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35話「ふぁしりてぃ ふぉあ きゅあ」

 気が付けばアトは<アズースの石切り場>の外へと飛ばされていた。アトの姿しかない。傷ついた体を癒すためにイドラは粒子体となって消えていた。

 振り返れば迷宮(ダンジョン)の入り口たる扉は見当たらない。ドンツや石工さん達の姿も見えないことから、どうも違うところに出てしまったらしい。彼らが助かったのかどうかは気になるが、ここはネフェルの話を信じるしかない。

 アト自身の傷も深い。今は低位ポーションで無理矢理おさえているが、早めに治療できる街まで戻る必要があった。

 気になることはあるけれど、アトはひとまず中央都市(セントレア)に戻ることにした。



 アトは自分の宿屋で目が覚めた。

 体を起こしたアトは、腕を回して自分の体に異常が残っていないことを確かめる。その体は快復していた。傷痕一つ残っていない。


「治療院ってすごいなあ……」


 中央都市(セントレア)に戻ってきたあと、アトは治療院と呼ばれる場所に通っていた。傷や病気、呪いなどの治癒を行う施設だ。

 傷の度合いによって治療にかかる金銭が変わってくるが、こういった外傷程度ならアトの手持ちのお金から払うことができる。

 治療と言っても難しいことではない。専門の診察医が居るというわけでない。男女に分かれて、専用の入浴衣を着て、泉のようなところで水に浸かるだけなのだ。それだけで傷がふさがっていく。

 水は透明に近い緑色をしているのだが、これってまさかポーションに浸かっているんじゃないだろうか。入浴衣がものすごく防御力が低くて、ちょっと気恥ずかしいくらいだ。

 治療院には様々な人が治療に来ていた。筋肉の付き方からして冒険者であろう人たちや、毎日のツライ仕事で体を痛めた人達だ。角と尻尾が生えている人や、髪の毛から木の枝が生えている人なども入りに来ていた。アトはその人達の一部分を凝視し、自分の同じ部分を確認し、世界に絶望したがそのあたりは割愛する。


「とにかく一度冒険者ギルドに顔を出そうかな」


 アトは呟いた。

 壊れた装備のメンテナンスはまだ済んでいないのだ。治療のためにお金を使ったので、そこまで手が回っていない。特に壊れた直剣は修理できるのか疑問だ。あそこまでボロボロにしたのだ。怒られるのが怖くてあの武器屋にはまだ持ち込んでいない。


 冒険者ギルドに行けば、アンセスなら何か武器が無くてもできるクエストを斡旋してくれるはずだ。


 冒険者ギルドの二階はいつもの賑わいを見せていた。いや、いつもより賑わっていると言うべきか。なんだかざわめている雰囲気を感じる。アトは受付のカウンターにアンセスとシアンの姿を認めた。


「おや、アトじゃないか。久しぶりにその顔を見た気がするよ」


「うん、シアン。久しぶり。それにしてもなんだかざわついているみたいだけどどうしたの?」


 確かに前にシアンと別れてから一週間は経っている。確かに久しぶりだ。


「<アズースの石切り場>という迷宮(ダンジョン)を知っているな? どうもそこで異常事態が起きたらしい。冒険者ギルドは迷宮(ダンジョン)を封鎖する決定を下したそうだ。そのためのざわつきだな」


「確かアト様も<アズースの石切り場>に行かれていましたよね? 何があったかご存じですか?」


 アトは一瞬考えこんだ。あの一面に広がる砂の光景のことを、誰が信じてくれるというのだろう。ネフェルの玉座。“ナユ”の腕。そして過去を視る“ウシュタ”の翼。アト自身も整理しきれていないのだ。何を話すと言うのだろう。


「<アズースの石切り場>で崩落事故があってね。どうも迷宮(ダンジョン)の壁に穴が空いちゃったみたい。それで迷宮(ダンジョン)自体に不具合が出たらしいの」


 とりあえずアトはわかりやすい部分だけ話すことにした。後々必要があれば詳しいところも話すだろう。

 アトは石工さん達との出会い、迷宮(ダンジョン)で“石蛇(ストーンサーペント)”に出会ったことと“石大蠍(ストーンスコルピオ)”を撃破して脱出したことを説明した。


 口を開いたまま固まっているのはアンセスだ。信じられないようなものを見る視線を向けてくる。


「ボ、ボスモンスターまで撃破して戻って来たんですか!? 緑ランクで出来ることじゃないですよ!」


「ボクも驚いたが……、森の彼がいるならば不可能ではないね?」


「あ、うん。イドラがだいぶ頑張ってくれた。そうじゃなかったらいくつ命があっても足りなかったと思う」


 そう言って従魔のページを開いてカウンターに置く。それを見たアンセスの動きが硬直した。呼びかけてもつついても戻ってこない。あまりのショックにスタンしているらしい。


「な、な、な、なんです、これは!? でたらめだ!」


「従魔を手に入れたって前に報告したかと思うけど、急にどうしたの?」


「ボスモンスターを倒して、出現モンスターを従魔にしていたと思っていたのです! 誰がボス級のモンスターを従魔にしていると考えるんですか!?」


 カウンターに噛み付く勢いでアンセスは身を乗り出していた。アトは思わず引いてしまう。

 どうやら前回の報告の時に大きく顛末は話していたのだが、カン違いしていたらしい。それほど非常識なことなのかとアトは理解することにした。


「うるさいよ専属受付員くん。ありえないことだと思うのならもう少し声を潜めたまえ。受け持ちの冒険者の秘密は、専属だからこそ明かされてるのではないかな?」


「うぐっ!」


「それで、アトもクエストを受けに来たのかい? よかったらボクも付き合おう」


「あ、うん。ありがとうシアン。でも、今回は戦闘とかはしないクエストを受けようと思って」


「ほう?」


 訝し気な視線を向けてくるシアンに、アトは自分の武器を見せた。ボロボロになっている直剣を見て、シアンは納得した顔になる。


「確かにそれでは戦闘は無理だね。さあ、専属受付員くん。戦闘以外のクエストを紹介してくれないか?」

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