41話「いんぽっしぶる くえすと?」
「アト様とシアン様を対象に、規定クエストが解放されました。これをクリアすることで冒険者ライセンスを昇級させることができます」
いつもの冒険者ギルドのカウンター。そこでアンセスが二人に告げた。
アトが昇級をしたいということを告げてからしばらく経っていた。やはり急に昇級なんて難しいのかと半ばあきらめて毎日の依頼をしっかりこなしていたのだが、これはチャンスだ。
アトは自分の装備を思い出す。武器も防具も慎重している。技能もあれから伸ばしている。自分の可能性を試してみたいという気持ちが浮き上がってきた。
舞い上がっていたアトの耳に、冷静なシアンの声が響いた。
「どうした、専属受付員くん。良いニュースの割りには顔色がすぐれないじゃないか」
アトは言われるまで気付いていなかったが、アンセスの表情は暗い。規定クエスト解放なんていうすごいことをやってのけたのだ。嬉しそうな顔や自慢気な顔をしていてもおかしくはない。
「何か気になることがあるの? ものすごく強い敵が出るとか、私達の持つ技術的に不可能だとか、未踏破迷宮とか?」
「……いえ。この規定クエスト自体は定められた昇級クエストの一つで、お二人なら問題はありません。クエストは【<アディリン魔術洞>の清掃】です。文字通りとある迷宮の内部を清掃していただきます」
「清掃って、ゴミが落ちているの?」
「ええ。ポーションの空き瓶や、破損した装備品。ゴミではありませんが、一番つらいものであるなら、亡くなられた冒険者の亡骸などを回収します。迷宮は迷路などではなく、また、第一階層のみの清掃となります」
「じゃあ、大丈夫じゃない? 人の……死体、なら、慣れたとは言わないけど、こなして見せるよ」
ゴミの運搬ならばアトとシアンではお手の物だ、通常は難しいと思われる重量や大きさのものでも運ぶ自信はある。もしかすると、アンセスがアト達が得意なクエストを取ってきてくれたのかもしれない。
「いえ、大きな問題があるのです」
ふう、とアンセスは深く息をついて、口を開いた。身を乗り出すと、声を潜める。
「今回の規定クエスト解放は、お二人の昇級スピードで言うと異例です」
「う、うん」
「なので、私の方で調べてみたのですが、この【依頼】がお二人に解放されるはずがないのです」
アンセスの眉間にしわがよる。近くに寄るように手振りで示され、アトとシアンはカウンターに身を寄せた。アンセスが声を潜めて続ける。
「<アディリン魔術洞>という迷宮は特殊な迷宮です。<マルヴァの館>や<ドゥオール迷壁>のように中央都市内に存在するものです。なので、モンスターの難度や攻略の危険度は高くはないのですが……」
「難度が高くないならいいじゃないか」
「いえ、そうではありません。<アディリン魔術洞>は、魔術師ギルドの内部に存在し、内部に入れるのは魔術師ギルド員だけなのです。内部に魔術師ギルドの秘宝があるとかいう理由でして……」
「冒険者ギルドの依頼ってことで、ちょっと入らせてもらうとかはできない?」
アト達がやるのはただの清掃なのだ。秘宝を盗もうとしているわけではない。
「魔術師ギルド側からの依頼があればいいのですが……」
「つまり、魔術師ギルド側の依頼がくるまで待つしかないわけだね。受付員くん、依頼の頻度はどれくらいだい?」
「前回の依頼はおよそ半年前ですね……。あまり頻度が高いとは言えません」
魔術師ギルドはその名の通り魔術師同士が連携し、助け合い、その技能を伸ばすための機関だ。そこで研究し開発された様々な魔術道具は生活を向上させたり、戦力を増強させたりと様々な用途で使われている。先日エンキがイドラの強さを看破した道具もおそらく魔術道具だろう。
魔術師ギルド員になるためには、大前提として<魔術>の技能を持っていることが必須となる。<魔術>の技能はそれこそ生まれつきだ。生まれた当初に身に付いていなければ、後から身に付けた事例はほとんどないと言う。
「ふむ……」
シアンが腕組みをして考え込んだ。確かにこれでは無理だ。シアンもアトも<魔術>の技能を持っていない。そもそもクエストをクリアさせる気がないのじゃないかと思ってしまう。
シアンがやがて悪い笑みを浮かべた。これはダメなやつだ。今までの経験上そう感じる。
「では残る手段は二つだね。作戦そのいち、コネか何かで魔術師ギルドの人に入れてもらう」
「それで、もうひとつは?」
「決まってるじゃないか、アト。作戦そのに、こっそり侵入する。さあ、好きな方を選ぶといい」
「依頼が来るまでいましばらく待っておくっていう選択肢はないのね?」
アトは思わず顔を覆うが、シアンはどうやらこの依頼に好奇心を刺激されたらしく、やる気をみなぎらせていた。




