36話「まねー やーにんぐ」
現在の状態では【資材採取】も難しい。やはり【依頼達成】を中心に仕事をするべきだろう。
アンセスに揃えてもらった依頼のうち、できそうなものをかたっぱしから当たることにした。
宿屋の清掃【依頼】。
とある宿屋の清掃作業だ。人のよさそうな宿の主である夫婦によるとひと月に一回はしているという。まずは宿の中にある寝台から何からを運び出し、床や壁を清掃していく。初めは女二人ということで驚かれたが、丁寧に掃除すると最後には喜んでくれた。アトはこういった掃除は嫌いではない、手を抜くことなく便所まで仕上げた。シアンは嫌がるかと思いきや、掃除の工程を組み立てることに闘志を燃やしいてた。その流れに従って白衣が真っ黒になるまで掃除を続けていたのが驚きだ。
商業ギルドの物品運搬【依頼】。
今回は中央都市内にある武器屋さんが打った武器をとある邸宅に運ぶ内容だった。商業ギルドによって売買が成立しているので運搬するだけらしい。かなりの重量の木箱で、中身は大量の剣や槍が詰められていた。大変かと思いきや、馬車が貸し出されるので積み下ろしの時に苦労するのだが、そこはアトの<物体操作>で持ち上げて運搬した。
古い家屋の撤去【依頼】。
誰も住まなくなったために老朽化した家屋が倒壊したということで、その瓦礫を撤去するらしい。私達だけでなく、他にも数名の冒険者が雇われていると聞いた。
手が傷つかないように厚手の手袋を用意してアトとシアンは現場に向かう。
現場に辿り着くと、大工の棟梁らしいおじさんがアトとシアンをじろじろと見てきた。親方はこちらが細い女子二名だと思ったのか、失望したように軽く鼻で笑う。
シアンが無表情のまま前に出た。
「ボク達も解体依頼の手伝いをする依頼を受けてきた。貴方が責任者ということでいいのかな?」
「ああ、その通りだ。だがなぁ……。遊びじゃねえんだ、怪我してもこっちは責任持たねえぞ? それに、依頼料は撤去作業の作業量で山分けだ。あとになって泣きつかれても困るんだがよぅ?」
親方はぼりぼりとほほを掻いた。
それを聞いてシアンは少しの間考え込んだ。傷ついたかのようにシアンは俯いてしまう。
「そうだったのか……。それは知らなかった」
「頼むぜ? まあ、オレも公平に扱わなきゃならんしな」
そう言うと親方はすぐに瓦礫の山の方へと歩いていってしまう。こちらに全く期待してないのが丸わかりの態度だ。あとには俯いたシアンが残される。
「ええと、シアン? まあ、私達ができる限りのことをやろ……うッ!?」
俯いていたシアンがアトへ振り返る。その顔は非情に悪い顔をしていた。にやりじゃない、ニタリという悪魔の笑みだ。何かよからぬことを思い付いたらしい。
シアンは親方の真後ろに立つと、豊かな胸を張る。圧倒的な魔力投射にぐわんと世界が揺れた気がした。
「危ないから離れていたまえ冒険者諸君! さあ、一気に撤去してしまおうか!! <機巧兵創造>!!」
ゴーレムを形作るのは素材の量と流す魔力だ。瓦礫が複雑な動きをしながら浮き上がり、組み合わさっていく。これまで見た弐号くんより大きいのはレベルアップしたシアンの魔力が上昇したからだろうか。
大きな瓦礫ゴーレムは力を自慢するようにポージングを取った。これほど撤去するのに向いた技能もあるまい。瓦礫が自分で移動するのだ。
見れば親方がぽかんとした表情で見ていた。解体用のシャベルやツルハシを持つ他の冒険者も同様の表情をしていた。心の中で謝るしかなかった。
個人的な作業の補助【依頼】。
「それで、今日はどんな依頼?」
「ふむ……。個人的な作業とあるがどうやら力仕事らしい。レベル4以上の冒険者を求む、らしい」
シアンがアンセスから受け取ったクエスト用紙の写しを広げて見る。目的地まで簡素な地図入りだ。しかし、個人的な作業で力仕事ってどんなことだろうか。アトは家具の移動、重い物の運搬といったあたりを見当づける。もしかするとこの前の依頼のように掃除かもしれない。とにかく行ってみないことには分からない。
地図を頼りに辿り着いた場所は、路地裏にある家屋だった。簡素な石壁、屋根は薄い板で造りは荒い。路地裏にあるということを踏まえても、あまりよさそうなところに思えない。
思わずシアンと顔を見合わせた。まさかとは思うが、いかがわしい依頼なのだろうか。ちょっとほほが引きつる。
とにかく、ノックしてみないことには始まらない。アトは扉の前に立つ。少し期待したが、【接合点】は見えない。
アトは冒険者ライセンスを手に取った。もしもの時には、イドラを召喚すれば大丈夫のはずだ。アトは意を決した。大きく息を吸って、扉をノックする。強く叩きすぎて、ちょっとへこんだ気がするけど。
「すみません! ええと、手伝いに来た者ですけど!!」
がちゃがちゃと鍵が外される音がしたかと思うと扉が開いた。ほんの少しだけ。
まるで幽霊のように、扉の隙間から血走った眼が覗いていた。
「ひっ……!」
「ほう……!」
どうしてシアンは嬉しそうなんだろう。アトは出かけた悲鳴を吞み込んだ。
ぎぎぎぎい、と扉がゆっくり開いていく。そこには、ぼさぼさの髪の毛で、不健康そうな隈を目の下に作った青年が立っていた。




