくつか進む内に、ひときわ立派で高い壁にあたる。これが魔術師ギルドを囲む壁だ。この壁に沿ってしばらく進むと入り口が見えてくる。
六角形の門柱は高く、杖を持つ男性と杖を持つ女性がそれぞれ彫り込まれていた。どちらも今にも動き出しそうなほど精緻な出来だ。門番などはおらず、誰もが入れるようになっていた。今も黒いハーフマントを着た集団が入っていくのが見えた。その後について二人も敷地内へと入っていく。
「へぇ。けっこう近代的な建物じゃないか。すごいもんだ」
「シアン、どんなのだと思ってたの?」
「洞窟や穴ぐらのようなところに葉っぱの屋根だと思っていたんだが。これは認識を改めねばならないね」
アトはじとっとした視線をシアンに向けた。シアンはおどけた表情で舌を出した。冗談で言っていたらしい。一体何をもってそんな建物があると思ったのか。
魔術師ギルド本部の扉を開けると、そこはエントランスホールとなっていた。二階に続く階段などは<マルヴァの館>のボス部屋と似た雰囲気をしている。エントランスからつながる廊下の数がかなり多いところは違っているが。この廊下との接続の多さは、まるでいくつもの脇道がある洞窟のようだ。
エントランスホールの真ん中には、円形のカウンターが設置してあった。そのカウンターに制服を着た受付らしき人物が何人も座っていて、外来客とやりとりをしているようだった。雰囲気としては冒険者ギルドと似ている気がする。受付を待つ人も多く存在した。壁際の椅子に座って自分の順番がくるのを待っている。
さっそくアトとシアンも順番待ちの列に並んだ。待つことしばらく、ようやく順番が回ってくる。カウンターでは青色の髪をショートへアにしたお姉さんがにこやかに微笑んでいた。
「魔術師ギルドへようこそ。当ギルドに何をお望みでしょうか?」
アトが口を開く前に、シアンが前に出た。
「ボク達二人は魔術師ギルドに加入したいのだ。どうすれば加入することができるのか教えてくれないか?」
アトは用意していたセリフが吹っ飛んだ。そんな予定だっけ?
動揺しているのはアトだけで、シアンは堂々と立っている。初めからその用事で来たかのように。
「お客様は<魔術>の技能をお持ちでしょうか。そうでしたらすぐに手続きに入りますよ?」
「いや、ボク達は<魔術>は持ってないんだ。それでも、入りたいんだけど、できるかな?」
受付のお姉さんは可愛らしく困った顔になった。どうやるんだろう、その顔。
「<魔術>の技能が恒久的に使えるのであれば、お客様自身に技能がなくとも問題ありません。そのような魔導具はお持ちでしょうか?」
アトとシアンは顔を見合わせた。<魔術>を持っていなければ駄目だと思っていたが、実際は違うらしい。今はそういった物を持ってないが、突破の糸口になるかもしれない。アトは心のメモに書きつけておく。
「残念だ。ボク達はどちらも条件を満たしていないらしい。諦めるとするよ」
シアンが芝居がかった様子で肩をすくめた。後ろにさがるとアトに見せ場を譲ることにしたらしい。
背中を押され、いきなりカウンターの前に出されたアトは頭の中が真っ白になった。何とか数回深呼吸し、気持ちを落ち着かせると考えてきたセリフを思い出せるようになった。
「私はアトと言います。魔導士ヨサを呼び出してほしいのですが」
「ヨサ様ですか? 魔導士様との面会となりますと、スケジュールを調整しますのでまた一週間後あたりに訪問していただければ……」
「いえ、すぐに会いたいんです」
一瞬だけ受付のお姉さんの視線が鋭くなった気がした。見間違いかと思って瞬きした時には、すでに満点の微笑になっていた。
「失礼ですが、魔導士様との関係と、どのようなご用件かを伺ってもよろしいでしょうか?」
「私はヨサの姪です。ちょっと、家族のことで……」
「……少々お待ちください」
受付のお姉さんは立ち上がると、カウンターから出てくる。そのまま廊下の一つへと消えていった。
どれくらい時間が経っただろう。不思議そうな表情をしながら、お姉さんが戻ってきた。アトとシアンのところへ戻るまでに表情はいつもの笑顔に戻ったが。
「どうぞ。こちらへ」
受付のお姉さんが二人を案内するように廊下の先を指し示した。そのまま先行して歩き始めたお姉さんを追って、アトとシアンは魔術師ギルドの廊下を進み始めた。




